それは、とある一つの物語。
永遠とも思える程の世界の狭間。
無限ともとれる数の世界。

その中の…たった一つの世界。
そこに伝わる一つの物語。
白き羽を携えし者が残した夢物語。
世は動乱の真っ只中。
その世界で、運命の導きにより出会う男女。
…物語は今、始まろうとしていた・・・・・





   華音幻想伝 其の一
        作 堕天使ルシフェル




そこは、とある町の酒場だった。
裏通りに面した酒場には、世の動乱を思わせる様な人々が酒を飲みながら、馬鹿騒ぎをしていた。
見た目から『悪人です』と言わんばかりの風貌の者。
黒マントで顔を包み込み、いかにも『私は怪しい』と自己主張をしている者、などなど。
だが、その中に…『まだ』まともそうな者達が居た。
一人は青年。
全体的に、動きやすい服装で軽い皮でできた鎧を纏っていた。
おそらく、身を守るためではなく防寒用であろう。
そして、腰には一振りの剣を携えている。
面構えからは未成年にしか見えないが、ここでは未成年が酒を飲むのは日常茶飯事である。
そして、もう一人は少女。
こちらは、背中に羽がはえたリュックを背負い、酒を飲む青年を必死に止めていた。

現在は寒さの募る冬、外には雪など降っていたりする。

「ゆ、祐一くん! 未成年なのにお酒なんて駄目だよ!」
「………あのなぁ、あゆ。なんの為に俺は…酒を飲んでると思ってんだぁ!!」

かなり不機嫌そうに言う青年の名は………『相沢祐一』
流れの傭兵なんぞをやってたりする。
そして、隣で酒を取り上げようとして「うぐぅ…」と奇妙な声をあげて押し黙る少女………『月宮あゆ』
そして祐一は…『俺』はあゆと出会ったいきさつを思い出していた。



それは、現在居る町につく前の森の中。
路銀も底を尽き、次の町で仕事でも探そうかと思っていた矢先、俺の目の前に一人の少女が舞い降りた。
その光景は、美しかった。
舞い降りる少女。
小漏れ日が差し込み、美しく舞い散る粉雪。
ただ、一つだけ文句があろうとすれば、その少女が舞い降りたのは地面では無く、俺の真上だった。

「げっ!?」

どかぁ!

俺はそのまま少女…あゆのぼでぃぷれすをもろに受けたのだった(ちなみに、この時はあゆの名前は知らなかったからな)
ぐ…いきなりとはいえ不覚だ。
俺はいちよう傭兵という職業についている。
すると、当然俺を狙う敵が現れても不思議ではない。
ならば、この少女も…? と思い、上にのっかっている少女をはね除けようとすると、

「いたたた…」

そんな呑気な声が聞こえてきて、俺はついその腕を掴みそのまま一本背負いをかました。

どんっ! と、音を立てあゆの体が白い地面に激突する。

「うぐぅ。いきなり、女の子に何するんだよ祐一君!」
「悪い悪い。つい、な」
「うぐぅ。ついで女の子を投げ飛ばさないでよ…」

ぽんぽんと、涙目のまま背中の雪を払いながら立ち上がるあゆ。
どうやら、雪がクッションになったようで、あんまりダメージにはなってはいないようだ。
って、待てよ…

「…あんた、何で俺の名前知ってんだ?」

俺は少し警戒の目を向け、あゆを見た。
当のあゆは、俺の言葉を聞き首を傾げた。

「祐一君。驚かないで聞いてね…」

突然、あゆは顔を引き締める。
俺は、その面持ちに少し緊張し、話しに耳を集中する。

「…祐一君の名前以外、何も覚えてないんだ………てへ♪」

次の瞬間、とりあえず俺はおもいっきりあゆを蹴り飛ばした。



その後聞いた話しによれば(機嫌を直すのに時間がかかったが)本当に過去のことは何も覚えていないらしく、家族の名前さえ思い出せないらしい。
だが、今やそんなことはどうでもよいみたいで、俺が懐(ふところ)からなぜか前の町で購入していた鯛焼きを出した所、瞬足のスピードで鯛焼きをぶんどり頬張った程の元気の良さだった。

「あのなぁ、あゆ。お前が妙な依頼を頼まなきゃ、一人分の飯代で済んだのに…二人分買わなきゃならんからここで依頼人を探しとるんだろうが!」
「うぐぅ…」

そう、あゆはあの後俺に、記憶が戻るまでの護衛を頼んできた。
特に断る理由も見つからず、おもしろそうだったので「まぁいいか」程度の気持ちで引き受けたのだが…裏目にでるとは。
報酬は、記憶が戻ったら必ず払うそうだ。
それに祐一君には劣るかもしれないけど、ぼくも少しは強いんだよ♪と、『本人はあくまで』そう自己主張している。
だから、足でまといにはならない『そうだ』。

「でも、さっき見たお財布だと一人分も無かった様な気がするよ…」
「そんなことは無いぞ。と、いうかいつ財布を見た?」
「…うぐぅ。祐一君が嘘ついてる」

後の質問には答えんのかい…

「そんなことは無いぞ」
「顔が引き釣ってるもん」

おっと、こいつはしまった。
失敗失敗。
まさかあゆに、必殺『嘘も突き通しゃ嘘じゃない』攻撃が破られるとは…
妙なとこで勘良いな、あゆ。

「ま、まぁそれは置いといて。なんで俺がここで酒飲んでるかわかるか?」
「…おいしいからでしょ?」
「違う! 傭兵はこうゆう所に居たほうが依頼が舞い込むものなの!」
「…でも、それならお酒飲まなくてもかわらないんじゃぁ…」
「それに、賞金首とかは酒場に現れるっていうのが相場で決まってるしな」
「そうなの?」
「ばか。嘘に決まってるだろ」
「うぐぅ…酷いよ祐一君!」

どうやら、酒を飲まなくてもよいとゆう質問はうまくはぐらかせたみたいだな。



そして、その後かなりの時間をあゆと馬鹿話しながらすごしたが、夜になっても一向に依頼が舞い込むことはなかった。
ちっ…どうすっかな…

「祐一君。なかなか依頼来ないね…」
「そりゃぁな。バンバン依頼が舞い込んできたら、傭兵と探偵と修理屋は大儲けしちまうぞ」
「そ、それはそうだけど…」

あゆが次の言葉を発しようとした瞬間、こちらにちょいと風貌の悪い野郎が声をかけてきた。

「おぃ、そこの細い兄ちゃん! さっきからちょいとうるせぇぞ!」

ぴく…
俺が静かに声の発信源を見ると、体の悪いごろつきが四人、ゲラゲラ下品な笑い声を上げている。
その中の一人は、あゆの方を見ると…

「なんだ…女だと思ったから来てみれば、一人は近くで見るとただの『ガキ』じゃねぇか」

ぴくぴくぴく!っと、そんな音を立ててあゆの体が細かく震えたのが見てとれた。

「い〜や、俺はそっちの子の方が好みだぜぇ」

四人中の別の一人が、あゆを見て舌なめずりする。

俺は黙って場を見守る。
さすがに、今の発言には悪寒がしたが。
ん? 待てよ…一人は? とか、そっちの? とかまるで二人居るような言いぐさだな。

「うぐぅ、祐一君!何黙って………ってあの…誰?」
「へ?」

あゆの視線は、俺の後方にふりそそがれていた。
俺はゆっくりと振り返る…そこに居たのは、青い髪の…なつかしい目をした少女だった。
その少女の目は、心なしか潤んでいるように見えた。

「祐一!!」

と、言い俺の胸に飛び込む少女…

「って、お前まさか名雪か!?」
「うん、そうだよ! 祐一に会いに来たんだよ!」
俺の胸に、精一杯顔を擦りつけながら名雪は答えた。
『水瀬名雪』
俺の幼なじみだが、7年前に別れたっきりになっていた。

「久しぶりだな…秋子さんはどうしてる?」
「うん。お母さんも元気だよ♪」

相変わらず俺の胸から離れようとしない名雪。
………あんまり、変わってないな。
俺は名雪の様子に、自然に笑みがこぼれ落ちていくのを感じていた。

「うぐぅ…祐一君。誰?」
「おっと。あゆか…すっかり忘れてたぞ」
「うぐぅ…酷いよ」

酷いよ…と、言いながら不思議な目で名雪を見つめるあゆ。
その目は、ちょっと羨ましそうだった。

「名雪。そろそろ離れてくれないか?」
「え? あ、ご、ごめんね」

少し恥ずかしそうに、そして少し残念そうに俺から離れる名雪。

「あゆ。こっちは俺の幼なじみの名雪だ」
「よろしくね」
「名雪。こっちつきは人のあゆだ」
「こちらこそ…って、酷いよ祐一君!」
「そうだよ。今のは祐一が悪いと思うよ」
「ぐぁ」

さすがの俺も、一対二では勝てそうになかった。

「わかったよ。悪かったな、あゆ」
「ううん。別に気にしてないよ」

笑顔で言うあゆ。

「相変わらずだね、祐一は」
「名雪もな」

はて? 何か忘れてる気が…

「俺達を無視すんじゃねぇ!!」
「あ、そうそう。完璧に忘れてたぞ」
「ぐ…てめぇ…なめんなよぉ!!」

ごろつきは、怒りを滲ませた顔でナイフを懐からとりだした!
他の三人も、棒やナイフを構える。
酒場に居た客達は、騒ぎに巻き込まれるのを嫌い店からそそくさと出ていく。
俺は、そっちの方が助かる。
下手な客が居ても、邪魔なだけだからな。

「やれやれ。退屈しのぎにもなりそうにないな。名雪、あゆ、下がってろ」
「ううん。私も祐一と一緒に戦う!」

名雪はどこから出したのか、手に自分と同じぐらいの背丈もある一本の槍を持っていた。

「な、名雪?」
「私、祐一と一緒にいつか旅をする為に、ずっと槍の訓練をしてきたんだよ」
「…でも」
「大丈夫。お母さんのおすみつきだから」
「そうか。なら頼む」

俺は即答で返す。
まだ、どことなく頼りないが秋子さんのおすみつきなら心配することないだろう…なんせあの秋子さんだからな…

「祐一君! ぼくも…」
「あゆは隅っこで隠れてろって」
「うぐぅ、酷いよ! ぼくだって戦えるよ!」
「武器も無しにか?」
「魔法があるもん」

…魔法だと? あゆが魔法を使えるってのか?

「なら、なんか一発やってみろ」
「………ここじゃ狭すぎて出来ないや、てへ♪」
「もうちょっと、マシな嘘をつくこった」

俺はまだ何か言うあゆを無視して、ごろつきに注意を向ける。
三人がナイフ、一人が金属の棒か。
ノルマは二人か。

「名雪、絶対に殺すなよ。こんなとこで賞金首なんて冗談じゃないからな」
「わかったよ」

名雪は、そう言うと槍を逆に構え始めた。
突くことが攻撃の基本である槍、その刃の部分を逆にすることによって鋼の部分で突く気なのだろう。
そして俺は、剣を抜くと地面に置き鞘を手に握る。
俺は手加減を知らない、剣でやれば峰打ち(みねうち)どころか相手を殺しかねないからな。

「て、てめぇら! なめやがってぇぇぇ!!」

俺達が手加減同様のことをやってるのを見て、一人が顔を怒りで赤く染めながら俺に向かってくる。
相手は名雪のことを甘く見ているのか、名雪には棒使いが一人、俺にはナイフ使いが三人向かってきた。
その中の一人が、スピードを上げ俺に向かってくる。
俺は、ゆっくりと鞘を構えた。
リーチでは、ナイフよりも鞘に分がある。

「うらぁ!!」

言いながら、ナイフを俺に向かって一閃!
俺は後ろに一歩ステップを踏んでナイフをかわし、さらにステップに乗りながら一歩前に出て腹を拳で打つ!

「ぐぅっ!?」

濁った悲鳴を上げ、腹を押さえて冷たい床に倒れ伏すごろつき。
俺が次の奴に目を向けると、目の前には白く輝く刀身が映っていた。
ぎりぎりで体をひねってナイフをかわす。

「野郎…!」

俺は足のバネを使って、一気に二人のごろつきの目の前まで跳ぶと、ナイフを持っていない方の面を鞘で打つ!!

「ぐあっ!?」

顔を押さえてのたうちまわるごろつき。
ナイフを持っていなかったってーことは、おそらくさっき俺にナイフを投げつけた奴だったんだろう。
そして、最後のごろつきが俺の顔を狙ってナイフを一閃!
俺は冷静に屈んで避けると、

「みえみえなんだよっ!!」

と、言い放ち鞘でおもいっきりごろつきの腹をカチ上げる!!

どがしゃぁぁぁぁ!

「おわぁぁ!!」

ごろつきの体は、ふらりと宙を舞うと、カウンターの大量の酒瓶にまともに突っ込んだ。
ガラスが飛び散って、見るも無惨な状況である。
俺は、まだ顔を押さえているごろつきに一発蹴りを腹にかまして昏倒させた後、名雪に目を向けた。

「くそっ! このやろっ!」

ぶんっ! ぶんっ!

名雪は、流れるような動きで棒をかわし続けていた。
その目は、眼前に迫る敵ではなく、俺に注がれていた。
ごろつきはその視線に気づいているからこそ、本気で顔を怒りに染め、無様に金属生の棒を振っていた。
名雪は俺の視線に気づくと、待ってました♪と、言わんばかりの笑顔でごろつきに視線を戻した。
もしかして…名雪、お前俺に戦う所を見せたくて待ってたとか?

「行くよぉ!」

いきなり気合いを入れた名雪が、振り下ろされた棒を槍で進行方向を変え、さらに渾身を込めた突きをごろつきの腹にたたき込む!
その衝撃にごろつきはふっとび、またもやカウンターに無惨な情景が広がっていた。
………強い、何より無駄な動きが全く無かった。

「やるな、名雪」
「・・・」
「名雪?」
「名雪さん?」

どこに隠れていたのか、気配も感じさせずにいきなり名雪の側に現れるあゆ。
おぃおぃ…全然、気づかなかったぞ?

「くー…くー」

ずるっどてっ

まさに、そんな効果音がぴったしな場面だった。
ま、まぁ確かにもう10時をすぎてるが…
そういや、名雪は子供頃からこんな感じだった。
…まさか、器用に立って寝れる程進化しているとは思わなかったが。

「ど、どうしようか? 祐一君」
「そ、そうだな。とりあえず宿にでも運ぶか」

まさか、おいとくわけにもいかないだろぅ。



「しかし、一番役に立たなかったな、あゆ」

あの後、名雪を背負い宿にチェックインをした。
今は名雪を部屋に寝かせ、俺とあゆは食事がてら宿の食堂で休んでいたところだ。

「うぐぅ…だって、あんな狭い所じゃ魔法なんて使ったら生き埋めになっちゃうもん」
「そんなに派手な魔法しか使えないのか…?」
「う、うん」
「役に立たないな…あゆあゆ」
「あゆあゆじゃないよ!!」

怒って頬を膨らますあゆ。
そんな一つ一つの仕草がとても可愛く思えた………って、俺は何考えてんだ!?
あゆなんかにときめくなんて…俺、今日はどうかしてるのか?
き、きっと疲れてるからだな。

「まぁ、いつか魔法…見せてくれよな?」
「う、うん」
「どうした?」
「う、ううん。ただ今ね、祐一君すごく優しい笑顔だったから…」
「そ、そっか」

なぜか気恥ずかしくなって、目を逸らす。

「さて、そろそろ部屋に戻るか?」
「うん、そうだね」

この宿は、一階は食堂兼酒場。
二階は客室になっている。
俺達は少しきしむ階段を登り、お互いの部屋の前まで行く。
部屋は隣同士、いちよういっとくがあゆは名雪と同じ部屋だからな。

「それじゃぁおやすみ♪ 祐一君」
「おぅ。また明日な、あゆ」

そして、あゆが扉を開こうとした瞬間!

バタン!

と、音を立てて扉が開き、名雪が扉の外に出てきた。
中から流れる暖かな空気が、外の雪で冷えた空気と混じり合う。
名雪は目を一本線にしたまま、

「…らっきょも好きだもん」

ずるっどてっ








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