華音幻想伝 其の四
作 ルシフェル
闘いの幕を開けたのは、斎藤の魔法だった。
「灼熱!!(ゴッドフレイム)」
一直線に俺に向かってくる炎の塊。
「祐一、あたしがやる!」
「?…頼む!」
俺は真琴の言葉の意味を理解し、横に跳ぶ!
炎は俺の横を通り抜け、後ろの真琴の方に…
「狐火(きつねび)!!」
真琴の言葉に呼応するかの様に生まれた炎が、斎藤の魔法を打ち消す!
「はっ!!」
気合いと共に、名雪の槍が斎藤を襲う!…が、寸前にかわされる。
「ふんっ!」
「きゃっ!?」
左手で名雪を払い退ける斎藤。
名雪の体は宙を舞い…
どさっ、と音を立てて天野の腕の中に落ちる。
「大丈夫ですか?」
「うん。美汐ちゃん、ありがとう〜」
「あゆっ! 魔法の準備は良いか!?」
あゆは返事の代わりにこくん、と頷いた。
「よし、俺の合図で奴に向かって撃ってくれ! 名雪っ、天野! 奴に接近戦を挑む! 手伝ってくれ!」
「うん」
「勝ち目は…あるのですか?」
「あるっ!」
俺は自信たっぷりに言い放った。
「あぅー…祐一、私は?」
「真琴は斎藤の魔法からあゆを守ってくれ!」
「任せといて!!」
「行くぞ斎藤っ!」
俺は地を蹴り、一気に斎藤に接近する!
剣を横薙ぎに一閃!!
すっ、と流れる様に剣を下がってかわす斎藤。
少し遅れて天野が斎藤の横を、名雪が後ろをとる。
だが、次の瞬間斎藤は、天野の目の前にまで迫っていた。
「その程度のウデで…」
ヒュッ!
「!…あ……う…」
無駄の無い動作で、天野の首を掴み締め上げる!!
「おぉぉぉ!!」
俺は一気に間合いを詰め、斎藤に斬りつける!
だが、その場所にはもう斎藤の姿は無かった。
「…私を殺す気か?」
後ろから声と気配を感じた瞬間、俺は地面に叩きつけられていた!
「ぐっ!?」
「げほっげほっ…」
斎藤の腕から解放された天野が、苦しそうに咳こんでいる。
斎藤が仰向けに倒れた俺の首を掴み、締め上げる。
息が…できな…い。
「ははははは!!」
「祐一を放してっ!」
名雪の槍が斎藤の右腕を捕らえる!…だが、
「もう一度言うぞ」
ひゅっ!!どかっ!
「…嘘…」
名雪が宙を舞いながら呟く。
斎藤の右腕には名雪の槍が突き刺さっている…だが、斎藤はそれを意にも介していない様子だ。
さらに斎藤は、その槍の刺さった右腕で名雪をはじき飛ばした。
こいつ、痛みの感覚が無いのか?
だとしたら、普通の人間より厄介だな…
「その程度のウデで私を殺す気か?」
「…そぅ…だよっ!!」
どっ!
名雪の攻撃に注意を向けていた斎藤の体を、仰向けの状態から蹴り上げる!
斎藤の体が宙を舞い…
「うおぉぉぉ!!」
地に着く前に、一瞬で体勢を立て直した俺の刃が斎藤の左腕を斬り落とした!!
『今だあゆっ!!』と叫ぼうとした瞬間、
「…黒炎嵐(トラクション・ゲイズ)」
どぅっ!!
「ぐぁぁぁぁ!!!」
俺の体は火に呑まれていた!
「祐一っ!」
「祐一さんっ!」
「………水鳴息吹!(アクアブレス)」
じゅぅぅぅぅ!!
あゆの放った魔法が、俺の体にまとわりついた炎を消した。
「ちっ…」
舌打ち一つして、俺に迫る斎藤の前に名雪と天野と真琴が立ちふさがる!
「祐一君っ! 大丈夫!?」
「…あゆか、何で魔法を撃った…」
「だって…だって…ぼく、見てられないよ! 祐一君があんなに苦しんで戦っているのに、ぼくは何もしてないよ! ぼくだって…祐一君の力になりたいよ…」
あゆの顔は見えないが、ほとんど涙声だ。
「そうよっ! あたしだって、もう黙って見てられない! 美汐達がこんなに頑張ってるのに…あたしだけ戦ってない!」
「・・・ごめんな…あゆ、真琴…」
でもな、あゆ。
その魔法じゃ斎藤に攻撃できんだろうが。
まぁ、そのおかげで助かったんだから何も言えないけど…
「祐一さん、クローンについて良い情報を思い出しました」
「?…どういう情報だ?」
「クローンには、確か弱点が在ったはずです」
「弱点? そんな都合の良い物があいつに?」
「はい。クローンを作る時、体のどこかに『核』を入れます。普通のクローンには必要無いんですが、力などを与える場合にはその核が媒体になります」
・・・・・
「…すまん、よくわからん」
「(ふぅ)・・・・・簡単に言えば、核は人間で言う心臓です。それを破壊できれば」
今、呆れた顔でふぅ…ってため息つかなかったか?
「倒せるってことか。体のどこかって、わからないのか? しかも今ため息つかなかったか?」
「はい。そこまでは。私は特別クローンに詳しいわけではありませんから…」
それより、後者の質問に答えて欲しいぞ…
「いや、十分だ。ありがとな天野…でも、どうせならもっと早く思い出して欲しかったぞ」
「わがまま言わないで下さい」
「…わがままか? 今の…」
「冗談です」
頼むから、真顔で冗談はやめてくれ…涙が出てくる。
「う〜、祐一も美汐ちゃんも遊んでないで手伝ってよ〜」
「すみません、今行きます」
「…核か。それ以外にあいつを倒す方法はなさそうだし、狙ってみるか」
決意を新たに、戦いに目を向ける。
名雪と真琴が前線、あゆが援護といった形だ。
左腕の無い斎藤は、戦いにくそうにしている。
「あゆっ!」
「?」
あゆが俺の呼び声に反応して、駆け寄ってくる。
「あいつの体中に威力を及ぼす魔法は無いか?」
「………う〜ん、やってみるよ」
「頼りにしてるからな」
「う、うん」
少し頬を赤く染めて答えるあゆ。
そして、すぐに呪文を唱え始める。
「炎の月の満ち欠けよ…魔王なる力の息吹よ…」
本格的な魔法みたいだ…
って、それよりも俺はこっちをなんとかするか。
「無爪!!(ダーククロウ)」
斎藤の手から伸びる黒い爪が、名雪と真琴に襲いかかる!
「甘いよっ!」
「甘いわっ!」
名雪の槍の一突きと、真琴の炎が黒い爪を薙ぎ倒す!
「・・・」
その隙を狙って、天野の大鎌が斎藤を襲う!
ひゅっ!
「ちぃぃ…」
よく見ると、斎藤の体には無数の小さな傷が見える。
この三人、なんかコンビネーション良いな。
気が合うのか…?
そんなことを考えながらも、俺は斎藤に近づく。
俺の接近を関知し、声を張り上げる斎藤。
「来るか! 相沢祐一っ!!」
片手を失いながらも、それを苦痛と思わない戦闘マシン。
その姿は…妙に痛々しかった。
「どりゃぁぁぁ!」
ヒュンッ!
剣を縦に一閃!
だが、斎藤は右手で剣の腹を叩き、剣をかわすと、俺に体当りをかけてくる!
「甘いっ!」
接近してきた斎藤の腹を、おもいっきり蹴り上げる!!
「がぁっ!?」
まともに蹴りを腹に受け、のけぞり倒れる斎藤。
「あゆっ! 今だ!!」
「我が盟約の名の元に。その力、ここに示さん!! 魔獄炎!!!(ラビスフレア)」
あゆの魔法の発動と同時に、斎藤の体から漆黒の炎が吹き上がる!!
ごぅぅぅぅぅ!!!!
「す、すごいよあゆちゃん!」
「あぅー、私の炎なんて比べものにならない…」
「これが…魔法の力…」
「なんつー威力だ…」
皆、それぞれの言葉で驚きを表現する中、あゆは・・・
「・・・・・」
ぺたん、と音を立てて無言で尻餅をついていた。
って、本人が一番驚いてどうする!?
「相沢…ゆウいチ………ころ…ス」
「「「「「!?!?」」」」」
あれだけの炎でも核は壊れないのか!?
それとも、核が無いのか…?
「あぅー、不死身なの?」
その体から今だ炎を吹き上げながら、斎藤は立っていた。
その瞳も、光を失ってはいない。
「あ、天野。話が違うぞ…」
「核が無い…? そんな・・・それじゃ本当に不死身ということに…」
「あゆちゃんの魔法でも駄目なの?」
「うぐぅ、もうぼくはお手上げだよ…」
くそ! 何かあるはずだ! 天野の言ってたことはあながち間違いとは思えない。
核は、どこなんだ…?
くそっ!? 思い出せ! 何かあったはずだ!!
俺は周りを冷静に見渡す。
ん…あれは…?
「あれか!!」
「祐一君?」
「ぐォォォ!!…コロ…す」
よろよろと、歩き始める斎藤。
俺はそれには取り合わず、別の方向へ歩く。
「・・・・・」
「祐一? ど、どうしたの?」
「俺の予想が正しければ…核はこっちだ」
「え?」
そして、俺が足を止めたのは切り落とされてなおぴくぴくと、まるで『心臓のように』動く左腕の前だった。
「!?…まさか、核は肉体から離れても動ける!?」
「そう、みたいだな」
「ウ…ア・・・」
のろのろと歩く…魂の無い人形。
「肉体の方も、あゆの魔法を受けてガタがきてる。でも、この核を壊すまで止まらないだろうな…あの人形…」
そう言いながら、剣を構える。
「・・・・・じゃぁな」
ドシュゥゥ!
どさっ。
華音が突き刺さった左腕と、肉体が止まり、倒れるのはほぼ同時だった。
・・・終わった・・・
「かんぱ〜〜い!!」
「何はともあれ、全員無事で良かったな」
「そうですね。今回は本当にお世話になりました…。真琴」
「あぅー…ま、まぁ助かったわよぅ」
「…まったく、正直じゃないな」
今、俺達は最初に真琴と出会った町の宿屋に居る。
なんとなく、あの屋敷の町には居辛かった。
これから、あの町はどうなるのだろう…
ま、それは住人の考えることだ、俺はこっちのやつらのお守りのことを考えるか。
「うぐぅ、祐一君今酷いこと考えてなかった?」
「ぜんぜんそんなことないぞ」
「祐一君の嘘つき…」
「ぐあっ…ま、まぁ飲め」
ちなみに、メンバーは四人だ。
現在の時刻11時と言えば、なぜ四人なのか解って貰えるだろう。
「天野…それはババくさいと思うぞ…」
天野はさっきから緑茶しか飲んでいない。
「物腰が上品と言ってください」
「この場合関係無いぞ」
「好きなんですよ。やっぱり、変ですか…?」
「・・・いや、なんか天野らしくて良いとは思うが」
「そう、ですか」
少し、照れてる…のかな?
「美汐〜、これからどうするの?」
「…真琴はどうしたいですか?」
「あぅー、美汐が誘拐された時、家は壊れちゃったし…特にあてない…」
「では、祐一さん達はどうします?」
「俺達…か?」
「うぐぅ、そういえばどうするの?」
とまどい気味に俺を見るあゆ。
「あゆ、何か思い出したか?」
「…ううん。まだ何も」
「そうか。なら、しばらく俺につき合ってくれないか?」
「どうするの?」
「・・・ヘヴンを潰しに行く」
「「「!?」」」
皆、一斉に表情を変える。
「ほ、本気なの? 祐一君」
「ああ。…あゆも嫌ならついてこなくても良いぞ」
俺がなるべく優しい口調で言うと、
「ううん。ぼくも行くよ! 祐一君の力になりたいし…ヘヴンを放っておけないよ」
「…ありがとうな」
言いながら頭を撫でると、あゆは少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「二人でヘヴンに立ち向かうつもりですか? 敵は何万も居るんですよ?」
「・・・・・それはわかってる。それでも、斎藤みたいな奴を放っておけない」
「そうですか。なら、クラタ国の姫に会ってみてはどうでしょう?」
「「クラタ国???」」
俺とあゆの言葉が、見事にハモる。
「…確か、美汐が前に電灯の修理に行ったところよね?」
「はい。姫ならもしかしたら、力を貸してくれるかもしれません。とりあえず、会ってみてはどうですか?」
「そう、だな。確かに一国のお姫様が力を貸してくれるなら、それにこしたことはない。でも、なぜ?」
美汐は、少し押し黙ると…
「姫は個性的な方でして…困っている人や、悪人を見ると放ってはおけないらしいです」
「良いお姫様なんだね」
「そうですね。私はできた方だと思います。ヘヴンについての情報も入るかもしれませんし」
「…あゆはそれでいいか?」
「うん。ぼくもそれで良いと思うよ」
あゆが頷くのを見て、美汐は、
「真琴、私達も案内がてら行きますか?」
「うん。私、お姫様に会ってみたい…」
「綺麗な方ですよ」
「ほぅ…」
やはり、お姫様ってぐらいだから綺麗なんだろうな。
どんな人かな…
「・・・」
「どうした、あゆ?」
気づくと、あゆがこちらを睨んでいた。
「うぐぅ…声に出てたよ…」
そう言うと、少し悲しそうに目を伏せる。
「・・・」
よく見ると、あゆだけじゃなく真琴も、美汐もこっちを睨んでいた。
…お約束すぎだぞ、俺…
「・・・はは、は・・・」
気まずい空気だけが、刻々と流れていった。
その後、俺達は自分の部屋に戻った。
俺は特にやることも無く、ベッドにねっころがりながらぼーっとしていた。
(…今回は少しピンチでしたね)
ん? あぁ。
もっと…強くなる必要があるかもな…
(今度行く国で、少し修行でもしたらどうです?)
そうだな。最近、実戦以外で剣を振るった覚えがないしな。
(コピーにてこずっている様では、ヘヴンは潰せませんよ)
わかった、わかった。
ちゃんと訓練しますって…
コンコン
「祐一君、起きてる?」
「あゆか?」
こんな時間にどうしたんだ?
「うん。ちょっと…いいかな?」
「開いてるぞ」
キー、バタン
開いた扉から、あゆがパジャマ姿で入ってきた。
「どうした?」
「う、うん。ちょっと、眠れなくて…」
そう言うと、俺の隣に座るあゆ。
「良いのか?本当に…」
「?」
「ヘヴンのことだよ」
「うん。ちょっと恐いけど、ヘヴンを放っておけないって考えてるのは、ぼくも一緒だよ」
「ごめんな。本当は先にあゆの記憶を探してやりたいんだが…」
あゆは嬉しそうに微笑んで、
「ううん。ぼく…祐一君の力に…なりたい、から…」
「そっか…ありがとな」
ぽんっと音を立て、俺の肩によりかかるあゆ。
・・・なんとなく沈黙が訪れる。
「皆で騒いでる時間も好きだけど、俺はこういう時間も…居心地が良くて好きだな・・・」
って、なんつーくそ恥ずかしいこと言ってんだ俺は!?
しかも、あゆからなんも反応も返ってこな…
「すー」
・・・・・
「すー・・・すー」
・・・・・
「すー・・・す」
「お前は名雪かっ」
ポカッ!
「うぐぅ!?」
そして、静かな夜はふけていく。
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