Winodws


夜の22時、公園近くのバス停にバスは停まった。
降りたのは、私ひとり。
「ありがとうございました。」という運転手の声が、背後に小さく聞こえた。
バスは、前方の自動ドアを閉め、残りの乗客2人を乗せて、走り去っていった。

今日は天気が良かったせいか、空に星がキレイにちりばめてある。
鉄棒くらいしかない小さな公園を、横断して家に向かって歩いた。
私はとぼとぼと色んなことを考えていた。

今日もスーツを着たOLが電車にのっていたこと。
それに比べて、私の格好ときたら、この黒いいつもの上着とグレーのジーンズ。そして黒い靴。
きっと今日のOLは、どこかの正社員。
それに比べて、私ときたら、いまだフリーターの道をただふらふら歩いている。

夢はある。私にも・・・。
でもそれは、芸能界に入りたいとかそんな類だから、
将来性のあるものとは違う。

家はだいだい公務員。そして弟も妹も私と違って大学という進路がある。
私は高卒。
身分の差もあるし、今の状況もこうだし。

家に帰れば親はガミガミと言いたい放題。
私にだってやりたいことはあるけど。
所詮、夢。
現実とは違う。

そうだ。親だって、私みたいのがいるから苦労するのだろう。
弟や妹はいい学校に行っているし、頭もいいみたいだから、
親は鼻が高いだろう。

今年でもう20代後半になるというのに結婚だって出来ないし。相手がいない。
高校の時からの友達はもうほとんど結婚して子供もいる。
中学の時からの友達だって結婚して子供もいる。
倒産した会社の同僚だった子も・・。
要するに、私の周りの同年代は、ほとんど永久就職している。
私だけ、取り残されたみたい。

ひとり暮らしもしないで、こんな生活してて、親だって苦労している。
独立もしないこんな子を、育てた憶えはありません!だって。
そうかもね。

どこから人生変わったんだろう?
いや、昔からそうだったのだろうか?
自分自身では普通に生きてきたはずなんだけど。
そうか、高校を卒業してからなのかもしれない。

私は3月に卒業してその月に、内定されていた会社の入社式に行った。
そこは小さな会社で、布団を製造している会社だった。
事務で雇われて、まだ研修期間中だったある日、
社員旅行が行われ、仙台まで行ってきた。
会社に入っていきなりの思い出づくりでもあった。

当時、私はその会社に気になる営業マンがいた。
でもその人は独り身だったけど、同じ社内では経理部のMさんの恋人で
ラブラブという噂があった。
私はMさんとはあまり接点がなかったけど、なかなか恰幅のいい人で、
優しそうな母親みたいだったので、別に奪いたいとは思っていなかったけど。

社員の湯飲み茶碗をだいたい憶えてきたかなという入社目から2ヶ月後、
ここでの事件は起きた。

その日、I部長の様子が朝からせかせかしててなんだか変な様子だった。
先輩にあたるSさんもI部長とこそこそ話をしている。
けど他の社員はとりあえず、普通だった。
お昼ご飯を食べて、午後1時か2時頃、I部長は、社内に全員いるのを確認してから
声を挙げた。
「みんな業務中断!展示室へ集合!社長が待ってるから早く!」
もちろん、わたしと同僚のAさんも一緒に。
上司のSさんは、「社員の人数分、椅子を出しておいて。」と指示。
私たちはなるべく早く展示室へ行き、椅子を並べた。
でも人数分椅子は足りなくて、立っている人もいたけど、
私とAさんは、社長の目の前の椅子にハンケツで座った。

「全員集まったようです。」I部長は社長にそう告げると、I部長も席に着いた。
全員は社長の方を向いている。そして社長の隣りに、弁護士が1名・・。
ほそぼそとした社長が、ほそぼそとした声で話し始めた。
「今日、午前10時○○分、東京地方裁判所に・・・・。」
展示室へ集まっている人数おおよそ100名、そのうち誰もざわつくことなく
シーンとして話を聞いている。こんな光景初めてだ。
私は社長の話はあんまりつまらないなぁと、その光景の方だけに
頭はいっぱいだったが、次の瞬間、それはぷちっと切れた。
「俺は今、高校生の娘が2人もいるんだ!いきなりそんなこと言われても困るよ!」
温厚な営業マンが怒って社長に講義している。
この光景も初めて。でも何故講義しているのだろう!?
途端に静まっていた社員がざわざわと騒ぎだした。
「・・・明日からは閉鎖します・・・」
社長の口からそんな言葉が。高校を出たての私に、理解が出来ることがその時
あまりにもなさ過ぎたけど、この状況から、何かヤバイことが起きているのだろうと予測していた。
会社が潰れてしまったような状況に見えた。
私もAさんもただ、顔を見合わせていた。
しばらくざわざわと続いて、また社長の話に入っていた時、
私の脳裏には「これから、どうしよう?」というその言葉だけが浮かんできた。
この会社は、学校の求人票で見つけた場所。
見つけたというか、AR先生が見つけてくれた場所だった。
友達と、進路指導室に行ったとき、先生が「ここは?」と思わず指を指したとこだった。
私はその時はただ、働ければいいやという気持ちだったので、
流れるように手続きをとっていった。
その場所がこんなことになろうとは・・。

人生がめちゃくちゃになる

私はその日初めて、会社で泣いた。
トイレに行ったり来たり、私とAさんはそれをふたりで繰り返していた。

とりあえず、即座に高校の時の当時の進路指導の先生に電話をした。
すると、「今の在校生でいっぱいいっぱいなんだよね」と、突き返された。
窮地に陥った卒業生には冷たい・・
それが、あの進路指導室の先生の正体だと、その時知った。

それから1週間くらいして、Aさんと今後のことを話していた。
Aさんはガソリンスタンドでアルバイトを始めたらしい。
色々と、恋ばなを聞かせてくれる。
私はハローワークの同情で入れてくれた仕事を3ヶ月で辞めて、
大手仲介業者のハウジングアドバイザーのアルバイトを始めた。
「とりあえず、資格をとりなさい。資格は有利だから」
そう親が助言してくれたから、ハウジングアドバイザーの資格を取るために
まずはどんな仕事なのかを知りたくて入ったとこだった。
のちに違う意味で、私を導いてくれる場所でもあった。

そんなこんなで、Aさんはしばらくして、ガソリンスタンドのバイト先の
上司に告られそのまま結婚したらしい。
結局、永久就職。
取り残されたのは私だけ。


→→つづく