墓標





昼の光の中でさえ薄暗いこの場所は、夜ともなれば風の音以外聞えるものはなく静寂だけが支配する。
ここは死者の眠る安息の場所。
月明かりのように淡く輝く水銀灯に照らされた歩道を靴音を響かせゆっくりと歩む。
真新しい手桶を片手に。もう一方の腕には花束を大事に抱えて。

 大切な人がここに、眠っている。

最後に会ったのは随分前で、きっともう彼は覚えていないだろう。
再会の約束は結局果たせぬまま、近況も聞けずにただ昔を懐かしみ、再び出会えたことを喜んだことしか記憶にない。
会えなくなるとは思わなかった、といえば嘘になるが早過ぎる別れは胸に寂寥感を残した。
今は静かに黙して歩く。耳にはこんなにも鮮明に、自分の名を呼ぶ声が残っているのに。

靴の下には敷き詰められた石の感触、今日は妙に感傷的に受けとめる。
奥の雑木林を揺らす風も、湿った土の匂いも、全てが暗く重く感じる。
六月の温い風は、遠慮がちに立ち並ぶ石の間を擦り抜ける。

辿り着いた闇に融けるような水汲み場の流しに、立て掛けるように持ってきた花束を置いて、左手の手桶は蛇口の下へ。
蛇口を捻る前にポケットからハンカチに包んだシキミの葉を手桶の底へそっと置いた。
ハンカチをポケットに戻して蛇口を捻る。始めは細く出る澄んだ水が桶の底で跳ねる。
水道の上に取りつけられた人工の明かりに反射して、寒々しい色を放つ水をただ見詰める。

七分目くらいまで溜まった所で水を止める。名残のように桶の水面の上で跳ねる水の音が耳に残った。
花束を抱え、桶を持って墓所の奥へと歩を進める。
見えてくるのは懐かしい思い出の詰まった桜の木々。今は葉桜だが来年も見事に咲き誇りそうだと水銀灯の灯りに照らされた木々を見上げ思う。

聞いた場所を頼りに首を巡らせば、木の下に仲良く佇む真新しい二つの墓石。
新しい土、新しい石、何もかもが出来たばかりの墓標。
墓前にしゃがみ手桶下ろし、片方にだけ花を添える。
ポケットからひと束の線香と、マッチを取り出して左手で一纏めに持って、マッチ箱から1本取り出し擦る。
ポッと燈る燐の色、マッチ独特の香りがして何故か少し安堵した。
炎を線香の束に寄せて火を移せば線香の煙が緩く細く立ち昇る。マッチを振って消し、持参した携帯用灰皿の中へ入れる。
火のついた線香を墓前に添えて手桶を持ち腰を上げる。
シキミの葉の浮かんだ手桶から柄杓を取って墓石の上から細く掛けていく。
水の染み込んだ所から石の色が変り、眠る人の名前まで到達する。
顔も声も温度でさえありありと思い浮かべられるのに、今では石に名前がひとつ。

「随分と変ってしまいましたね、叶…」

手桶から柄杓で水を掛けていく度に、懐かしい前の街での思い出が甦る。
あの頃は生傷が絶えず、いつこうなってもおかしくないと思っていたが本当になるとは思いもしなかった。
仕事柄、危険といつも隣り合わせで、それでもそれを感じさせない強い人。同時にとても繊細で傷付きやすい人。
何度も掬い掛けて充分だと思った所で手を止め、柄杓を桶の中へと戻した。カランと木の良い音が辺りに響いて余韻残して消える。

桶を降ろして再びしゃがみ、静かに両手合わせて一礼する。手を合わせたまま顔だけ戻して心で問い掛ける。ひとつだけ聞けるのなら、彼が幸せだったか、笑顔で在れたのかが知りたい。
土に還った彼にはもう聞くことのできない問い。
最後に見た彼は笑っていた。最後の時までそうであって欲しいと願わずにはいられない。
全ての人がそうであることはできないが、彼にはそうであって欲しいと。それがただのエゴだとしても…

両手静かに離して腰を上げる。手桶持ち直して最後にもう1度墓石を、それを通して彼の面影を見る。

 「まだそちらには呼ばないで下さいね…」

微笑んでそう告げる。生者の国には彼の居場所はもうない。彼の生きていた証がこの石に、この心に残るだけ。
彼の眠る石と、その隣の石に礼をして踵を返す。
またいつかどこかで、と、心で呟き口許に笑み乗せて振り返らずに酷く静かな墓標の群れを抜ける。
今は物言わぬ石になった彼との再会は、ずっと先であって欲しいと思う。
彼の知らない事、行った事のない場所、食べた事のない物、聞いた事のない話、体験出来なかった事。
そんな事をたくさんたくさん土産にして、静かに眠っている暇など無い位話しをするのだから。
今だけはそこで静かに眠りについて、待っていて欲しい。
硬質な足音はゆっくりと闇に溶けた。



佐伯冬悟 20050414




今日はオレンジの日だそうです。それを聞いたら何故か書きたくなりました。    
私にとっての叶さんのイメージカラーは暖色系なもので…             
これは私から叶さんに宛てた「出さない手紙」のようなものなので         
墓穴も掘りそうなので細かい説明は省きたいと思います…             
上の話の時間は2001年の6月13日の深夜で、場所は当然ながら墓場         
その時に死都で行ったロールの改訂版のようなものです              
誤字脱字恥ずかしいセリフなどは割愛割愛…でもこれも十分アレですが…      
4年も経って何故今更こんなものを…というきっかっけは…            
重要な結構古いメールを探していたらyukiさまに頂いたメールを          
うっかりもう一度読み返してしまって泣けてきたからです…            
一度好きになった人はずっと「好き」で…きっとずっと一生形を変えながらも好きで  
その心を暖かくしてくれた好きな人達にはエゴでも何でも幸せになって欲しいのです  
偽装死発覚後の死都終焉から今まで、お目に掛かる事もなく日々は過ぎていきますが 
どこかで笑顔でいる貴方を、ここでひっそり願っています             
数えたら、6回しか会っていなかった…好きになるのにホント時間は関係ないや  
結局、名前しか知らなくて…それ以外は必要なかったみたいに…ただただ…     
届く事のないDearから始まるこんな手紙は羞恥プレイ以外のナニモノでもないですな…
実はまだまだあるんで羞恥プレイ続行しようか…(倒)              
ってよく考えたら相手の方がいたら許可がでないから全部追悼話か…        
更に今確認してきたら追悼に使えるログが残ってなかったよ…          
思い出せる5人の内、4人はログ取れなかった&1回パソのデータ飛んだ時にロスト…
で、残った1人が叶さんなわけで…ハハハハ書くなとの天啓だな、きっと…     
ここまで書いたら恥ずかしい物は…きっと無い読まれないなら、全部書いてしまおう…
彼との関係は、痛みの伴なわないとても優しい関係だったと思う          
そこには責任も義務も利害もないから、無条件に優しくできた           
って、言葉に表すとミモフタモない感じですがね…                
まぁ猪突猛進タイプなので、当時はそこまで考えてないけど…            
好きなら好きと言っていいじゃないかという思考回路でGOでした          
私自身の人格形成の段階で問題があって、悲しい人に弱いです            
惹かれるといってもいいか…引力を勝手に感じるんです              
なんとかしてやるぜ!みたいな使命感とかじゃなく                 
ただ気持ちを想像して、勝手に泣くという始末に負えない感じで…         
自分が傍に居る間だけでも、悩む暇がなかったらいい、なんて思ったりして…     
笑わそうとかしてみたり…できちゃぁいないんですが…              
それもまぁ1つの要因でしかなく、魅力はもっとあるんですがね           
話し方とか笑い方とか持っている雰囲気とか色々いっぱい             
最初は結構シリアスだったのに、和み系だよな…笑わしてもらったしね        
って長ぇなホントに…まぁいいか…                         

 


もうお腹いっぱいです




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