華音幻想伝 其の三
作 ルシフェル
俺は独り、ただ闇の中を走り続けていた。
遠くでは轟音と、悲鳴。
近くでは騒ぎ立てる者達の声。
その中を俺はただ走り続けた。
俺は潜入者だが、暗闇の中ではそのことに気づく者は誰も居ない。
侵入するならあくまで極力隠密裏に。
それが駄目なら現場を極力混乱させる。
俺が信じている兵法の一つだ。
町は寂れていた。
その原因は犯罪組織『ヘヴン』の基地が、町の中心に構えているからだろう。
そして今、俺はその基地の中を奥へ奥へと猛走していた。
つい、二時間ほど前………
「一人で行くぅ!? 本気なの!??」
「ああ」
ばん! と、テーブルを豪快に叩きながら真琴が俺を見る。
あゆと名雪がびくっと体を震わせる。
「俺が嘘を言ったことがあ…」
「あるわよ!!」
ぐあっ。
「ま、まぁ聞け。この人数じゃ戦力不足なんだよ。全面衝突すればこっちの負けは目に見えてる。それに、俺達の目的は美汐の救出で基地の壊滅じゃない」
「あぅ…」
反論も出てこなかったのか、真琴は小さく呻きながら考え込む。
「でも一人で行くなんて無謀だよ〜」
名雪が不安そうな表情で言う。
「別に本当に一人ってわけじゃない。お前らにもちゃんと働いてもらうからな」
「え?」
「俺は潜入のエキスパートじゃない。あれだけの基地に秘密裏に入り込む自信なんて無い。だから三人には色々やってもらうぞ」
基地については、下調べが済んである。
町の中心にある庭付きの豪邸。
それこそ、城並の広さがある豪邸だ。
将来はあんな家に奥さんと二人で………って違うだろ。
と、とにかくその家がヘヴンの基地になってるらしい。
町の住民の情報だから間違いあるまい。
「あゆは入り口からできるだけ派手な魔法を、屋敷に向かってぶっ放してくれ」
「え? う、うん」
「そのかわり派手なだけでいいからな。火系は禁止。火あぶりはごめんだからな」
「そ、そのくらいわかってるもん」
「ならなぜどもるんだ?」
「うぐぅ…祐一君のいじわる…」
いじけているあゆはおいといて、名雪と真琴に視線を向ける。
「名雪と真琴は、屋敷の裏手にある風車を、あゆの魔法を合図に二人で壊した後待機だ」
「なんで風車を壊すの?」
「真琴ちゃん。あの家の電気はどこから来てると思う?」
名雪がいまいちわかっていない真琴に説明する。
「…あ!」
「あれほどの家だ。おそらくほとんどを電気に頼ってるだろう」
「で、暗くなった屋敷に祐一が潜入して美汐ちゃんを救出するってわけだね?」
「名雪、お前なかなか物分かりが良いな。物分かりの悪い子供を二人抱えている俺としちゃ大助かりだ」
言いながら名雪の頭を撫でてやる。
「えへへ♪」
「物分かりの悪い子供ってだれのことよ!」
「うぐぅ、子供じゃないもん!」
しっかり自覚してるじゃないか。
…最近、名雪も幼児化が進んで来ているような気がする。
と、言うわけで俺は美汐救出作戦を実行中ってわけだ。
ちなみに、電灯がきえたってことは名雪と真琴は成功したみたいだな。
俺は夜目はきく方で、混乱して騒いでる男達を尻目に奥へ奥へと進んで行く。
「!………道が無い?」
(みたいですね)
行きどまりの様で、周りには扉や道らしきものは見あたらない。
華音が冷静に突っ込みを入れる。
道を間違えたか…?
(いえ、ここが最奥部と思われます)
あの三流魔道士のことだ。
恐らく最奥部に美汐は捕らわれている、とふんだんだが…
いや、待てよ。もしかして…
俺は床に手を当て探り始める。
(どうしました?)
いや、ちょっと、な。
俺はコン、と手で床を叩く。
この音は…
(空洞、ですか?)
びんご〜。
俺は腰から華音を抜き放ち、地面に向かって斬りつける!
すると、
ドガァァン!!
轟音を立て、床が崩れ去り階段が現れる。
(隠し通路ですか)
あぁ、多分ここに美汐が…
(でも、マスター。別に斬り倒さないでも、スイッチぐらいあったんじゃないですか?)
………こうやった方が気分が良いだろ?
俺は精一杯の強がりを言った。
光が、見える。
暗闇の階段を下って3分ぐらいになるか。
光は地上からかなり離れた地下にあった。
おそらくここまでは電気を運べなかったんだろう。
小さいロウソクの光が見える。
最初に思い付いた言葉は牢獄。
そこにはかなりの数の檻があった。
そして、その中の一つに少女が座っていた…見覚えがある。
真琴の持っていた写真の少女だ。
「君が、美汐?」
少女が俺の方に、視線を向ける。
注意深く俺を目で観察した後、
「………普通、初対面の人を名前で呼びますか?」
少し睨めつける様な目で話す少女。
言葉の内容通りなら、恐らくこの少女が、美汐。
「あ、いや、すまん…ってそういえば、名字は知らないな…」
「…あなたこそ何者ですか? ヘヴンの人には見えませんが」
「俺は君の親友の真琴に依頼されて君を助けに来た。相沢祐一だ、よろしくな」
「真琴!? 真琴は無事ですか? 怪我とかしてませんか?」
「あぁ。ぴんぴんしてるぞ」
「そう…ですか。よかった…」
美汐…いや、美汐ちゃんは始めて柔らかい笑顔を見せた。
俺はその笑顔をしばらく見ていたい気もしたが、あいにく急いでいる。
剣を水平に構え、
「美汐ちゃん、ちょっと急ぐぞ。扉から離れてくれ」
「ちゃん付けはやめて下さい。悪寒がします」
「ぐあっ…」
「本名は天野美汐です。天野でいいです」
そう言うと、扉から離れる。
俺は脱力した腕にもう一度力をこめ、
キンッ
金属音と共に扉の錠前がはずれる。
天野は、牢屋から出ると何かを探すように戸棚を調べ始める。
「どうした?」
「いえ、私の武器が確かここに…ありました」
と、言って天野が取り出したのは、
「…鎌?」
「鎌です」
天野が手に握っていたのは、2メートルはあるであろう程の大鎌だった。
「変ですか?」
「いや、変ってゆーか…よくそんな物を武器として選んだな」
「使いやすいので」
大鎌が使いやすい…?
「と、とりあえずここを脱出するぞ」
「真琴は?」
「外で待ってるはずだ、行こう」
「はい…あの」
「どうした?」
「………ありがとうございます」
「いや、礼を言われるほどじゃないさ」
「社交辞令です」
「ぅ…」
ぷい、と横を向きながら言う。
でも微かに頬が赤みを帯びている、そんな風に見えた。
「…行くぞ」
「はい。祐一さん」
そして、ゆっくりと俺達は階段に向かって歩き出した。
「よくぞ来てくれた。全身全霊を持って『歓迎』するよ」
次の瞬間、俺は天野の手をとり跳んでいた!!
『ぼく』達はまだヘヴンの基地の前で、祐一君と美汐ちゃんを待っている。
ぼくと、名雪さんと、真琴ちゃんは少し困っていた。
「絶対おかしいよ」
「…確かに、これだけ派手にやったのに人一人でてこないわね」
「祐一君達、大丈夫かなぁ?」
「私、見てくる」
「ま、待ってよ名雪!」
「名雪さん無茶だよ! 罠かも知れないよ?」
強引に行こうとする名雪さんを、ぼくと真琴ちゃんが押し止める。
そして…
ドガァァァァァンッ!!!
次の瞬間には、ヘヴンの基地もとい豪邸は跡形も無く吹き飛んでいた。
「え………?」
「う…そ…」
「・・・美汐…? 祐一?」
ゆう…いち…く…ん?
「ひゃははははっ! その程度か! 相沢祐一!」
後ろで響く甲高い声。
この声は、
「斎藤っ!?」
「面白い見せ物だったな。馬鹿正直に敵の言うことを信じた男の『悲劇』は!!」
斎藤が、わざとらしく悲劇を強調して言う。
「祐一は、祐一はどこっ!?」
名雪さんがめずらしく口調を荒げる。
「…あの爆発を見れば一目瞭然じゃないのか?」
酷く冷静に、残酷な言葉が耳に入ってくる。
できることなら…耳を塞ぎたかった。
斎藤のその一言で、名雪さんの手から槍がこぼれ落ち、真琴ちゃんは唇を噛みしめ、必死に声を押し止めている。
二人の目には涙が、うっすらと浮かび始めていた。
ぼくは…ぼくは…
「祐一君は死なないよ!! だって…だって約束したもん! ぼくの記憶を一緒に探してくれるって! だから…だから…死んだり…しない…よ…」
自分でも、情けないと思うような涙声だった。
「…ふん、茶番だな」
「俺はどっちかっつーと、その『茶番』の方が好きだな」
「!?」
「…ゆ、祐一君!?」
「祐一!?」
「美汐っ!?」
ホコリまみれの服を着ている男女。
真琴ちゃんの言葉からして、あの子が美汐ちゃん…?
「勝手に殺さないで頂けますか?」
「美汐〜!」
「よか…った」
名雪さんと真琴ちゃんの涙は、嬉し涙に変わりつつある。
真琴ちゃんは、美汐ちゃんに抱きついて顔を擦りつけている。
「祐一君!」
ぼくは祐一君に走り寄って…
さっ…ずしゃぁぁぁぁ!!
お〜、豪快だな〜あゆ。
「うぐぅ、なんでよけるんだよ祐一君!」
「なんでって、あゆが体当りしてくるからだろ?」
「うぐぅ…痛いよ〜」
「自業自得だ」
「抱きつこうとしただけだよ!」
「なんだ、そうだったのか? 俺はてっきり、あゆが俺の命を狙ってるのかと思ったぞ」
「うぐぅ、酷いよ…」
なんか…あゆとこうやって馬鹿やるのも、妙に久しぶりな気がするな。
(…なぜ感動の再会と行かないのです?)
さぁ、なんでだろうな?
(・・・)
なぜか、華音はそれっきり黙ってしまった。
実は、あの館から脱出するのは意外に簡単なのだ。
木造の家は主に、屋根裏の板は薄くできている場合が多い。
俺は天野と共に一気に屋根を突き破り館から離れた、ということ。
ま、普通の脚力じゃ無理な話だが。
「燃閃(バーストフレイム)!」
「妖狐炎舞!」
ブォォォォ!
斎藤が突然放った術と、真琴の術(?)が互いに干渉し合い炎のうねりを起こす。
「ちっ…貴様、妖狐の生き残りか!?」
「答える義理はないわよ!」
「それに、そんな余裕はあなたには与えません」
「!?」
いつまにか、斎藤の後ろまで移動した天野の大鎌が斎藤を捉える!
ぶぉぅっ!
超重量武器である、大鎌を軽々と振る天野。
だが、寸前で斎藤が鎌をかわす。
さらに剣を振り下ろす程のスピードで、もう一度大鎌で斬りつける!
なんつースピードだ、あれがあんな細身の女の子のなせる技か?
しかし、今度の攻撃も寸前で斎藤がかわす。
髪が地面に数本落ちるが、傷をつけるには遠い。
「はぁぁ!」
さらに、後ろから間合いを詰めた名雪が槍を水平上に突く!
普通の人間なら下がって避け、大鎌の餌食となるか名雪の槍に串ざしにされるかの二択だが、斎藤は意外にも上に跳ぶ!
天野が予想していたごとく鎌を上に構える。
名雪も体制を立直し、上を見る。
「無爪(ダーククロウ)!!」
斎藤の声と同時に、横手から黒い三本爪が名雪と天野に襲いかかる!
「一条の光の閃光を我に…光生息吹(ホーリーブレス)!!」
あゆが生み出した、光の閃光が名雪に襲いかかろうとする爪を消滅させる!
だが、美汐の方にまで光が届かない!
「美汐っ!」
真琴の悲鳴が響き渡る。
トン トン ダッ!
「はぁっ!」
俺は一足跳びで天野の隣に跳び、残りの爪を薙ぎ倒す!
無言で、斎藤が地面に降り立つ。
そこを狙い皆が動き出す。
ヒュッ!
「な…」
降り立った斎藤の脇腹をかすめたのは、華音の刃だった。
俺は誰よりも速く体勢を立て直し、斎藤に斬りつけた。
「…やはり、そのスピード。魔法などの力ではないな?」
「脚は自前だ」
「その異常脚力。我が組織には危険な存在…相沢祐一、消えてもらいたい…無理にでも消えてもらうつもりだが」
斎藤から、妙な圧迫感を感じる。
ふぅ、ただの三流悪役にはなってくれそうにはないな。
「お前、人間じゃないな?」
「えっ…?」
あゆや真琴は意外そうな顔をする。
その反面、天野と名雪は表情を変えない。
おそらく、二人共間近で闘い感づいていたんだろう。
「正確には確かに人間ではない。私は、ヘヴン幹部の『青き魔道士』斎藤様の『クローン人間』。私はあの方の陰にして、その力を受け継ぐ者だ!」
「く、くろーん人間!?………あぅー、美汐〜くろーんってどういう意味??」
真琴…俺泣けてきたぞ…
「主に人などの生き物と同じ形、同じ力を持つ生物を作り出すことです。私もその研究の協力を依頼されました。もちろんお断りしましたが」
「相沢! 貴様をここに呼んだ時点で、この基地を捨てることなどとうに計画していた!…結局、失敗に終わったがな」
「…何人死んだ?」
「さぁな。いちいち駒の数など覚えて…」
その言葉を聞き終える前に、俺は斎藤に向かって跳んでいた。
「おおおおぉぉ!!」
号砲と共に華音を横薙ぎに一閃!!
斎藤は…動かない!?
ドシュゥ!!
斎藤は動かず俺の刃をまともに腹に受けていた。
「!?」
ダッ!
俺は全速力で斎藤から離れた。
あいつは、腹に剣を受けながら…笑っていた。
…自分が冷や汗をかいているのがわかるってのは、嫌な感じだ…
「良い判断だ! もう少し私のそばにいたら、首をへし折っていた所だ」
「…油断すんなよ、みんな。どうやら向こうさんは…すでに普通のクローン人間じゃないみたいだ…」
「・・・」
皆無言で、それぞれの武器を構え始めた。
あゆは魔法を静かに唱え始め、名雪は斎藤との距離をゆっくりと詰め始める。
天野は武器を構えて動かない、真琴もそれにならい動かない。
俺は最前に立ち、華音を構える。
行くぞ…
闘いが始まる。。。
其の四へ
其の二へ
読み物のページへ
このページは
です
無料ホームページをどうぞ