父への手紙


父さん、わかりますか?覚えていますか?

僕はあなたの子供です。

15年前、母さんが死んだあの日から、

僕たちはたった二人きりの家族になってしまいましたね。

あの時の父さんの涙、僕の涙は同じものだったはず。

母さんがいなくなって寂しかったけど、二人して

力をあわせて生活していくことに何も不安はなかった。

父さん、それはあなたがいたから。


だけど、母さんが死んでから僕の置かれた状況は

一転してしまいました。

そう、あの日から僕は心休まるときがなくなりました。

あなたは生活することを顧みなくなり、僕のことを騙し、

裏切り続けましたね。

あなたへの訪問者や電話に僕はいつもビクビクしていた。

電話の音にさえ怯えていたんですよ。

父さん、あなたはそれに気づいていましたか?


あなたはその状況を全く変えようとせず、

僕と二人きりの生活を守ろうとしなかった。

僕はあなたを心の底から憎み、恨みました。

それは、僕があなたを愛し、信じていたから。

それだけにあなたが僕の信頼を踏み躙ったことが

許せなかったんですよ。


あなたが痴呆になってから、僕はあなたへの憎しみと恨み、

そして愛情との葛藤に苦しみました。

あなたが平常心ではないこと、頭ではわかっていても

受け入れられず、過去のことが僕の心を揺らしました。

でもね、ある日、あなたを失いそうになったとき、

僕は過去のあなたへの憎しみや恨みをすべて消すことができたんです。


あなたは今、自分で動くこともできず、話すこともほとんどなく、

僕のことを覚えているか、わかっているかさえもわからない。

だけど父さん、僕は無言のあなたから多くのこと、

そして大切なことを教えられました。

あなたはもう僕に何を言うわけでもなく、何をしてくれるわけでも

ないけれど、あなたの存在は僕の支えです。

たとえあなたが僕を忘れようとも、僕は覚えていますよ。


父さん、聞こえますか?

僕は心からあなたを愛してるあなたの子供です。



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