ここにはないクーヘン ●選択ワード:ケーキ

 結局のところ己は何を失った訳でもないのだと思うたびに、シュナイダーの罪悪感は重みを増した。そう己は。
 去年のクリスマスも、ひとりで過ごした。どうしてそうなったのかは覚えていないが、きっと仕事が終わらなかったのだろう。更に以前になら勿論、友人達と騒ぎ倒した年も、恋人と過ごした事もある。それでも去年、それがなくても己は平気だったのだ。ああ、ほら見ろ。お前は何を失ってもいない。
 ショーウィンドウには、若い金髪の男が映っている。
 こちらへ来てから買ったセーターにコート、ブーツ。砕けたデザインが甘いマスクによく似合う。小雪ちらつくノエルの通りで、彼には何も、不自然なところがなかった。敢えて挙げるとすれば恋人を連れていないことくらいで。彼は顎を引く。鏡字のネオンサインも意識を凝らさなくとも読み取れるようになった。己はこの街で生きていける。そう、己は!
 クリスマスを浮かれて過ごすのは、年齢層的にいけばごく一部の人間だ。子供たちや夫婦は自宅で、あたたかい夜を作り上げる。緩やかな、祝祭の、二度とはない時間を。いまごろ上官はどうしているのだろう。
 憶測はすぐさま「ワインでも買って尋ねていったら迷惑だろうか」なる自問に摩り替わり、自分が随分と厚顔に思えてシュナイダーは紅潮した。馬鹿なことを考えるのはやめにしてさっさと帰ろう、と前を向きかけた時、ショーウィンドウに映りこむその人の姿が彼の目を刺した。
 振り返って確認すると、通り向こうを上官が歩いていた。彼は屈託を払い落とし、男の背後へ渡った。
「こんばんわ、閣下」
 メルカッツはゆっくりと振り返り、
「ああ、奇遇だな」
と、白い息を吐き出した。
「寒いですね。お買い物ですか」
「いつの間にか師走も24日だと気付いてな」
 持ち上げた買い物袋の中で、硝子のボトルが鳴った。
「アルコールだけなら、ちょうど買って行こうかと思ってたんですよ。言って下さればよかったのに」
「使い走りをさせる訳にもいかんよ」
「……まあ、そうでしょうけど」
 苦笑いを買って、シュナイダーは首を竦めた。自分がこの人のためにやりたいことは、至るところで摩擦を起こしている。軍の規範とも、上司の気質とも。望ましくないほどの忠誠。あるいは、望ましくない手合いの。亡命自体がそうなのだ。気まずいな、と俯きがちに眼を逸らしていると、視線の先を追ったらしきメルカッツが、
「ケーキも欲しいのか?」
と、声をかけた。シュナイダーは慌てて顔を上げ、
「え?」
「来るんだろう」
 どこに?部屋に行こうと思っていたと、自分で言ったじゃないか。降って湧いたような幸運だと、素直に喜ぶ事にした。
「いえ、あ――はい。でもケーキはいいです」
 店先を最後に一瞥し、上司を促して歩き始める。
「凝ったブッシュドノエルやショートケーキより、やっぱりクリスマスのケーキといえばシュトーレンですよね」
 シュトーレンは当日ではなく、クリスマスを待ちながら食べるお菓子だ。ナッツやドライフルーツを混ぜ込んだ、クセのある生地からじわりと沁み出す甘さ。じゃきじゃきと鳴る粉雪のような砂糖。結局見つけられないままにイブを迎えてしまったが、懐かしい。話の接ぎ穂のつもりで口にしたシュナイダーは、思いがけず郷愁が胸に染みて眉を顰めた。
 何かを失ったというなら、こんなどうでもいい事。例年なら気が向けば手にとるくらいの、細々した物の積み重ねだ。何かを失ったというなら、馴染んできた世界、己の文化をだった。
「そうだな」
 メルカッツは頷き、それから、聞かせてやろうか、と口を開いた。
「私の母は古風な女でね。私や兄弟が台所に入ると怒って、家事の手伝いなぞさせてくれなかった」
「それじゃ、士官学校に入った時は大変だったでしょう」
 シュナイダーはわざとふざけるような口調で聞いた。
「無論だとも。しかし例外があってな、シュトーレンだけは一緒に作ったんだ。あれは楽しかったな」
「…………」
 メルカッツはじっと聞き入っている副官を横目で睨んだ。
「だからといって、作ってくれとは言うなよ」
 シュナイダーは苦笑した。
「そこまで贅沢者じゃありませんよ」
 贅沢には違いないけれど、そこまでは望まない。こうして一緒に生きていられるだけで、十分なはずじゃないか。噛みしめるように内語しながら彼は、自分が甘やかされようとしているのに気付いて憮然となった。結局この人の前では、くちばしの青いひよっこで終わるんだろうか。
 雪を避ける仕草で手庇をつくり面を隠した。そのまま天を仰ぐ。結晶は果てしなく遠くから落下し続け、雲間の星は更に向こうで凍てついている。常に接近物を捕らえる視覚が生む浮遊感を、その距離感覚が拒否した。艦隊士官の理性が教える。あれは、決してたどり着けない場所だと。彼は浮遊感と拒絶の間で立ち竦み、眩暈さえ覚えた。まるで地の底にいるような気がした。

 それでも、十分すぎるほどの幸福だった。


意表をついて(るのか?)甘いキーワードから暗めのシュナイダーさんです。って、しょっぱなからすいません。亡命者も俯き気味な話も好きなんだけど、ここ暫く書けずにいたので私は楽しかったです(笑)とか言ってシュナキャンと同じオチ;;あぁ、あっちも読んでる方はすみません。ちなみに設定は797年=亡命して最初のクリスマスということで。




作為の空 ●選択ワード:雪

 この銀河の真っ只中にあって、星空さえも居住区ではスクリーンに映し出された絵に過ぎない。これほどまでに作為を重ねて作り上げられた生存空間の不自然が、人間を狂騒に駆り立てるのに違いないといえば、余りに感情的な逃避になるだろうか。

 イゼルローンの天候は、人為的に調整されたものだ。だったらここは、雪を降らせなくてどうする。降るはず。降らせるべきだ。アッテンボロー提督に言わせると、そういうことになるらしい。
 信念を持つのは勝手だが、たまたま近くで夕食を摂っていただけの人間まで説得しようとするのは――彼なりの新参者への気遣いかもしれなくて、つい嫌な顔をし損ねてしまった。
「去年はまだ掌握するべき所が多くて、そんな余裕無かったけどな」
 だから今年こそ、と分艦隊司令は居酒屋の間接照明の下で双眸を光らせた。独身主義を標榜する男がホワイトクリスマスに何の利益を受けるわけでもあるまいに、とシュナイダーは思った。が、もちろん口には出さない。
 亡命したのが9月。ハロウィンに散々遊ばれてから、この手合いにまで遠慮するのもだいぶ馬鹿馬鹿しくなったが、まだまだ様子見の期間だ、と彼は自分を戒めていた。
「遊ぶ気のある奴はどんなときだって遊ぶでしょう。前年度実績も無視できませんよ」
 反駁したのがイワン・コーネフ。
「なぁ、なんか俺嫌味言われてねぇ?」
「気のせいだろう」
 相棒をいなして、手元のクロスワードパズルに戻る。目を悪くしそうなのにな、とシュナイダーは思ったが、やっぱり何も言わなかった。
 アッテンボローはそうかな、と不満顔でごちた。
「気象局の子なら会う予定があるから、聞いてみましょうか」
 シェーンコップがカウンターから声をかけた。アッテンボローの答えて言うことには、
「どうせなら頼んで欲しい所なんだけど」
「おい、軍の人間がそれをやるとまずいぞ」
「キャゼルヌ先輩っ。やだな、ジョークですよ!」
 アッテンボローは今度は反対方向から飛んだ勧告に慌てて答え、飲みかけの酒瓶1本つかんで申し開きに出た。
 ポプランは半ば腰を浮かしてカウンターを振り返り、
「なぁ、どの子?」
「メアリ・ゴールドストン」
 色事師の張り合いが始まるのかと思いきや、ハートのエースは酔いの入った柔らかさで笑み崩れ、
「ああ、あの子、かわいいよなー。俺は気象部門ならアリスちゃんのが好みだけどー」
 会話はてんでに飛び回って、ちっとも一所に落ち着きそうにない。
「大尉、話についてきてる?」
「・・・・・・ヒアリングは、出来てると思います」
 ついていけるのが良いとばかりも、越境者たるシュナイダーには思えない。儀礼の微笑の下に疑念を読んで、コーネフは笑った。実に理性的人間的な態度だとでもいうような受容の表情で。
「おっけー、それじゃきっちり乗ってもらおうな」
 何時の間にやら話をつけたらしい男の手が、彼の肩に置かれた。
「え?少将?」
 アッテンボローは深く息を吸って、手中のコインをテーブルへと弾いた。
「俺は気象局員の遊び心に100」
「あ、俺も100!ホワイトクリスマスに!!」
「じゃあ、降らない方に200」
「降るに150だ」
 あんたも選べと突かれて、シュナイダーは分艦隊司令を振り仰いだ。
「あの、なんだってそんな事に賭るんですか?」
「そこにコインがあるからだ」
「・・・・・・」
 据わった眼を見返し、酔っ払いには逆らうまいと亡命者は思った。
「降らない方に100、で」
 ――大筋では。


 その日、外は切るように冷たい風が吹き渡っていた。ブロック1つ渡り終えないうちに、指先が赤くかじかむ。年内の食料を買い込み帰路を急いでいた彼は、思わず顔を顰めた。
 しかしこれだけ寒ければ、さぞかし星も冴え渡っている事だろう。自分がどこにいるのかすっかり忘れて頭上を仰いだ。作為の空は薄曇りである。ああ、雪が降るのだろうか。そんな思考が脳裏を過ぎった。


あの苦いケーキだけじゃあまりにあまりっぽくも思われたので、シュナイダーでもう1つ。キーワードかぶっちゃったけど、おまけだしいっかな〜。
しかし帝国臣民な私は、同盟の通貨単位も思い出せずに無理矢理誤魔化してます(爆)あの〜、ディナールってフェザーンですよね…?違った??
んで、アッテンボローの「冗談」発言の後には、聞くも頼むもaskだっていうのをひっかけたのだと、苦しい釈明が続く事を希望(をい)え、やつはもっとスマートな男ですか?アッテンは私、同盟人の内ではまだ比較的把握できてる方に入るはずなんだけどなー(笑)

あ、もう一本いけたら今度こそ本領の帝国、ミュラーかキスリングで!!




die verirrte Jungens ●選択ワード:繁華街のつもりだったけど、むしろイルミネーションっぽくも…(笑)

 窓枠に両手をつき、吹き込んでくる寒風と雪とを顔に受けながらキスリングは低く言った。
「おい、ばれたら事だぞ」
 見下ろす前庭では級友が笑って、
「「クリスマスだぜ」」
と、声を重ねた。ブロックハウスとラザースフェルト。気の合う奴等だなと半ば呆れていると、
「これくらいしなくてどうするんだ」
「教官たちだって甘く見てくれるさ」
 青年たちは暗がりの中で顔を見合わせた。
「お前……」
「駄目かな」
 異心同心という訳でもないらしい。ヘルトヴェークが手を振った。
「来いよ。やられたらやり返さなきゃ」
 キスリングは溜息をついて雨樋に手をかけた。壁に張り付いて窓を閉め、滑り降りる。
 本当なら、クリスマス・イヴには休暇に入っているはずだった。連休のあけた一日に、変則的な演習さえ組み込まれていなければ。学校は彼らが帰郷する事を好まない。彼らに里心がつくことを望まない。まるで嫌がらせじゃないか。誰かが呟いた時から、不満は出口を求めて動き始めていた。禁止された夜遊びは、意趣返しにはうってつけのように見える。
「他に誰か?」
 キスリングは5,6人が集まっている影を確認し、呼気を白く曇らせて尋ねた。
「いや。行こう」
 1人が背を向けたのを合図に、彼らは裏門へと向かった。追おうとした背を突付かれて振り返れば、そこまでやりとりを傍観していたミュラーが、
「本当にばれると思うか?」
「さぁな」
 キスリングはかぶりを振った。ミュラーは砂色の目を細めて、
「ばれないよ。思い付きでやってる訳がないじゃないか」
「何だって?」
「しーっ、見つかるぞ」
 裏門を乗り越え、坂を駆け下りてバスに乗り込む。運転手に言いつけられたらアウト。あからさまに不審に顔を伏せて。まるで出来そこないのギャング。
 訓練用の軍用地が、暗く車窓を流れていく。夜の下の空漠はやがて灯りともした家屋に取って代わり、光溢れる中心部に入って車は止まった。通りの交差する、ちょっとした広場だ。運賃はカードで清算すれば足がつく。ボックスにコインを放り込むと、含み笑いのドライバーがグッドラックのサイン。
 調子よく手を振る級友のひとりを横目に、彼は脇へ寄って口を開いた。
「さっきのはどういうことだ?」
 ミュラーは無言で首を傾げた。
「計画的な脱走だったら、どうして何も知らない俺を引き入れるんだ」
 詰問の口調が苦笑を買った。
「俺だって知らなかったさ。でも知ってる人間は少ないほど露見しにくいだろう」
「根拠は?」
 言っている事は間違ってはいないが、俄かに陰謀説を信じる気にもなれず、キスリングは問いを重ねた。
「なぁ、どこに行く」
 答えを待ちながら、ラザースフェルトの声に誘われて首を廻らせる。赤や緑に装った目抜き通りを突き進んで、バスはもうとうに見えなくなっていた。
「店の目星はつけてる」
 と、ヘルトヴェークが通りの先を指差した。
「ほら、そんな感じがするじゃないか」
 ミュラーは足を進めながら、無声音で囁いた。
「何だってそこまですると思うんだ?」
「そりゃあ――」
 答えかけて口を開いたまま、青年の視線はその場を遊離した。続いて歩が。つい、後を追ったキスリングは、振り返ったところで臍をかんだ。
「おい、はぐれてるぞ!」
「あれ?」
「ま、直に会えるさ。迷った時は動かないのが基本だろ」
 意識を奪った元凶らしき焼き栗を道端で買い求めたミュラーは、軽々と言い放って噴水の縁に腰掛ける。キスリングは黙って隣に座った。ミュラーはややあって彼の横顔を覗き込み、
「なぁ、聖夜だよ」
「だから何だ」
 キスリングはつっけんどんに応じた。
「仏頂面はよせよ」
 不機嫌を自覚しながら、彼はなお抗弁する。
「……何が目出度いんだろうな。戦争は今も遂行されているのに?」
 この悪ふざけが計画裏の物かと問い詰めたのは、そんな鬱屈があるからだったかもしれない。ここでは理不尽への抵抗が、不道徳になってしまう。
 きららかに星を模したオーナメントは星の海の殺伐を都合よく無視しているけれど。ありふれた危機と不幸が宇宙には偏在し、この夜も何も目出度くなんかない。
 ミュラーは真顔で頷いた。
「俺達が偉くなったら、きっとクリスマス休戦を作ろうな」
 話がずれている、とはキスリングは言わなかった。
「クリスマスの何が特別だっていうんだ?」
 祝祭自体が、このイルミネーションと同じように虚飾だ。
「何も救われちゃいない」
 ミュラーは微笑の容に唇を引き結んだ。
「……でも、本当のところは、ぜんぶ終わるまで分からないんだよ?」
 言葉に詰まった級友を一瞥し、自分から「宗教は巧妙だ」と片をつけてしまう。無造作に焼き栗を勧められて、キスリングはそれを受け入れた。焦茶色の外殻に爪を立てながら、ミュラーは呟く。
「ただ聖誕祭の場合、宗教的にというよりは民俗学的に重視されるべきだと思うな」
 寒く暗い季節を耐えるために形成された風習。けれどそれを言うなら、宇宙は何時だって寒く暗い。こんなまやかしの一夜じゃ、足りない。足りなくて戦火を求めるのかと連想すれば、胸裏は余計でも重苦しくなる。
「俺を言いくるめてどうするつもりなんだ?」
 キスリングは胡散くさげに訊いた。
「別に」
 ミュラーはとたんに曖昧な口吻になった。晴れの日を愉快に過ごしたいだけだろう、と察しのついたキスリングは眉間に皺を寄せ、
「仕方の無い」
と、舌打ちをしながら腰を浮かした。ミュラーは砂色の双瞳に微かな不安を過ぎらせた。キスリングはにやりと笑って、級友を見下ろす。
「焼き栗なんかで暖まるか。出店の酒でも買ってくる」
「ああ」
 ミュラーは頷き、さっと立ち上がった。
「俺も行く」


ミュラー提督と親衛隊長の良き悪しき「士官候補生」時代です
タイトルは「迷子(=die verirrte Kinder)」…というとあんまりなのでちょっと挿げ替えて「迷える若者」です。複数形の。

ところで雨樋って、洋式の建物にもあったっけ?
そんであの未来世界にバスなんて普通にあってもいいのか??(笑)




All is silent.All is bright. ●選択ワード:沈黙、鐘の音

(部屋に帰ったら、クリスマスカードを探さなくちゃな)
 執拗な尋問に対して模範的であることを放棄し、レッケンドルフは窓の外を眺めながらぼんやり考えた。友人や親戚には今年は迷惑かもしれない。でも親友や家族には、出さなければよけい心配されるだろう。
 没収を食らった軍給付のマシンが返却されたのは、昨夕の事だった。実は中身は挿げ替えられてるんじゃないかという疑いも、捨て去りがたい物ではあったが。どこでカードをダウンロードしよう。忙しくて、全然目星をつけてなかった。
 それともこの分じゃ、疲れきって帰って、またベットへ直行かな。
 問われて答えられることなら洗い浚い吐いた。あとはもう、どうしようもない事の、気の遠くなるような積み重ねだ。彼の眼差しは空へと遁れ、意識は余所へと滑り出した。運河の対岸は煌々と飾られている。閉ざした唇は寒気に乾き、ますます動かなくなってゆく。遠くで教会の鐘が鳴り始めた。
 不意に熱の塊が込み上げて来て、彼は顔を伏せた。傷んだブロンドの下で涙を堪えた。――救いはこなかったのだ。
 プロテスタンティズムを伏流として持つ一部星域の人間の、主神が誰であろうと変わりない原則として、祈りとは本分への精励だった。ひざまづいて囁く時間を取りはしなかったが、それでも全霊をかけて、己はこの世界を信じて戦った。そして、裏切られたのだ。
 メッセージカードは出すだろう。だが聖誕祭が何ほどのことだろうか。毎年毎年、そう思って苦しむ自分が想像できた。これから何年も!

 それでも係官は、祝祭日を理由に沈黙を許してくれた。

 鐘の音がやんだ。
 窓の外では軽やかに雪が降っている。
 すべての汚猥はじきに、天の純白で覆われるだろう。
 眼下の通りはかがかしい静寂で敷き詰められ、
 星々よりも優しいイルミネーションが街を縁取りしている。

 世界の支配者はやはり、ゴールデンバウムでもローエングラムでもデモクラティアでもなく、自分たちに無関心な造物主なのだ。痺れるような憎悪と感動の中で、彼は身動きする事も出来なかった。ただひとつ絞り出せた言葉は、

 ――こんな美しい光景を、共にしたかった。


何かもうミュラー&キスリング書いたら、心置きなくマイナー路線に走っても良いような気分になっちゃて〜〜(をいっ)
「All is silent.All is bright.」は例のナイトデェト中に立ち寄ったハガキ屋さんで出会って、私にとってクリスマス企画への後押しになった文字列なので、ちょっと思い入れがあったりします(笑)
内容的には……これも「含雪」や「祝祭なきノエル」の焼き直しっぽくて満足ではないんですが;というか、ひとり目出度くない話ばっかり上げてすいません(爆)




リフレイン ●選択ワード:オルゴール
以下、裏的な内容につき白字で書いてあります。大丈夫な方は「Ctrl+A」でご覧下さい。

 小さな螺子を、細心の注意で回す。
 震える指先で蓋を持ち上げる。
 オルゴールが鳴り始める。
 ゆるやかな旋律が紫煙に添い、昇ってゆく。
 戦慄にも似た寒さが身を包む。
 アルコールを落とし込んだ臓腑は体表と裏腹に熱く、
 ――賑やかで輝いていた日々の事を思い出す。









May your days be Merry and Bright.









「リフレイン」

 ビルを出ると、外ではしんしんと雪が降っていた。冷え込むなとは思っていたが、窓のある部屋で気付かずにいたなんて
「俺って仕事熱心だなぁ」
 思わず呟いたとたん、先を行く上司が振り返った。
「何だって?」
 フェルナーは思いっきり顔を顰め、
「感じ悪いですよ、閣下」
 男は薄い唇を僅かに歪めて応じた。
「どちらがだ。休みたければ自分でどうにか出来る立場だろうが」
「そうじゃないでしょ。自分は出勤するくせに」
「愚問だ」
 そこで胸を張る人をかわいいと思ってしまうあたり、我ながらビョーキじみている。彼はしばし頭を抱え込んだが、すぐに気を取り直して肩を並べ、
「――あのですね。小官はただ、雪が降り始めたなんて気付かなかったなぁ、と」
「ああ……そうだな」
 男は頷き、仕事中とはうって変わった茫漠の眼差しを前方に戻した。
「ひょっとして、今気付きました?」
「失敬な事を言うな」
 手袋ごしに頭をはたかれ、彼は笑い出した。だって本当に、この上司と来たら、心は何処を彷徨っているのやら。きっとはるかな形而上。上目遣いに伺うと、上司は口をへの字に曲げて彼を睨んでいた。彼はくいと口の端を上げて、
「そうだ、一杯ひっかけていきません?」
 寒いでしょう、と袖を引けば、
「今夜は混んでいるだろう」
「じゃあ、うちで。プレゼントも渡したいし」
 彼は相手の進路を奪うステップで真向かいに立ち、微笑みかけた。
「プレゼント?」
「あ、閣下には期待してないからいいですよ」
 彼は多少強引な口調で、賄賂になるから受け取らない、なんぞと言い出されない内に話をずらした。
「ちょっと待て」
 男はそれを遮り、
「いや、待っていろ」
 更に几帳面に言い直して、傍にあった店の中へと身を翻した。付いて行きたいような気もしたが、彼は悲しい習性で言いつけに従った。
 戻って来た男は包装もそっけない、小さな包みを手にしていた。くれると言うから喜んで開けてみれば、アクセサリーでもしまうのだろう小さな骨董の箱。
「少しばかり、意外な選択ですね」
 彼は首を傾げた。上官なら、もっと実用的な物を買うだろうと思っていた。
「こういうのは、気分の問題なんだろう?」
 眉を寄せしかし自信ありげな男は、彼がよく使う強弁をなぞりながら手を伸ばしてくる。返しませんよ、と抵抗すれば男は苦笑して、小箱の蓋を開けた。ゆっくりとクリスマスソングが流れ出した。
「毎年、メリークリスマスを言いあえるとも限らんからな」
 嬉しい未来予想でもなかったが時世と多忙を考えると妥当な話だ。気遣いだけを受け取って彼は破顔した。
「来年は、こいつに入れる指輪とか貰えるんですか?」
 上機嫌のままに口を滑らせると、男は羞恥とも怒りともつかないものを頬に過ぎらせ、不穏にうめいた。
「卿という奴は……」
「ああ、冗談ですってば!」
 彼は大袈裟なジェスチャーで相手の握り拳を抑え、ついでに勢いに任せて抱きついた。  
 
 

 オルゴールは優しいメロディーを繰り返す。何度でも何度でも。叶わなかった願いを、果たされなかった約束を、届かなかった未来を、この胸に突きつけるように。
 言霊の効力も1年しか持たないから、わざわざまたクリスマスが回ってくるんじゃないか。あの夜の贈り物はタリスマンみたいに大事に持ってます。だけど、聞かせて、貴方の声で。
 ――May your days be Merry and Bright.



ここまで来たら、キーワードを全部使い切っちゃいたいような気がするじゃありませんか。
そりゃあもう、裏行きだろうが何だろうが(をいっ)
ああっ、ごめんなさい、ごめんなさい。健全志向の皆様(←含陣内さん。や、本気ですいません;)
流石にやばい事はやってませんが(笑)、念のため雪に埋めました。ついでにまた痛いようなオチ;;
軍務省で「オルゴール」です。
で、これで残るは「ぬいぐるみ」のみっ!
ところで……ハリポタで波乗りしてるうちにスネハリにはまってしまったらしいんですが、このカップリングで書かれたパロディがオベフェルに重なるとか言ったら腐ってますか?(爆)




シーン6 ●選択ワード:ぬいぐるみ

(シーン6)
どでかい熊のぬいぐるみを前にして、2人の男が剣呑な視線を交錯させている。

「何だってこんなものを?」
「や、ほら、クリスマスだろ。いちお近しい人にはプレゼントをね」
「お前、体よくサンタクロースにされてないか」
「心配してくれてんの?」
「別に」
「ふぅん」
「……で」
「うん?」
「何だってこんなものを?」
「や、クリスマスだし」
 ――げしっ。
「何すんだよっ」
「それは分かったから。どうせならもう少し喜ばれそうな物を選ばんか」
「だって……」
「おい、聞こえないぞ!」
「だって、嬉しがらせには慣れてるだろ、お前」
「は?」
「お前が好きそうな物なんて、女の人達がいっぱいくれるだろ」
「あんまり受け取らないけどな」
「この贅沢者めっ」
 ――ばんっ。がたがたがっ。ごとん。
「…………で?」
「いや、ここはいっそ、うんと無駄な方がインパクトあるかなと」
「クリスマスプレゼントにインパクトなんざ求めるな!」
「だって」
「あぁ?」
「どうせなら記憶に残りたいだろ」
「ばーか」



あ〜、殆ど作品の体をとってませんがヤニーズです。珈琲の方が場にそぐうかしら、なんて迷った時点でもうすっかり裏な思考に染まってますが(爆)
別にコレくらいのやり取りならあっても良いんじゃないかということで、今度はうっすらと。って、どのみち反転させなきゃ読めないんじゃ…(笑)
でも一応これでキーワード制覇というコトで〜。

皆様、お付き合いありがとうございました




(C)甘藍サイト