華音幻想伝 其の二
作 ルシフェル
「…逃げるか…」
「だ、駄目だよ!」
「食い逃げ常習犯がなにを言ってるんだ?あゆ、お前ならこのぐらい朝飯前のはずだ!」
「うぐぅ、食い逃げなんてしてないよぉ!」
「しかし…マジにどうするか…」
酒場でごろつき共と、一戦かまし宿をとったのはいいが…
俺達は夜が明けてから、路銀が底をついてたことを思い出していた。
「な、名雪さんは? 一人旅だったんだからお金ぐらい…」
あゆがその視線を名雪に向けると…
「くー…くー」
ぼかっ
「いたたた…う〜、いきなり殴るなんて酷いよ祐一」
涙目の名雪が殴られたあたりを、さすりながら反論してくる。
「お前が緊急事態に、ぐーすか寝てるからだろぅが。で?持ってるのか?金を」
「…は、はは」
「…もういい。持ってないのは十分わかった」
「ど、どどどうしよう?」
「しょうがない…もう一泊予約して仕事でも探すか」
「え? 逃げるんじゃ無いの?」
「冗談に決まってるだろ? あゆじゃあるまいし…」
心の中では、宿帳に本名さえかかなければ…と、後悔してたりするのは秘密だ。
「あの時の祐一君の目、本気だったよ!」
「そんなこと無いぞ」
かくして、俺達は一人一人に分かれて仕事探しをすることになった。
「あんた傭兵?」
「は?」
朝飯を食い終わり、二人を宿に残し仕事を探そうと町を歩いていると、あゆ並の少女が突然俺に声をかけてきた。
その少女は、目の端を釣り上げ肩で息をしている。
「傭兵なのって聞いてるのよ!」
「あ、あぁ。傭兵だが?」
「そう、なら…あたしの親友を助けて!!」
「…は?」
俺は本日二度目の間抜けな返事を返した。
そして今、依頼人(?)を連れて宿に戻ってきて、名雪とあゆを加えテーブルを四人で囲んでいる。
「で? とりあえず名前は?」
「沢渡真琴よ。真琴でいいわ…ところで、そっちの二人は?」
「気にすんな。つき人AとBだ」
「…どっちがAで、どっちがB?」
真琴、真顔で返すなよ。
「違うよ!」
「祐一、酷いよ…」
ぐあっ
「…俺の旅の仲間だ」
「ぼくは、月宮あゆ。よろしく、真琴ちゃん」
「水瀬名雪だよ。よろしくね」
「あぅ…よ、よろしく」
突然今までの俺の態度から一変して、態度が変わる真琴。
おぃ、俺には挨拶もなかったくせに…
「えっと…あゆに、名雪さんでいい?」
「うん」
「名雪でいいよ」
「で、あんたの名前は?」
…ホント二重人格だなこいつ。
「俺は相沢祐一」
「そぅ。それで祐一、依頼受けてくれるの?」
さして興味もなさそうに言うと、依頼の話を持ち出す真琴。
俺には許可もとらず呼び捨てだし。
俺はその態度を、なんとか我慢し話を続ける。
「依頼内容によってだな。助けてくれといったが…どういう経緯(いきさつ)だ?」
「よくはわからないの。あたし、山奥で美汐と二人で住んでたんだけど、食料の買い出しに行って帰ったら…もう居なかった…」
美汐? その誘拐された親友のことか?
「うぐぅ、誘拐されちゃったのかな?」
「…誘拐されたっていう、証拠は無いんだろう?」
「でも、部屋は荒らされてて! 鍵だって壊されてて! なにより、美汐は今まで一度もあたしに何も言わず出ていくことなんてなかった!!」
「・・・」
激しい剣幕で言う真琴。
…その瞳には、うっすらと涙さえ見える…
「…なんとかしてあげようよ、祐一」
・・・
俺は無言で後ろを振り向き、
「宿代は持ってくれるな?」
「え? そ、それって…」
「受けてやるよ、その依頼」
「…な、なによ! さ、最初っからそう言いなさいよね!」
目の端に涙を浮かべ、真琴はそう言った。
素直じゃないやつだな。
「お前らはどうする?」
俺は、目線をあゆと名雪の方に向ける。
「当然、私も手伝うよ♪」
「ぼくも、祐一君や真琴ちゃんの力になってあげたいよ」
「あ、ありがとう二人共…」
「ま、あゆは戦力外だけどな」
俺の一言がまたも引き金となり、一波乱あったのは言うまでもあるまい。
…一対三は法律上卑怯だと思うぞ…うん。
そして、月光がよく映える夜。
連日降り続いていた雪が、月光を反射し世界を照らし出す夜。
一人の青年が、宿の入り口に座り込んでいた。
飲みかけの紅茶を横に、剣の手入れをしている青年。
「ふぅ…今日も冷えるな…」
雪は降り止んでも、その寒さは一向に止むことはない。
(マスター…)
俺の頭の中に響く声。
俺は驚かず答える。
ん?
(マスターの今お考えの行動は、あまり賢いとは言えません)
わかってる。でもよ、あのままほっといたら………さすがに寝覚めが悪いだろ?
俺の相棒であり、俺の親友でもあるやつ。
7年間、共に生きてきた戦友。
あいつは笑いながら、
(私は、マスターのそういうところが気にいってます。妙に正直じゃないとことか)
どういう意味だよ?
(たまには正直になってはどうですか? あまり気持ちを隠していると、後で後悔しますよ?)
だからどういう意味だよ?
(…まぁ、いつかわかりますよ。きっとね)
俺は7年間こいつとつき合っている。
そう、この『華音』と…
『聖剣華音』、こいつはそう名乗った。
「祐一君、やっと見つけたよ〜」
いきなり声をかけられ後ろを見ると、あゆがコップを片手に立っている。
あゆはそう言うと、俺の隣に腰掛ける。
「あゆか…どうした? 眠れないのか?」
「うん。祐一君の部屋へ行ったら居ないから探しちゃったよ」
へへ♪、と笑い手に持っているコップの中の、ココアを口に入れる。
俺も置いてある紅茶を口に含む。
「どうだ? 記憶はまだ全然戻らないか?」
「うん…相変わらず、祐一君の名前と私の名前だけ」
「そっか」
何か…変な感じだよな…
いつもは馬鹿やってるのに、たまにこういう雰囲気になる。
…こういう雰囲気もたまにはいいけどな。
(素直じゃないですねぇ)
な、なにがだよ?
(いえいえ、別に…)
含み笑いを残す華音の声が、頭に響き渡る。
華音の特殊能力の一つ『心内通信』
華音との会話は口に出さなくてもいいんですよー、と読み返してもよし。
「どうしたの祐一君?」
さっきから黙り込んでいる俺を、不信に思ったあゆが声をかけてくる。
俺が「なんでもない」と、言おうとした瞬間だった。
突然、奥の闇に馬車の通る音が響き渡った。
「あゆ、部屋に戻ってろ」
「え? でも…」
「いいから早く! 絶対に外に出てくるなよ!」
俺はあゆの背中を押し、無理やり宿に入れるとその扉を閉じる。
まだ何か言いたげだったが、さすがにもう一度扉を開けてこちらに出てくることはなかった。
(来ました)
わかってる。
俺はあゆの気配が無くなるのを確認すると、通りの真ん中に立つ。
俺の予想通り、向こうの通りから馬車がこちらに向かって直進してくる。
(調査通りですね)
俺も馬鹿ではない。
心当たりも無しに、無責任に真琴の依頼を受けたりはしない。
犯罪組織『ヘヴン』
兵器の密売から、人身売買までやっている犯罪組織だ。
おそらくこの世界で、一番名の通った組織だろう。
馬車が俺の姿を見つけ、目前で急停止する。
急停止なんぞしなくても、滑車を壊して無理やり止めてたがな。
「あ、あぶねぇなこの野郎! 死にてぇのか!!」
手綱を置き、俺に怒鳴りかけてくる男。
腰には剣、横手にはボーガンも見える。
雇われ者か…もしくは、ヘヴンの手の者か。
美汐と言う女の子の手がかりとは、ヘヴンのことだった。
人身売買なんぞしてる組織ならば、おそらく誘拐なんぞあゆが食い逃げをするぐらい…否、名雪が立って寝ることぐらいごく自然なことだろう。
…名雪のはかなり迷惑だが…いや、その前にあゆのは犯罪か。
…話が横道にずれたようだ。
とにかく! ヘヴンを取り敢えず容疑者として調査を行った結果、深夜にここをヘヴンお抱えの馬車が通るということを知ったわけだ。
「おぃ、そこの悪人! 聞きたいことがある!」
「あ、悪人!?」
「あのヘヴンに協力してるくせに、悪人と言われて怒るのか?」
「!………どこまで知ってるかはしらねぇが…死ね!!」
男はいきなり横手のボーガンを手にし、こちらに矢を放つ!
だが、矢が放たれた瞬間、その場に俺の姿は無かった。
「!?」
「おせぇな…」
俺は静かに刃を、男の首に突き付ける。
男がボーガンに注意を向けた瞬間には、俺は一足飛びでここまで来ていた。
「死にたくなけりゃぁ、答えてもらうぞ」
「は、はいっ! なんなりと!」
…こいつは長生きするタイプだな。
「この写真の女を知っているか?」
昼に真琴から渡された写真を突き付ける。
写真に写っているのは、年の頃15、6程の少女だ。
顔は端正で綺麗な顔立ちをしている。
でも、普通写真ってーのはもう少しにこやかにするもんだろ?
その少女は現代の最新機器『かめら』を前にして無表情だった。
俺はその『かめら』ってやつを見たことも無いってのに。
その美汐って子は、そういった類の物を作るのが得意だそうだ。
この写真を写したかめらも、この子が作った物らしい。
「い、いえ。見たこともありません!」
バカ正直で結構。
「んじゃ、お前らの人身売買の本拠地とやつはどこにある?」
「それは…」
(前方よりエネルギー反応!…魔法です!)
「なにぃ!?」
俺は前も見ずに、馬車から飛び降りる!
そして、次の瞬間!
ドガシャァァァン!!!
派手な炸裂音と共に、馬車は粉々に砕け散った!
それも、男を巻き添えにして…長生きは…できなかったな。
(前方より人の影が接近中。距離はおよそ100M。おそらく魔法を放った本人かと思われます)
ちっ、新手か。
爆炎が広がる中、一つの黒い影が歩いてくるのが見える。
(距離50M。肉眼でも確認可能です)
あぁ、見えてるよ。
「危ない危ない。口封じはもっと早くにしておくべきだったかな…?」
笑いながら爆炎の中から出てきたのは、年の頃は俺と変わらぬような男だった。
黒ずくめで、手には一本の杖一つ。
「外道が、仲間をなんだと思ってやがる!」
「何を怒ってるんだ? あんな『駒』一人消えた所で、なんの支障も無いと言うのに」
無言で、剣を構える。
気にいらねぇ…気にいらねぇな。
(気をつけてください。この男のさっきの魔法、もし直撃してたら即死でしたから)
はっきりと恐いこと言うなよ華音…
(頑張って避けて下さい)
…善処するよ。
「愚かな…私と戦うつもりか?」
「あぁ。お前みたいな自信過剰の三流魔道士の鼻っ面を折ってやるのが趣味なんでね」
「ず、随分悪趣味なようだな」
眉を釣り上げて言う、魔道士。
ん?…もしかして、この程度の挑発に乗ってきた?
…にやり
「さぁんりゅぅぅ〜♪」
「ぐ、貴様ぁぁ!」
「どうした三流♪ 顔が赤いぞ?」
「ぬ、ぬぅぅぅぅぅ!」
(………マスター…あなたって人は…)
ん? どうした華音。
(もぅ…いいです…もぅ…いいんです。なぜ私はこんな人をマスターに選んだんだろう…いっそこの人を見放して他のマスターを探そうか…ぶつぶつ…ぶつぶつ…)
なにぶつぶつ言ってるんだ、華音?
(…なんでもないで…!エネルギーの収束を感知!来ます!)
「黒炎嵐(トラクション・ゲイズ)!!」
「げっ!」
ブオォォォォ!!
轟音を上げて、俺に向かってくる黒炎。
俺は炎を寸前にまで引き付け、横に跳ぶ!
ドキャァァァァ!!
後ろの壁にぶつかり、再度轟音を発する。
「ふん、この私を侮辱して生きていた者は………」
「生きていた者はなんだ?」
「な…」
随分と魔法に自信があったのか、顔を青くしこちらを見る三流。
「貴様、そのスピードはいったい…」
俺が「足には自信あるんだよ」と、言おうとした次の瞬間、二人以外の人の声が辺りに響き渡る。
「そこまでよ!」
「!?…何者だ! どこにいる!」
突然響き渡る声。
その声にわざわざご丁寧に反応する三流。
「ここよ!」
次の声が上から響いたのを聞き、俺と三流がほぼ同時に上を見る。
すると、宿の屋根に仁王立している人影一つ…あれは…真琴か?
「あたし、沢渡真琴が居る限り! あなたの好きにはさせないわ! 美汐を返しなさい!!」
「美汐?………あぁ、あの女のことか」
「知ってるのか!?」
予想外の答えに、反応する俺。
「…さ、さぁな?」
「いまさらとぼけても遅いわ! さぁ、美汐の居場所を白状してもらうわよ!! とうっ!」
次の瞬間! 真琴が屋根から飛ぶ!ってまじか!?
「…黒炎嵐(トラクション・ゲイズ)」
ゴォォォォ!
「え? ちょ、ちょっとこういうのは『ルール違反』じゃ…」
ドゴォォォ!
ひゅーーーどしーん…
・・・・・
………今の状況を言葉で説明するのは…あまりにも…あまりにも悲しすぎる。
「真琴。お前マンガ(特に童画)読みすぎ」
「いたたた………う、うるさいわね!」
ぼろぼろになりながらも、なんとか立ち上がる真琴。
「生きてたのか真琴?」
「生きてるわよ!」
「と、とにかく! 美汐はどこなの!」
「答えられんな。あの女は組織に必要なのだ」
「あぅー…組織?」
話が見えないからか、急に弱気になる真琴。
「犯罪組織ヘヴンのことだ」
「え!? み、美汐はそんな有名な組織に捕まったの!?」
「…えぇい!! いいから二人まとめて消し炭にならんかいっ!!黒炎嵐!!」
「「話の途中でヤケ起こすなっ!」」
俺と真琴の意見が、始めて合った記念すべき瞬間だった。
ドシュゥドシュゥゥ!
今度は、黒炎嵐を二つ俺達に向かって解き放つ!
俺は余裕で避けられるが…
「真琴!!」
援護に出ようとした俺を、三流が杖をこちらに向け牽制してくる。
「だーいじょうっぶ!! 妖狐炎舞!!」
真琴が手をかざすと、
ヒュボォォ!!
轟音と共に現れた新しい炎が、黒炎嵐を飲み込み消滅する!
「相殺しただと!?」
…真琴はどうやら心配ないみたいだな。
(マ、マスター早く回避して下さいぃぃぃ!!)
俺がふと我に返ると、目の前には黒炎が迫っていた………
って忘れてたぁぁ!!
「水竜よ…その御霊と契約せし我に力を与えたまえ…」
突然聞こえる呪文の詠唱。
この声は…あゆ?
「水鳴息吹(アクアブレス)!!」
シュゥゥゥゥゥ………
そんな音と共に、黒炎嵐が横手からの魔法に消火される。
「あゆか!?」
「祐一君、大丈夫!?」
「…あゆ、本当に魔法使えたんだな」
がくぅ、と効果音でも付きそうなこけをかますあゆ。
「うぐぅ…やっぱり信じてなかったんだね…」
「ちっ…三対一か」
三流が苦そうな表情で唇を噛みしめる。
気づかなかったが、位置的にも三人で三流を囲むような感じになっている。
「諦めなさい! さぁ、美汐の居場所を…」
「貴様、名はなんと言う?」
「相沢祐一だ」
「む、無視すんじゃないわよ!」
「ま、真琴ちゃん」
「…相沢か。覚えていろ、貴様はかならず殺す!」
「俺もお前は気にいらねぇ。次に会った時は、ふざけ無しで相手するぜ三流」
「祐一も無視すんなっ!」
「ま、真琴ちゃん、落ち着いて…」
「三流と呼ぶなっ! 私には『斎藤』という名前がある!」
「じゃぁ斎藤。逃げる前に美汐の居場所を、教えてもらおうか?」
「あぅー…無視しないでよー」
「真琴には、重要な役を後でやるから今は黙ってろって」
「あぅー…わかったわよ…」
「…この先の山のふもとにある町は我が組織の基地! そこであの女と共に待っているぞ、相沢!!」
斎藤の体が序々に消え始める。
同時に俺も、真琴の方に序々に動き始め、真琴の首ねっこを掴む。
「えっ?」
「では、さらばだっ!!」
「行けっ真琴! 正義のてっついだぁぁぁぁぁ!!」
「きゃ、きゃぁぁっ!!!」
ごんっ!
「ぎゃっ………」
「〜〜〜!」
最後に、小さな悲鳴一つを余韻に残し、斎藤の姿は空に溶けた。
真琴は悲鳴も出なかったようだが。
「ふぅ…すっきりした♪」
「ゆ、祐一〜〜〜…」
頭を押さえて、立ち上がる真琴。
「落ち着け、まこピー」
「まこピーって何よ!」
「結果的には、美汐の居場所も解ったんだぞ?良いことずくめじゃないか」
「あぅー…言われてみると、そんな気が…」
「だろ? 万事OK! 後は、明日斎藤を倒して美汐を助け出して終わりだ!」
「そ、そうね♪ なんかそんな気がしてきたわ」
「だろだろ? ってことで、今日は解散。明日の為によく寝ろよ」
二人に背を見せて、去ろうとすると…
「でも、それって…真琴ちゃんを投げ飛ばしたことになんの関係も無いような気がするよ…」
「あ…」
「そんなこと無いぞ」
「祐一君がそう言う時って、だいたい嘘ついてるよね…」
ちっ…あゆのやつ今日は妙に鋭いな。
まさか、『突拍子の無い事を言って重要な事は煙にまく』作戦が破られるとは…
さて、後残る手は…
「お、お休み〜♪」
「あっ、待ってよ祐一君!」
「待ちなさいよ、祐一!」
そして、夜はふけていく…
「くー…くー」
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