つかの間の休暇・・・ガイエスブルク前夜
by.うさこさん
 「おい、今日は官舎に戻る事にした」
 ガイエスブルク要塞のワープ実験を前にして、一時的にオーディンに帰還し、経過報告を行う為、帝国軍最高司令官、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥閣下の元に出頭したケンプ大将閣下は、シャトルに戻って来られるなり、私にそう告げられた。大将閣下が元帥閣下に報告をなさった後、私達はすぐに要塞に戻る予定になっていたが、予定を急に変更されたのは、ローエングラム元帥閣下からのご配慮の為らしい。
 「どうせ、要塞をワープさせたら、いつ戻れるか分からん。俺が家族に数ヶ月も会っていないのを誰に聞かれたのか、元帥閣下ご自身から、せっかく帰ったのだから、一晩だけでも家族に会って来い・・・と、熱心に勧められてな。さすがに恐縮したぞ。それに、今日は朝からこの雨だ。・・・済まんが、官舎まで送ってもらえるか、ルビッチ」
 雨は昨日から降り続いているらしい。ひどい雨で、全くやむ気配がない。
 「はい。では、すぐに官舎に送らせていただきます」
 「・・・あぁ、済まんな」
 私は元帥府で公用の地上車<ランド・カー>を借り、自らの運転で閣下の官舎へと向かった。
 途中、後部座席の閣下が急に、車内通信機で「止めてくれ」とおっしゃり、驚いた私は慌てて減速。たまたま近くの空き地へと車を滑り込ませた。
 「・・・お具合でも・・・」
 私が恐る恐る呼びかけると、閣下は「・・・そうじゃない」とおっしゃられた。
 「・・・帰ると言っても、今晩だけだ。明朝にはまた家族を置いて出発だし、いつ、また会えるか分からん状況だ。そこで、子供達に土産を・・・と思うんだが、こういう場合、卿なら何にする?」
 「そうですね・・・。無難なところでお菓子で、あとは玩具の類といったところでしょうか」
 「・・・菓子は無難だが、食ったらなくなって、ありがたみに欠ける。それに市販品は砂糖の量や着色料で、虫歯になったり、健康に悪そうだ。しかも、菓子のせいで腹が膨れて、ちゃんと食事をしなくなったりするから、やめた方がいいかもな・・・」
 「はぁ・・・」
 これはきっと、閣下流のユーモアのおつもりなのだろうが、私には何とも言えない。
 「あとは玩具か・・・。おい、卿は、今、子供の間で人気の玩具を知っているか?」
 「・・・いいえ」
 立体テレビ<ソリビジョン>を見れば子供の流行を知る事も出来るが、我々にそんな暇は全くない。
 「あの・・・閣下のお子さん達は、幾つぐらいなのですか?」
 これは肝心な事だった。
 「・・・ん?あぁ、済まん。卿には言っていなかったな。8歳と5歳の男の子だ」
 「あくまで小官の意見ですが、そのぐらいの年なら絵本は如何でしょう。小官は絵本が好きでした」
 「なるほど、絵本か・・・。それはいいかもしれんな。下手な玩具よりも教育にも役立つ・・・か」
 「ええ、小官はそう思います」
 「・・・で、この近くで絵本を売っているのは・・・」
 「アイヒヘルヒェン通りに、大きな本屋があります。絵本もあるはずですが・・・」
 「では、そこに行こう」
 車は空き地の中でUターンする。たまたま、反対車線には車がなかったので、上手く乗り入れる事が出来て、もと来た道を少し走って、目的の本屋に辿り着いた。雨も小振りになっていた。
 大型店で、地下に駐車場があり、そのまま店内に行ける仕組みになっている。私が後部のドアを開けると、閣下がゆっくりと降りられる。
 「・・・卿も一緒に来い」
 「小官もですか!?」
 「俺は絵本の事は分からんし、卿は副官だろう。とにかく、付き合ってもらうからな、ルビッチ」
 確かに私は副官だ。店主か店員に聞いたらどうですか・・・なんて言えないし、地上車の<ランド・カー>の中でただ待つ事も不可能だ。私は閣下の後に付いて店の奥の児童書のコーナーに行った。
 大型書店なので、児童書もかなりの冊数があった。
 「さて・・・と。どれがいいかな」
 すると、多分、店員から聞いたのだろう。奥の方から血相を変えた店主が飛んで来た。
 帝国軍大将が、児童書のコーナーに、自ら絵本を買いに来る事など、そうあるものではない。第一、自らという事は、「自分の子供」の為の買い物である事は明白である。
 「何をお探しでしょうか、閣下」
 店主は、如何にも人が良いのをアピールするかの如く、愛想笑いを浮かべている。
 「・・・子供への土産だ。我々だけで選ぶから、こちらの事は気にしないように」
 「でも、ここ最近の人気の絵本や、オススメの絵本のご紹介などを・・・」
 店主は更に愛想笑いを浮かべてその場に留まっていた。閣下が冷たく鋭い視線を向けても首を竦めるだけである。そこで私も店主を睨みつける。さすがにこれは効いたらしい。
 「・・・ごゆっくり、お探し下さいませ」
 顔面蒼白の店主は、慌てて頭を下げながら、そのまま引き下がって行った。
 「ふう・・・。あの調子じゃ、俺が一人だけだったら、あれこれ勧めようとずっと付きまとうつもりだったんだな。全く、卿がいて助かった。・・・なぁ、そうだろうが?」
 「はぁ・・・」
 同意を求められても答えようがなく、小さく頷くだけだった。私の様子に閣下は苦笑しておられる。
 「・・・ところで、卿は絵本を見てどう思う?沢山有り過ぎて、どれが良いのかさっぱりだ」
 「はぁ・・・。それが・・・。正直言いまして、大変驚いております」
 「ほう・・・?」
 「今日、ここに来て気付いたのですが、絵本には玩具のような流行はないんですね」
 「・・・どういう事だ?」
 「小官が子供の頃に読んだ本も、今大人気というキャッチ・コピーで未だに売れているようです。子供の好きな絵本は、意外と変化が少ないのかもしれません。この絵本も面白かったのを覚えています」
 私は、少し厚めの絵本を手にした。
 「どんな内容なんだ?」
 「いわゆる冒険物です。魔法の力を借りた少年が、お城の姫をさらった巨大クジラと闘ったり、岩山の三首の竜と闘うんです。絵がきれいで、魔法の力で翼が生えたり、海中で息が出来たり・・・と、ちょっと荒唐無稽ですが、子供には夢があった方がいいですし、最後のどんでん返しも面白いですよ」
 私が絵本を差し出すと、閣下は何ページか、パラパラと捲っておられた。
 「・・・絵は確かにきれいだな。・・・しかし、結構厚い。8歳の子供に読めると思うか?」
 「大丈夫でしょう。小官が読んだのも、その頃の事でしたから」
 「・・・そうか。じゃ、グスタフ・イザークの本はこれで決まり・・・だな。問題は下の坊主だが・・・。あれはまだ5歳で、漸く字が読めるようになったばかりなんだが」
 「・・・なるほど・・・。それは難しいですね」
 周りをざっと見たが、5歳児が自力で読める絵本を探すのは大変だった。20年以上も前の自分の記憶だけが頼りだったが、漸く、小さい頃に読んで面白かった絵本を見つけ、ホッとしながら手にした。
 「それならこれは如何でしょう。6歳くらいの時に必死に読みました。母にも良く読んでもらいました」
 「・・・面白いのか?」
 「面白いですよ。巣から落ちた鳥のヒナが自分の親を捜すという話です。犬や、ブタ、にわとり、ネズミに聞いたりして一生懸命に捜す姿がいいんです。・・・猫に聞いた時は食べられそうになるのですが。最後にやっと親に会えるのですが、これも絵が凄くきれいで、それこそ、何度も読みました」
 私が絵本を差し出すと、閣下はまた黙って受け取られ、ページを捲っておられた。
 「・・・なるほど、凄くきれいな絵だ。内容的にも悪くないし、字も大きくて読みやすいかもしれん。カール・フランツの本はこれにしよう」
 私の勧めた絵本を閣下が気に入ってくださった事が嬉しかった。閣下は2冊の絵本を店員に差し出し、プレゼント用の紙袋に入れてもらっておられた。
 私が絵本に詳しいのは子供の時から本好きだったからだ。両親は絵本を買わなかったが、家の近くに領主のディーゼル男爵が趣味で作って領民に開放した絵本図書館があり、そのお陰で辺境でも、絵本だけは高価な物から人気の物まで読めた。それだけは辺境であっても恵まれていたと思う。
 私と閣下は店を出て、地下駐車場に向かった。
 そして、ふと思ったのは、夫人に土産はないのか・・・という事だった。・・・それが表情に出たらしい。
 「・・・どうした。何か気にかかる事でもあるのか?」
 私はどう答えて良いものか、一瞬戸惑ったが、考えた事を正直に申し上げた。聞き終わった閣下は、私に顔をじっと見ておられたが、僅かに苦笑された。
 「・・・なるほど、妻への土産か。それは全く考えなかったな。うちのは俺が言うのもなんだが、結構良く出来た奴でな。俺の留守を子供達と一緒にしっかり守っている。・・・でも、見返りなんて絶対に要求しないし、第一、土産を持って帰ってもあまり喜ばないんだ」
 「・・・はぁ。喜ばないのですか?」
 私は思わず首を傾げた。
 「喜ばないと言うと少しが語弊があるんだが、要するに、喜ぶ、喜ばないは、当人の気持ち次第だな」
 「気持ち・・・ですか」
 「どう言えばいいかな。卿も結婚すれば分かるだろうが、土産なんかいらないんだ。あれに言わせればな、俺が元気で帰って来る事が一番の土産なんだとさ」
 私は一瞬、何の事やら・・・と、思ったが、すぐに閣下の「のろけ」だと気付いて、思わず赤面してしまった。閣下が意外にも、億面なくあっさりと言われたので、すぐに気付かなかったのだ。そう言えば、リップシュタット戦役後に私が閣下の副官を拝命した時に、フーセネガー中将から、閣下はかなりの愛妻家だ・・・と、聞かされていたのを思い出した。閣下は奥さんの実家に毎月仕送りをしているのだ。
 閣下が地上車<ランド・カー>に乗り込まれる。・・・・雨はやむ気配がなかった。
 「・・・全く、イヤな雨だな。・・・雨は気が滅入ってしょうがない」
 どうやら、閣下は雨がお嫌いのようだ。
 漸く、閣下の官舎に到着した時、時刻は午後7時をとっくに過ぎていた。
 「・・・済まんが、明朝、0800<マルハチマルマル>に迎えに来てくれ」
 小雨の中、地上車<ランド・カー>をゆっくり降りられながら閣下はおっしゃり、私は「承諾<ヤー>」と頷いた。


   翌日の午前7時20分。
 外で朝食を済ませ、ホテルの地下駐車場から地上車<ランド・カー>を出して表に止めたままでロビーに行くと、今回の随員の一人の新米士官のブルック少尉が、既にロビーの長椅子で待っていた。
 「大尉どの、おはようございます!」
 ブルック少尉のやたらと威勢の良い声と敬礼に苦笑しながら、私も敬礼を返した。
 私は地上車<ランド・カー>が外にある旨を伝えて、少尉をホテルから連れ出した。
 ブルック少尉が運転席に、私が助手席だ。
 貴族などの貴人、公人が乗る公用車の場合、人の手を借りた手動運転が主流だ。コンピュータ任せの運転が悪い訳ではない。無人タクシーや個人的な地上車<ランド・カー>なら何の問題もないが、貴族や公人を乗せる場合は機械任せは失礼なのだ。それに自動運転中は、天井ライト脇の小さな緑色のライトが点滅する為、自動か手動かがすぐに分かってしまうのだ。
 「ところで・・・卿は食事をしたのか?」
 「いえ・・・」
 どうやら、ブルック少尉は朝食を取っていないらしい。
 「・・・これ、食うか?」
 私はツヴィーベルブロートを取り出した。良い香りが車内いっぱいに広がる。
 「・・・良い香りですね」
 「食っている間は、オート・ドライブに切り替えておけよ」
 「はい!」
 余程、腹が減っていたのか、ブルック少尉は三切れのブロートをあっという間に食べきった。
 「大尉どの・・・。これ、本当に美味しいですね。手作りのようですが、もしかして恋人とか・・・」
 「卿は何か勘違いしていないか?これはホテルの近くのレストランのヤツだ。俺の故郷は凄い辺境惑星でね。・・・殆ど帰れないから家族的なものと縁遠いんだが、その店は懐かしさを感じてね。亡くなった息子さんが俺に似ているとかで、それこそ、新米時代から良くしてもらっているんだ」
 私の話を聞いていた少尉は、急に押し黙ってしまった。
 「・・・どうした?」
 「昨日、小官は実家に帰ったのですが、母に泣かれるのが嫌でホテルに泊まりました。・・・大尉どのは、どれぐらいご家族と会っていらっしゃらないのですか?」
 「どれぐらい・・・って。そうだな、従軍しては帰っていないから、かれこれ6年は会っていないな。・・・行くにも凄い辺境で、ちゃんとした定期便とかないんだよ」
 「じゃぁ、小官は恵まれているんですね。・・・実家がオーディン市内ですから、会おうと思えばいつでも会える訳で・・・」
 「そうだな。・・・おい、じきに閣下の官舎だぞ。・・・帰りの運転は手動にしろよ」
 結局行きは自動運転で、手動時より良い道を選んで走行するので、倍も時間がかかってしまった。


 7時50分をほんの少し過ぎて、何とかギリギリに閣下の官舎に到着した。私はブルック少尉を車内に残し、官舎の呼び鈴を押した。
 ケンプ夫人が姿を見せた。
 「おはようございます。小官は閣下の副官を拝命しております、ルビッチ大尉であります」
 「・・・すぐに呼んで参りますので、少々お待ちいただけますか」
 夫人が中に戻って暫くすると、閣下が出てこられた。二人の息子が長身の閣下に、精一杯の背伸びで、一生懸命に手を振っている。
 夫人は手振ってはいなかったが、私と目が合うと僅かに会釈をされた。その時、夫人の表情の中に一瞬だけだったが、悲しげな影があるのを私は読み取って、何ともいえない気分になった。


 「今日の運転はブルック少尉です、閣下」
 「ほう・・・それなら、卿は今日は後ろに乗れ」
 私は驚いたが、閣下に従うべきだと判断し、少尉に告げて後部座席に閣下と向かい合せに座った。
 手動運転の為か、少尉の運転技量が不味いのか、ただ単にぬかるんだ道が悪いだけなのか、私が辟易したのは、車窓にはね上げられた大量の泥だった。
 「・・・こんなに泥はねさせるなんて・・・」
 私は窓に張り付いた泥に思わす呟き、深い溜息を吐いた。おまけにこの泥、粘質タイプらしく、窓にベッタリ・・・なのだ。それにしても凄い泥はねだ。もしかしたら、少尉は運転が下手なのかもしれない。
 「・・・途中で、泥を拭いた方がいいようですね。・・・止めて拭いても宜しいでしょうか、閣下」
 いくら何でも、大将閣下が乗る公用車がこれではみっともない事甚だしい。今までの上官なら、ガミガミと怒り出しているところだ。私は、閣下もこの凄まじい状況に、ご機嫌を損ねていやしないかと、冷や汗をかいていたのだ。
 「・・・あぁ、このぬかった道を過ぎたらな。・・・今は何度拭いても無駄だろう。タイヤが取られないだけマシというものだ」
 「承諾<ヤー>」
 泥はねの度に拭いても埒が明かないという事か。閣下は意外と我慢強い方らしい。それにタイヤが取られないのは確かにマシだった。
 暫く走っていると、閣下が急に目を瞑られて胸を押さえられた為、一瞬、どこかお悪いのかと思った。
 「・・・あの、閣下・・・、お具合が悪いのですか?」
 「いや、どこも悪くないが。・・・どうしてそう思うのだ?」
 怪訝そうな表情である。
 「いえ、その・・・。胸を押さえていらっしゃるので・・・」
 私の言葉に閣下は苦笑され、私は何で笑っておられるのかさっぱりで、眉を顰<ひそ>めてしまう。
 「・・・なに、どうという事はないぞ。俺のラッキー・アイテムをここに入れてあるんでね」
 「はぁ、ラッキー・アイテムですか。・・・それは、あの・・・験かつぎみたいなものですか?」
 私の友人にも戦闘中は絶対に髭を剃らないとか、水晶や金等を身に付ける等、自分独自の験をかつぐ者がいる。私はそういうモノは身に付けないが、強いていえば、戦闘中、コーヒー断ちするくらいだ。
 「・・・あぁ、そうだ。これを身に付けて戦場に出ると必ず良い事が起こるんでな。今まで戦死しなかったのは、皆、こいつのお陰という訳だ。・・・まぁ、験かつぎと言えばそうなのだがな。・・見るか?」
 閣下が胸ポケットから取り出されたのは小さな一枚のスチール写真だった。今時、ホログラフィではない、紙焼きの写真とは珍しい。新聞や雑誌等の暫定的なモノは別だが、ライブラリ保存用の写真の殆どはディスクに収められたホログラフィが主流だ。
 懐古趣味の風流人や貴族ならカメラを持っているだろうが、私はそういうカメラを触った事もない。
 「・・・これは・・・。紙焼きの写真ですよね。さすがに今ではあまり見かけなくかりましたよね。カメラ自体も骨とう品でメチャクチャ高価ですし・・・。これはご家族のお写真ですか?」
 写真の中での夫人と二人の息子さんはにこやかだった。夫人が抱いているのは赤ん坊。もう一人の子は幼稚園児という感じだ。現在、閣下の息子さんは8歳と5歳だというから、かなり前の写真だろう。
 ・・・幸せな家族の風景だった。
 この写真を写されたのは、閣下ご自身だろうか・・・。
 どちらにせよ、閣下はこれをいつも持ち歩かれているのだ。フーセネガー中将の言葉通り、閣下は愛妻家だと言う訳だ。
 「なぁ、卿は結婚は・・・」
 あまりにも唐突な閣下の言葉。
 最初は何を言われたのか読めず、ポカンとしてしまった。が、私に対してだと気付いた時、何をどう言えばいいのか戸惑った。ハッキリ言って、緊張で身体中の血がガチガチに固まった・・・ような感じだ。
 私には恋人はいないし、最近、故郷<くに>の両親にすすめられた見合いの話でもしておこう・・・。
 「・・・それが・・・。故郷<くに>の両親は色々な話を持ってきまして。本当は忙しいのでそれどころではないと断っても断っても、全く聞いてもらえません。・・・そして、矢継ぎ早に話が来るので、堪ったものではないのです。実は小官は辺境惑星の出身なのですが、小官がその事でコンプレックスをもっているのではないかと考えているようで、両親はやたらと心配するのです。それで今回の戦いが終わったら、見合いをすることになりまして・・・。小官はまだ、結婚など早いと思っているのですが、両親にしてみたら、小官は遅く出来た子供だった為、自分と同じ人生を歩ませたくないというのが持論のようでして・・・。今回の見合いについては、親に押し切られた感があるんです・・・」
 私は心の中で苦笑した。実は朝立ち寄ったレストラン「新灯台<ノイエ・ロイヒトトゥルム>のマスターにも見合いの話をしたのだ。そして、閣下にも同じ事を話している。結婚は早いとか、断りきれないと言いながら、あちこちで「見合い」の事を話している時点で、既に「積極的」で、「前向き」ではないか・・・。
 「・・・そうか。それにしても、親というものは、どこでも同じなのだな。俺の場合もあれこれと煩かったぞ。見合いならまだ可愛いが、俺の場合は空戦隊だったから、いつ死んでもおかしくないと言って、どこの誰でもいいから子供を生ませておけとか言ってな・・・。孫が欲しかったんだろうが、母親のセリフとは思えなかったな。まぁ、これは冗談だが、出来るだけ親孝行はしておけよ。・・・大抵の場合は死んでから後悔するからな」
 「・・・はい、肝に銘じておきます」
 私は見るからにしゃちほこばっていて、閣下は苦笑されている。
 しかし、どこの誰でも・・・と、本当に母親が言ったのなら冗談にしても凄すぎる・・・。
 閣下はお疲れの様子だった。久々に家族と会うという大業の後で、プッツリと緊張の糸が切れてしまわれたのだろう。閣下は大きく深呼吸をされて、シートにもたれかかると瞳を閉じられた。シャトルが待つ、。オーディン郊外の宇宙港まではもう少しかかる。
 今度の戦いは一体どうなるのだろう?
 リップシュタット戦役当事、貴族連合軍のシュターデン提督の副官だった私が、今やケンプ大将閣下の副官となり、あの、血塗られたガイエスブルク要塞と共に、イゼルローン要塞へ向かう。・・・何か、途轍もない因縁を感じている。
 とにかく、ガイエスブルク要塞がイゼルローン要塞に匹敵する火力を持つ事だけは確かだ。勝って戻って来られたら、休暇を願い出て、見合いだろうが何だろうが、6年振りの故郷の土を踏もう。そして、士官学校の入学で世話になり、今でも領主であるディーゼル男爵にも会い、今までの礼を言おう。
 そんな事を考えながら、私は、窓の外を眺めた。
 ぬかるんだ道は過ぎたようだ。・・・一旦、車を停止させて、ブルック少尉と二人で窓を拭かねば・・・。


Das Ende



 ガイエスブルク要塞のワープ実験を前に、ラインハルトの特別な計らいで、家に戻る事になったケンプ提督。そのケンプを、副官のルビッチ大尉が送って行き、翌日また迎えに行く・・・という設定です。あくまで、ルビッチからみたケンプなので、ケンプが家族と会ってどうだったか・・・とかは、ここでは触れていません。(別の話で書きましたけど・・・)
 とにかく、このルビッチ大尉は、凄くマイナーで、ガイエスブルク要塞によるイゼルローン攻略戦以降、出る様子がありません。・・・閣下と共に戦死だろうな・・・と、勝手に考えています。フーセネガー中将は生き残りましたけどね。
 ・・・それ故に、どうしても、書いておきたかったんです、マイナーなルビッチ君を・・・!  

うさこさん