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単身赴任を意識したのは、いや、させられたのは43才の時の転勤でした。
主人公のまっちゃんはいわゆるサラリーマンであります。サラリーマンに転勤はつきものですが、
類にもれず彼の会社も結構あるんですね。入社10年で3か所という目安もあるくらいです。彼の場
合2か所めで15年でしたから、あと3か所で定年だなんて冗談言ったりしてました。しかし、よくした
もんですね、次の15年で4か所でしたから。4か所めが八王子、その前が神戸。
その神戸で八王子の転勤か決まったよってまゆみさんに報告したら、ひとしきり盛りあがったその
晩に!
「あなた、次の転勤は単身赴任ね」ときたもんだ。
「オヨヨ!たんしん?j
「だってそうでしょ。今度転勤する頃は上が大学受験だし、真中は高校受験、簡単には転校なんて
できないんだから」
「そりゃ解るけど、いま念押しするこたぁないだろう」
「でも・・・ブツブツ」
まったくもう、概して女性は先の約束をしておかないと夜も眠れないようだね。いや、「女性は」と言
うのは偏見だな。タイプなのかもしれない。まっちゃんはプロモータータイプだから気分がわくわくす
ることが大好きで、後のことをあまり考えない。また、考えを積み重ねていくのも得意とは言えな
い。何故?と聞いてもパッと返ってこない。深い理由は多分ない。本人曰く、「やりたかったから」
しかし、まゆみさんはアナライザータイプだな、たぶん!状況を積み重ねながら考えをまとめるのが
得手なのであります。だから、言い出したらきかない。否定したり、ダメだしをしたら2、3日は機嫌
が戻らないのであります。あなたには思い当たる節がおありかな。
かくして、何年か後のまっちゃんは晴れてご赦免。男一匹、単身赴任とあいなるのであります。で
も先ずは新任地で親子ともども浮かぶ瀬を見つけるのが先決。郷にいれば郷に従うべし。出すぎた
杭は打たれない。(これ、あんまり関係ないな)
なんだかんだと五年間。所変われど仕事の仕方は変わらず、まっちゃんの生活態度も変わらずの
毎日が過ぎていくのであります。変化があって臨機応変、変幻自在に対処しているようですが、そ
の実体は・・・なんら変わろうとしないでいる口先だけというところでしょうか。
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まっちゃんの会社では毎年「自已申告書」を書いて提出します。業務歴、今後してみたい業務、趣
味、資格、家族状況、健康状態などを記入レます。彼の場合資格といえるのは普通運転免許だ
け。趣味は水彩、木製帆船模型製作、版画、熱帯魚飼育、釣、ボウリング、音楽鑑賞の中からから
適当に。10年前はワープロが使える程度。ほかに記載する項目に「就業希望地(地方)」というのも
ある。その頃から海が近い事業所を書いているんです。こんどは単身赴任(そのことを書く欄もあり
ます〉ですから休みの曰に手軽に釣が出来るなんて最高じゃないですかというのです。ちょっと不真
面目ですよね。でも、彼の場合はそれだけの理由なんです。
八王子で四年半が過ぎ、そろそろ5年目の年賀状の版画も考え始める11月はじめ、まっちゃん
は支社長に呼ばれました。「来た!」と直感しまレた。単身赴任になるのかどうか。わくわくです。
「12月1日付けです。新任地は沼津の業務部長です。単身赴任ですか?」
「はい、単身です。」
「社内発表は○月○日・・・後任は△□・・・」
(ヤッタ!沼津だ!釣三昧だ!)頭の中で鐘がキンコンカンコン鳴っていたようです。あとは朧状態。社内
発表まで内緒、内緒。家に帰る迄彼はその日どんな仕事したのか、覚えていなかったのでありま
す。業務終了のチャイムが鳴ったとたんに、
「お疲れ様です。お先に失礼します」
と会社を飛び出し、まずは本屋に飛びこんで沼津市の地図を買いまレた。帰ってから地図を見て想
いを馳せます。これが楽しいんだそうです。駅に降りて、大きな声で「バンザーイ」と心の中で叫ん
だとか。
「ただいまー、沼津に決まったよー」
「えーっ、転勤なの」
「学校、変わるの?」
「一緒に行くか?」
「えーー?・・・・・」
「いいよ、大丈夫!お父さん一人で行ってくるよ」
ビールで乾杯の食事のあとは、買ってきた地図を拡げて子供達と、
「会社はここだぞ。海まで一キロ半、徒歩で二十分くらいかな。ここが波止場。魚市場はここ。西伊
豆への船の発着所は隣のここ。スカンジナビアはここで、シーパラダイスはここ。この防波堤の周り
は、アジ。イワシ。こっちの方は投げ釣りでキスかコチかな、狩野川河口の我入道の船泊りはハ
ゼ、セイゴ。もしかしたらスズキも。テトラのこのあたりはカサゴ、チヌだな!。住まいが会社と波止の
中間だといいんだけどね。海水浴も歩いてちょこだぞ」
「釣りしにいくの?」と子供。
「そんな感じかな。仕事もちゃんとやらないとね。」
「お父さん、夏休みには遊びに行くよ」
「あゝ、来なさい来なさい。みんなで来なさい。借りてるれる部屋はどうかな。狭かったらゴロ寝だ
ぞ」
そんな会話の中でカミさんは・・・・・・
黙々と酒の肴を作ってくれている。心中来るものがきた、でもいざくるとなると複雑・・・
そんな空気を少しだけ感じながらも妙にはしゃいでいるまっちゃんなのです。
慢画のハマちゃん、知ってるでしょ。そう、あの釣バカ日誌の主人公です。映画もシリーズになって
ますね。まっちゃん、大好きなんです。週刊誌の連載を読んでて、古本屋でまとめて三十冊程購
入。映画も正月の定番で、寅さんと併映で始ったんです。そもそもは三国連太郎、西田敏行さんら
の面々が肩の凝らない映画を一本だけ作ろうかというのがきっかけなんだって。彼の家では毎年正
月は寅さんでしたが、好きで知ってるだけに楽しみ倍増です。カミさんも好きで、シリーズ化すると
正月映画のメーンは「釣りバカ」になってしまいました。あのハマちゃんの飄々としたところが実に気
に入っているんです。サラリーマンが心のどこかにいつも持っている深層願望なのでしょうね。まっ
ちゃんも、いつかやってみたいと思っていましたから、沼津への単身赴任はまさに運命です。転勤
の荷物で一番大切なのはやっぱり釣道具。
そんな調子のまっちゃんですから、単身赴任の悲壮感なんて、あるようには見えませんでした。そ
んなのりでちょっくら
「行ってきまーす」
てな感じで出てきたのです。
引越といっても単身ではそうたいしたことはありません。まっちゃんのカミさんが泊まりがけで手伝
いに来てくれたので搬入はすぐ終わっちゃいました。一段落したその日の午后、海岸へニ人で出か
けました。海岸迄はちょっと早足で二十分。松林を技けるとそこは千本浜。前の海は駿河湾です。
左向うに伊豆の山々。右は吉原、清水。そして振り返ると!
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「!」

富士山がこっちを向いているじゃありませんか。
「ねえねえ、見てみな。絶景だねぇ。うん、実
にいい」
「海がそばってやっぱりいいわネ。あら、けっ
こう釣してるねぇ」
「やってる、やってる。行ってみようか」
波打際まで小砂利をザクザク踏みしめながら歩いて行きます。
ザッザッザッザッザッザッ
近付いて暫く観察してみる。見知らぬ所ではこの観察が大事だといいます。釣
果はまだないようです。
「オッ、蛸をやってるのかぁ。」
まっちゃん、ここで声をかけてみる。
「蛸はよく乗るんですか」
「まっ、ぼちぼちだね」
「この辺りだとほかに何が釣れますか」
「あんた、この辺の人か」
「いいえ、今日引っ越して来ましてね。実にいい所ですね。シ一ズンにはキスも釣
れそうですね。」
「五月くらいから、あっちのほうで釣れるよ。以前はよく釣れたけんど最近はあん
まり釣れんね。」
「そうですか、最近はどこもそんな感じですね。ほかには」
「ここのへんでは夏にワカシ、イナダもかかる時あるよ。あっちの土管の前じゃコ
ノシロとかボラかな。まっコーワンに行けば真鯛があがることもあるよ」
イナダ(関西ではハマチ)もワカシ(イナダの若い時の呼び名)もブリの小さい時の
名前で、イナダの上のクラスをワラサといいます。いわゆる大きくなる程名前の
変わる出世魚というやつです。彼の名前も私の名前も、いまも、これからも変わ
りませんがね。兎にもかくにもだいたい彼が思ったとおりでした。ようし、見てなさ
い見てなさい、釣るぞ釣るぞ。あとから判ったことですが、コーワンって「港湾」の
ことで、沼津港一帯をさすのだそうです。
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さてさて沼津のまっちゃんの単身赴任生活ねェ、どんなもんでしょうか。仕事そ
のものはどこの会社であっても変わんない。だけど、タバコ吸うの止めたんだ
て。まっちゃんの座る机を拭いてくださった女性社員が前任者の残したタバコの
灰に示した嫌悪感を敏感に察知!この際、やめようと思ったそうです。
「タバコお吸いになるのですか?」
「いいや、止めたよ。」
「それは、私達嬉しい。煙いもんね。」
「じゃ、事務所内は禁煙にしたほうがいい?」
「そのほうがいいけど、ムリでしょう。」
「じゃあ、吸える場所を決めようか。そのかわり、そこで、吸ってても仕事をさぼっ
てるなんて言わないって約束できるかい?」
「できるんですか?」
「ほかの会社に出来て、ここでは出来ないということはないんじゃない」
で、事務所の模様替えを機に喫煙スペースや吸煙機を設置する事にした。いい
仕事をする環境をつくる。これがまっちゃんのスタンス。
確かに一人っきりっていうのは淋しいもんらしい。というのは帰っていけば電気
の消し忘れがない限り真暗なんですから。物音といえば自分のものか、はたま
た隣の人の物音、話し声で、自分の声を出す時がないでしょ。彼の場合、壁が
簿いのか、特に低い声がボソボソ響くのには参ってましたね。赴任地の借りても
らった部屋はまあ恵まれていて1LDKで、一人では充分ですね、まんざらでもな
いというふうでした。その隣のボソボソ声以外は。それともうひとつ。近所迷惑な
のが朝早い目覚し時計の電子音。留守なのか鳴りやむまで40分。これが毎週
金曜日の朝4時なのです。これにはまっちゃん参っていましたね。注意をしようと
思っても、朝で澄んだ空気の中で響いているので隣なのか上なのかわからない
のです。ベランダに出ても、外の通りに出ても、わからないのです。真っ暗な中で
ウロウロするまっちゃん。うっかりなのでしょうが加害者にならないように注意し
ましようね。
洗濯や炊事、もちろんまっちゃんが自分でします。ハマちゃん状態ですから週
末は釣や趣味でわくわくしてます。(で、家族のもとに帰るのは月に1回)だから
何でも自分で出来ないとねとばかり口笛を吹きながら当り前のようにやります。
正月が来て年が変わるとまっちゃんも落ちついてきたようです。3月になり、か
ねてから「沼津に行く行く」って言っていた子供達に春休みが来ました。カミさん
から地図を書いてもらってやって来ました。彼が会社から戻ってくる頃にはすっ
かりくつろいでいて
「お帰り。」
「おー、ただいま、無事ついたみたいだな」
「それが迷っちゃって、この地図どうみても違うよな。ぐるぐる周っちゃったよ」
「どれどれ、あぁ道が一本多いな。住所で探せばよかったよな」
「人に聞いたけどね。ここさぁ、結構いいじゃん。この部屋気にいったよ。」
「そうか、好きなだけ泊ってきな。晩メシはまだだろ。焼肉にしようか」
というわけで外食にすることもありますが、
「あるもんでいいよ」
「じゃ、いっちょ、作るか」
冷蔵庫はどっちかいうとかなり詰っていないと満足しないので、いつでもご注文
に応えられるんだって。ですから彼の懐を案じて言ってくれる子供に、軽い調子
で腕をふるって作ります。で、出来たのが「鍋」。(一緒に食べれて、後片付けが
楽なんだそうです。ちなみに鍋しか出来ない嫁さんがバカにされてたっけ)鍋を
つっつきながら、今日のことや近況を聞くのは新鮮です。まっちゃんは、いままで
自分が気がつかなかった家族一人一人のいいところが見れて嬉しくなります。
子供と布団を並べて夜更けまで話すのもいいんだそうです。
二部屋ありましたので夏に5人家族が揃ったり、両親が加わってもなんとか寝
れてました。もちろん雑魚寝状態。小さかった子供の成長をふと実感するのであ
ります。掛け布団も敷布団に変わって部屋中が布団。ゴロゴロゴロゴロ。実に心
地いいんだそうです。
いつからか、まっちゃんの家では沼津の単身赴任宅を「別荘」というようになり
ました。彼はそこの「管理人」(オーナーじゃないんだもんね、残念!)
<4>
「いま住んでいるお宅の電話番号は?」で「エーと」で手帳を見る。かけたことが
ないんですよ自分ちの電話。単身なんだから。電話番号を尋ねられた時にふと
いまは単身なんだと実感するんだそうです。当時はまだ家を借りると電話を引く
というのが一般的でしたけど、最近は電話線を引かずに携帯電話ですますそう
ですね。それは、合理的ですよ。パソコンもPHSでインターネットに繋がるしね。
地域での注意事項はなんといってもゴミの処理です。住民票を届ける際に市
役所の清掃課に行けば地区ごとの取り決めの載ったパンフレットをくれます。ゴ
ミのふくろは市の指定ゴミ袋にしているスーパーの買いもの袋があれば、それで
充分です。それほど量が出ないからね。そういうのを使っていない店もあるので
調べたらいいです。どう調べたらいいかっていうと、ゴミの日に近所の方が出し
ているゴミぶくろの中にスーパーの袋があるかどうか。あれば、店名と一緒に
「沼津市指定」の文字が書いてあるか確認。あれば大丈夫。ゴミのことが上手に
できるということは地域で暮らすに欠かせません。だいたいよそから来て土地の
人と上手くいかないキッカケはゴミの出し方。
「前にいたところはこれで良かった」
という理屈は全く通用しません。最初に上手くやれれば
「こんど202号室にきた方、しっかりした方だね」
って評判になっているに違いありません。そう彼は考えているんです。マンション
なら共有する階段のお家に引越しの挨拶をした時に、昼いないことや単身を告
げ、買い物やゴミのことを自分から尋ねるのもいいですね。マンションの階段や
前の道を掃く気持ちも形にできるといいんじゃないかな。最近は引越しの挨拶に
も来ないって噂されていても平気な方もいるようですよ。

ヒートンや釘を使う時ちょっと躊躇しませんか。出る時に補修費用を取られやし
ないかってね。でも、心配御無用!抜いた後の穴埋めは簡単!まず、割り箸の
先を丸くとんがらせて打ち込み、面にあわせて切り取り平らにした後クルヨンで
色塗っておく。最近は耐火ボードの上から壁紙が貼ってあるのでヒートンを抜くと
白い粉がでてくる。壁紙が白の場合は白の歯磨きのチューブを穴に密着させて
ブチュ−!…なんだって。
別荘で管理人さんが用意してた家庭用品一覧
* 冷蔵庫、洗濯機、炊飯器(小さいの)、掃除機、アイロン
* 電子レンジ、パン焼き、
* フライパン、フライパン返し、おたま、しゃもじ
* お鍋大きめ一つ、柄のついた子鍋ひとつ
* 重宝なクックプレート
* お皿と丼、茶碗とお椀、お箸、スプーンに湯飲みにコップ
* 包丁、まな板
* 金網のざる
* 油瀘しとペーパーついでに小ビンと缶
* キッチンペーパー、ふきんと雑巾
* 調味料や油
* 洗剤(台所、洗濯、風呂)、洗濯ハンガー2個、洗濯ハサミ、ロープ
* 漂白剤(台所、選択)、カビ取り、柔軟剤
* クリーニング屋の針金ハンガー6個、バケツ1個、洗面器1個、雑巾
* 釘抜きトンカチ、折りたたみ鋸、カッターナイフ、ペンチ、ドライバー、鋏
* 布団二組、座布団二枚、座椅子
* ホットカーペット、扇風機
* 電話は留守電機能付きか携帯電話
* 掛け時計、目覚し時計
* テレビ(CDラジカセ)
* たんす(ローチェスト)
* 裁縫道具に胃薬・風邪薬・かゆみ止め
おっと、大事なのを忘れてた。ゴキブリの殺虫剤!
まっ、現地で揃えればいいやって気楽なほうがいいみたい。
1年もすると、まっちゃんが家族の元に帰るのは月に1回から、3ヶ月に2回ほ
どのペースにダウンです。8週間のうち6回の土日は沼津に居るわけです。買い
物は主に土曜日か日曜日に近くのイトーヨーカ堂にでかけます。両手いっぱい
に下げて帰るくらいで、冷蔵庫いっぱい、およそ10日間から2週間分の食料で
す。米は1ヶ月5キロです。平日はほとんど買い物をしません。夜はゆったり自
分の時間です。そんなおり、ポストに入りきれなくはみだして入れてあったN通販
のカタログを見るともなしに見てますと・・・
彼がはじめて注文したのは籐でできた1万円の家具でした。外から帰ってきて
ちょいとコートを掛ける、小物をいれる籐のBOXもついているんですよ。注文し
て10日から2週間で届くんだそうです。この間が実は懐かしいんです。小さい頃
毎月決まって届けられていた雑誌や、週間少年サンデーを心待ちにわくわくする
気分を思い出しました。ポストに不在中のお届け通知が入っていたので、すぐ連
絡です。在宅が確実の土曜の午前中に時間を調整して届けてくれることになり
ます。これが癖になっちゃって次から次へと注文してしまうハメに。芸能人でもハ
マっちゃっている人が多いそうですね。それから、ドライバーのセット・水のでる
便座・Yシャツ・下着スーツ・印鑑セット、鉛の粒がはいっているウォーキングシュ
ーズ、結構売れてるんじゃないかなあ。テレビで深夜やってるのもあるよね。外
人がでてきて少し高いキーで話すヤツ。運動器具とか何でもよく落ちる洗剤。あ
る時、酔って帰ってきて何気にスイッチを入れたTVでやってた、コンパクトな釣り
道具!サメまで釣れちゃうし、おまけのルアーではバスがじゃんじゃん釣れちゃ
う。
発注しちゃった!
届いてみたらその出来にガッカリで、1度使ったものの使い心地が悪く今はほこ
りをかぶっているそうです。そうそう彼の実家のおふくろさんも通販にはまってい
る。やっぱり届くのが楽しみらしい。これって遺伝?でも、いつも注文した商品を
気に入る訳でもないんです。通販じゃダメねと言いながら注文してるんです。グリ
コキャラメルのおまけ感覚なのかな。自分で決めた結果なので仕方がないって
思っちゃうのかな。どうなんだろう。
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転勤・単身赴任を意識して、現実になり、まっちゃんにとってはOKなんですが、
でもそれだけで済みませんよね。
「お父さんはいいよね」
「留守を預ったお母さんは……」
「残された子供達は……」
お父さんにしても、大きな環境の変化ですから一身上の一大事ですよね。まっち
ゃんの場合は性格というか、またタイプなのでしょうか、NEXTへの不安というよ
り期待や興味が心を支配してしまうんです。ちょうど模型のキットを買ってきて早
く開けて組み立てたくなる、あのわくわくする気持ちになってしまうんですね。それ
でも、先輩の話しや新聞・雑誌の記事や事件、それもマイナスな面は気にはなり
ますよね。この転勤・単身赴任を満喫するには、家族が「良かった」と同じく評価
してくれることが彼にとっては欠かせない条件なのでした。そこで、まず、カミさん
の負担を軽くすることを考えたんです。
「母子家庭でした。いないお父さんの分までほんとうに頑張りました。でも、もう疲
れました」
なんてことが起きないようにするには、何を言ってあげられるだろうか。
考えました。勝手に考えました。ほんとはよく話し合えばいいのでしょうが、当時
の彼は面と向かってカミさんの気持ちをじっくり聴いてあげられるような心の状態
すらできない人間でした。それでも、懸命に考えたのでした。
考えた挙げ句が「お父さんの役をするな。しなくていい」ということでした。
「あなたは気楽にそう言うけど、現実にいないんだから」
そう言うカミさんの未曾有の不安は想像できません。「今度の転勤は単身赴任
ね」が現実になった時、彼のカミさんは眠れなかったそうです。
その時は、長男は高校2年、次男が中学3年、長女が小学校6年でした。長男
の反抗期、毎日のような兄弟喧嘩。ちょっとしたことにすぐキレる彼(振り返って
そう述懐してました)、トゲトゲしたようなカミさんとの会話もしばしばだったんです
が、それでも思ったより不思議と落ち着いていました。
「俺の代わりをしようと決して思うな。お父さんがいないんだから私がと決して考
えないで。心配事や相談事ができたら、子供に聞きなさい。事情を話してどうし
たらいいか皆で考えて決めなさい。それでいい。私にはその様子を聞かせてくれ
るだけでいい」
と彼は言いました。
彼には少しは自信はあったんです。彼自身がそうだったからです。
まっちゃんが中学3年の時に彼の親父の単身転勤。事態がよく呑み込めない
まま、なにかとおふくろがまっちゃんに聞くんだそうです、
「お父さんが今いないから、あなたに相談するんだけど………」
その時、彼の中にある変化が起きました。自分の意見を聞いているんじゃなく
て親父の考えていること、親父だったらどういう決断をするのかということを聞い
ているんだと。そう思ったそうです。だから、
「親父だったら、こう言うんじゃないかな。こうしたらいいと思うよ」
カミさんから、子供達の言ったこと、考えてること後で聞く内容は満足のものでし
た。かけがいのない家族だと彼は噛み締めることができたのでした。
まっちゃんはもうひとつ提案をしました。
まっちゃんのカミさんは今までいろんなパートをしていました。小僧寿司のご飯
炊き、パン屋、魚屋。それでも、家庭に支障のないように気をつかいながらして
いました。
そこで、家庭に気を遣わずに職をもったらと提案したのです。チャンスがあった
ら、やってみたいことがあったら迷うことなく決めていいよと。
彼の単身赴任の生活が始まって、暫くしてT電力の検針の委託業務を始めま
した。朝早くから出かけます。1日十数キロも歩きます。重い計器を肩からかけ
て歩きます。帰ってくるとヘトヘトなのだそうです。そこで暫く寝ちゃうんだそうで
す。気がつくと夜の7時過ぎて夕食の準備を始めることも度々だとか。ですから
家の中の片づけもそうできないのでしょう。だから、まっちゃんは以前のようには
期待も要望もしないのだそうです。コントロールもしません。ただ、彼が帰省する
ときは前もって言うから、玄関に靴を脱ぐスペースと横に並べていたものを縦に
しておいてとだけリクエストしているのだそうです。それだけ。まっちゃんもそう心
に決めると気が楽になりました。家が彼もダラーっとできる安息の場になりまし
た。(まっちゃんは単身赴任になってから、只の1度も声を荒げたり、怒ったりし
たことがないと言ってました) 帰った時にぞろぞろ子供達も集まってきて声かけ
てくれるのだそうです。
「おう、お帰り!」
<6>
単身赴任で会社が近いと四六時中会社から離れられないのではないかと心配
する人もいます。彼の場合は前にも触れたように、玄関出たら3分で会社ですか
ら通勤で使う時間が短縮されるわけです。往復10分ないわけですから、会社を
出たら、もう自分の時間。で、自分の時間が増えるということになります。朝も夜
も土日も。
「でも、会社とプライベートと切り離せないんじゃないか」
そう言っている知人がいました。
仕事が過度のストレスにならずにむしろ楽しければむりやり離すこともないでし
ょうというのが彼の考えです。画家や小説家や陶芸家、料理人など自分の大好
きなことをしている人は寝食惜しまずやっているじゃないですか。やりがいを持っ
てね。生きがいをもってね。こういう状態では仕事と余暇が対立していないので
す。そういうの、ある種、理想型ですね。仕事は苦役でサラリーはその苦役の代
償という考えはリッチではないですよね。仕事を家に持ち帰ることもよくありま
す。でも大抵はそのまま翌日会社に結局は持ち帰ることが多いのだそうです。
ほんとうにやる気の時は帰宅途中で夕食を済ませます。なーんでか。それはね
っ。
夕食をとらないで帰宅して夕食の準備をするとしますよね。まず、米を磨ぎます
よね。ジャッ、ジャッと磨いでいる内にね、仕事を続ける気がなくなってしまうんで
す。おかずや味噌汁ができ、米が炊き上がる頃にはすっかりリラックスしてしま
い、
「まっ、仕事は明日やればいいか」
ってなっちゃうんだって。気分が転換しちゃったんですね。
米磨ぎや料理のほかに洗濯でも同じです。そうそう、包丁を研ぐというのも気
分転換にいいのだそうです。散歩の途中で発見した刃物屋で砥石を買ってきま
した。彼は小さい頃に小刀や彫刻刀を砥いだことを思い出していました。砥石に
たっぷり水を染み込ませ準備を整えて始めます。砥ぎながら刃の状態を左手の
親指の腹で確かめます。研ぐ包丁は3本。ステンレスの牛刀、出刃包丁に刺身
包丁です。特に出刃と刺身は念入りです。仕上げは椿油をひいておきます。
好きな事を始める時にする準備。そのことが既に気分転換なんですね。釣りの
支度をしたり、仕掛けを作ったり、絵を描く準備をしながら素材を考えるんだっ
て。お尻がムズムズして、胃がキューっとして、わくわくしてくるんだって。
そうだよね、こうなったら仕事の続きじゃなくなっちゃうね。確かに!
まっちゃんは米を月5キロ食べます。静岡産のコシヒカリ。近所のお米屋さんで
買ってます。高い値段ではありません。ごく普通。だから、美味しく炊きたいとあ
れこれ工夫します。最初に使う水はすぐ棄てます。磨いだあと5分ほど水を切っ
ておいたり、1リットルの水を予め氷にしておいて、炊く前に入れ替えたり、ミリン
を入れたり、清酒をいれたり、もち米を加えたり、カルシウムを入れたり、ビタミ
ンをいれたり。最後はヒエ、粟、そばの実をまぜた胚芽米と縄文生活のような健
康志向にいきつくのでありました。1日に1回は魚を食べてましたね。鯵などの干
物を切らしたことはありませんでしたね。買ってくると1匹づつラップにくるんで冷
凍庫へ。肉も1食分づつ小分けにしてラップして冷凍庫へ。ネギも刻んで袋に詰
めて冷凍庫へ。釣ってきた魚は先ず刺身、三枚に下ろして食卓へ。食べきれな
い分はウロコを落さずハラワタだけ取り除き塩をふって冷凍庫へ。美味しそうな
鯵や秋刀魚が買え、食べきれないぶんは開いて塩水をつけて一夜干に。新鮮な
イカも塩辛に調理した残りを刺身などにして食卓へ。煮魚の味付けは麺つゆ。
大根は葉付きで、買ってくるとすぐ葉の部分だけをさっと湯がいて、微塵切りにし
て、油でいため醤油とかつお節と七味で味付け。熱いごはんとよくマッチするん
だそうです。卵はちょっぴり贅沢にいつもヨード卵。納豆、豆腐も冷蔵庫の常備
品。野菜類は買い物の時手が伸びたものを買う。体が欲しがっているんだなと
思って買ってあげるんだって。まっちゃんの単身の5年半、朝は1度も欠かさず
作ったのであります。料理といっても大したもんじゃないのですが、出来上がった
時に炊事場が片付いていると快感なのか、満足した顔をしているのです。「よし
っ」と思わず気合を入れています。実に愉快そうでしたね。
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