自分らしく


「人によって何を大切にするかは違う。中途半端な自分を自分らしいと受け止めて

生きていくことも素敵なことだと思う。今のままで悩んでることが、

ホル注やSRSによって最終的な解決(完全な男性の身体)になるわけではないし、

それをすることによって、また新たな悩みも出てくることもある。

自分が自分らしくいられるということが一番大切」

これは僕がジェンダークリニックに行くようになって先生に言われた言葉だ。

この言葉のおかげで、僕は「自分らしくいられるように生きていく」ということを

考え始めるようになった。

「自分らしく」それは身体だけのことに限らず、生活、仕事、夢などに関して・・・。

そして今、自分を見つめ直す時間を与えられ、改めて僕にとっての「自分らしさ」とは

何なのか、自分がどうしたいのか、自分らしくあるために、自分らしく生きていくために

何を必要としているのかを今まで以上に考えるようになった。


僕が自分らしく生きたいと思っても、それに支障を来たしていると感じていることは何か。

まず、戸籍名と戸籍上の性別。戸籍名については2003年11月、家庭裁判所に「名の変更」の

許可の申立てをし、変更の許可が下りた。名前が変わったからといって、それが男性として

生活することに直結するわけでないことはわかっているが、それで少しでもありのままの自分で

生活していくことができればと思っている。

しかし、戸籍上の性別については今のところ叶えられそうにない。

法的に戸籍の性別変更が認められるようになったとはいえ、性別を変更するにはSRSを

受けなければならない。保険の適用も受けられず、ましてや生活のことを考えると

数百万かかると言われるSRSを受けようとは思えない。

だから、法律の要件が変わらない限り、性別変更はあきらめるしかないと思っている。


そして身体。乳房除去はしたいとは思ってるけど、それも費用のことや手術から術後までの

期間(1週間くらいらしいけれど)の仕事や生活のことを考えると、希望はしていても

できるかどうかわからない。ただ、身体に関しては自分が女性の身体をしていることに

対して違和感・嫌悪感がかなり大きくなっていると感じている。たぶん、僕は今まで自分が

感じてきた以上に自分が女性の身体をしているということに継続的にストレスを

抱え込んできたものと思われ、それが大きく圧し掛かりすごくしんどくなってきている。

鬱で食べられなくなり、体重が落ちてしまっていたけれど、そこからまた食べられる

ようになったのは、薬のお陰だけではなく、「鬱が治ったときには健康な身体になっていたい」

という気持ちになれたから。でも、それは「身体を変えたい」という思いがあったからだ。

まだホル注をしていなかった身体で何ができるかと言えば、高タンパク低脂肪に心がけ、

しっかり食べて筋トレをするということしかなかったからだ。

僕はホル注をして身体や声が変わればそれが男だと思っているわけではない。

だが、自分が今まで以上にこの身体に違和感と嫌悪感を感じ、それが精神的苦痛となっている

という事実を、僕は受け止めなければならない。今までのように自分の心を見て見ぬふりをして、

抑え込んでしまうわけにはいかない。僕は自分の心に誠実でいたい。

ガイドラインに沿った治療が再開され、現在僕はホルモン治療を受けている。

だからといって、それが問題の解決ではない。新たな問題も必ず出てくる。

でも、それを乗り越えられるだけの自分を作っていきたいと思う。


何が大切か、何を優先すべきかということは人によって違う。それは十人十色。

一人一人の人間がみんな違うように、僕のようなFTMの人間も一人一人みんな違う。

考え方にしても価値観にしても・・・。

中には「外見や言葉遣いや態度が荒っぽいのが男らしさ」で、そうでなければ男じゃない

みたいな考え方をする人もいるかもしれない。

でも、僕はそんなふうには思わない。

自分の心が身体の性別とは異なり男だと自覚してるなら、性格に女っぽいところがあろうが

声が高かろうが、態度が荒っぽくなかろうが、そんなことは関係ないと思う。

専門家でもない人がその人の性別を決めつけるものではないし、自分の心の性別が

何であるかは自分で感じて決められるものだと思う。

何が正しくて何が間違ってるというわけでもなく、FTMだからこうでなければいけない

というものでもなく、男ならこうであるのが当たり前と決め付けるものでもないと僕は思う。

男っぽいとか女っぽいとかいうことも、その人の個性とか性格とかそういうものの表れだと

思うし、百人いれば百通りのその人らしさを持った人間がいるのだと思う。

僕もそういう中の一人に過ぎない。そして、僕らしくあるために何が必要かを考え、

自分を見失うことなく、自分らしさを大切にして自分らしく生きていきたいと思う。



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