ムラサキポタージュ
by.椎名阿曇さん(絵)&とるかさん(文)
その日、ミュラー元帥は暖かい午後の日差しにどことなく上機嫌で
元帥府内のファーレンハイト艦隊執務室へと向かっていた。

それだけならとても平和な午後の情景だったのだが・・・。

のちに、とてもほほえましい位のこの時の彼の笑顔が、
後に終礼時まで疑問符に染まることになるとはとりあえず現在誰も知る由はなかった。

そもそもその事態に驚愕を示すものなどその区域にすでに存在しないのだけれど…。

「こんにちは、ファーレンハイト提督。」
こんこん、とノックして扉を開けてもらい、ミュラーは執務室に入った。
「なんだ、わざわざ卿が来てくれたのか。」
ファーレンハイト上級大将が作業の手を止め
元帥みずからすまんな、と挨拶を返すと、
新しく拝命したばかりの「元帥閣下」は照れくさそうに笑い、やんわりと応えた。
「いえ、お気になさらず。これを渡したら小休憩ですから、
このまま食堂へお茶に行こうかと思ってましたので。」
「そうか・・・。」

帝国と同盟、2つの勢力の長い長い戦火の歴史に一応の終止符が打たれ、
同盟と共存に近い体制に入ってからはとりあえず帝国は平穏に包まれていた。
無論軍人としての職務は山ほどある多忙な日々だが、生命が落とされる
数が激減したのは確かで。
そんな中ならばこそ少しの気のゆとりも生じて、小休止などもとれるのだろう。
これが出兵前などであったら目も回る忙しさだ。


「なにか修正、不明点がありましたら直接御連絡下さい。」
「わかった。」

退室しようとしたその時、ミュラーの鼻腔をなにやら芳しい花の芳香がかすめた。
「?」
それはだんだんと距離を近くし、それがファーレンハイトの副官の持つ
トレイの上のカップからのものとわかり、「それ」にふと目を向ける。

「おや、今日は従卒のあの子はお休みなんです・・・ね・・・?」
おかしい。
「はい、ですから今日は小官が。」
そういいつつファーレンハイトの机に置かれたカップからは
やはりフローラルな美香。
しかし、花系のハーブティと思ったそれは実に奇妙だった。

第一に・・・・・・・薄い紫色。パステル調とでも言わんばかりに。
しかもどろっとしたポタージュスープで。

・・・しかしフローラル。

「???」

なぜ見た目と香りがまったく繋がらないんだ?しかもここまで…。

見かけから中身を推測しようにも、運悪くミュラー元帥は
その原材料を耳にしたことがなくただ疑問に思うのみ。

入室してきた参謀長に声をかけられるまで
延々と考え込んでいたミュラーは、そろそろ戻らないと
せっかくの休み時間がなくなると執務室を後にした。

とりあえずそのまま退室した彼が詳しい事を知るのは、
これよりしばし時間が経ってからになった。
それでも味は不明のままだったが。

「ザンデルス、なんでこんな時間にムラサキイモのポタージュなんだ?」
「本日閣下は少々コーヒーを飲みすぎていらっしゃいますので、
一味変えてみました。」
「成る程。」(なんで花の香りがするのかは知らんが、美味い事は美味いな…。)

大小様々な疑問符はさておいて。
今日も執務室の午後はゆるやかに流れて行くのである…。



〜この作品に際して、御賞味上の諸注意〜

「ミュラー元帥他、なんだか皆動物ですがこの世界はこれが 当たり前です。普通にこれで執務。(笑)」(椎名)