華音幻想伝 其の五
作 ルシフェル
「佐祐理姫は、幼少の時ご両親をヘヴンに殺されているのです…」
と、天野が暗い面持ちで語った。
ここはクラタ国の城下街。
俺、あゆ、名雪、真琴、天野はヘヴンの妨害も特に無くこの街についていた。
そして、佐祐理姫との謁見に向かう途中で、天野が佐祐理姫がヘヴンを憎む理由を語り出した。
「それ以来、佐祐理姫は人前ではあまり語りませんが…心の奥底でのヘヴンへの憎しみを誰かに託そうといるそうです」
「…」
全員、沈痛な面持ちで天野の話に聞き入る。
そこで、俺には疑問がわいてきた。
「なんでそこまで知ってるんだ…? 電灯の修理に行っただけなんだろう?」
俺の当然の疑問に、天野は冷静に答えた。
「佐祐理姫の親友であり、親衛隊長でもある『川澄 舞』さんに聞きました。城に居たのは短い間でしたが、彼女には良くしていただきましたから…」
なつかしむような瞳をする天野。
そして、しばらくも経たぬ内に、俺達は城門を見上げられる位置にまで来ていた。
「お、おぃおぃ…この人数じゃダメなのか?」
「すいません…規則なので…謁見できるのは『三人』までとさせていただきます」
バツの悪そうに門番らしき兵士が言う。
「お気になさらずに…」
と、天野が言うと真琴が不機嫌そうに・・・
「こんなに可愛い子が頼んでるのにこのロクデ…」
がしっ! と、言葉途中の真琴の口を慌ててふさぐ天野。
もごもごと、真琴が抵抗するが天野は額に汗を一つたらして、口を押さえたまま、兵士から遠のいていく。
どうでも良いが、少なくともただ命令に従ってる兵士に文句を言うような可愛い子は俺の知り合いには居ないぞ。
「どうするの〜?」
困っているようで、全く困った感じのしない声を出す名雪。
「うぐぅ…三人ってことは、二人余っちゃうよ?」
少し困ったように言うあゆ。
「…しかたない。二手に分かれるか…」
俺が打開作を出すと、皆が頷く。
「美汐ちゃんは、お姫様と知り合いなんだから決定だよね」
「そうだな」
名雪の案に、俺も賛成する。
「あぅー…私は?」
捨てられる直前の猫のような目をする真琴。
「…真琴ちゃんも美汐ちゃんと一緒に行かせてあげようよ、祐一君」
「まぁ…しかたないな」
ぱあっ、と明るい顔に戻る真琴。
「現金なやつだ…」
俺の呟きが聞こえてるのか、聞こえてないのか…真琴は、天野の手をとりはしゃぐ。
ぐあっ…今、真琴のやつ俺に向かって一瞬アッカンベーをしやがった…聞こえてたな。
…あいつ、精神年齢何歳なんだ?
「あと一人が重要だよね…」
名雪の呟きに、俺とあゆが唸る。
この三人の中の誰が行こうと、あまり結果は変わらんと思うしな。
「名雪。おまえ行くか?」
「え? 良いの…?」
意外そうに言う名雪。
そして、俺とあゆを見やる。
「うん。ぼくも良いと思うよ」
笑顔で賛成するあゆ。
「でも…」
「あゆの記憶の手がかりでも探す良い機会だ。遠慮せずに行ってこいよ」
「でもでも、祐一だってお姫様を一度くらい見てみたいんでしょ? あゆちゃんだってお姫様のお洋服とか、おしゃれの秘訣とかが知りたいよ♪ って昨日の宿で言ってたし…」
「ぐあっ…」「うぐぅ…」
俺とあゆが同時に唸る。
まぁ、お姫様っていう人物を一度くらい見てみたいのは事実だが…
あゆなんて、涙目になりながら唸っている。
「ま、まぁ行ってこいよ」
「そ、そうだよ。ぼく達はまたの機会で良いよ」
俺達は、なんとか喉から出た言葉に、ほっと溜め息をするのだった。
「では、ここで少々お待ちください…」
と、言って兵士は下がっていく。
謁見の間。
と、書かれたプレートつきの扉を開けて、部屋に通された私と真琴と名雪さんは、少し緊張した面持ちで待つ。
「あぅー…美汐〜」
などと言いながら、真琴が無意味に抱き着いてくるのは、居心地の悪さからでしょう。
「緊張するよー」
と、顔を硬ばらせる名雪さんですが、その言葉からは『緊張』の二文字は微かにも見えません。
「姫様のおな〜り〜!!」
と、周りの兵士が言った瞬間、どこからともなくラッパの音が響き渡ります。
これを聞いたのは二度目ですが…某時代劇と似通ってるので、やめてくださいとちゃんと抗議したはずなのに…
そして、扉がゆっくりと開き、中から現れたのは、綺麗な白を主としたドレスを纏う笑顔の女性でした。
「あはは〜っ、お久しぶりですね、天野さん。えっと、初めまして、沢渡さんと、水瀬さん」
いつもの軽い(?)笑顔で挨拶を交わすと、佐祐理姫は謁見の間の中央の椅子に座る。
「お変わりなくなによりです、佐祐理姫。…前にも申し上げました通り、美汐で良いと…」
「…下がっても良いですよ〜」
私の言葉には答えず、佐祐理姫は私達の後ろで剣を掲げている兵士に言った。
「し、しかし・・」
「佐祐理の友人に失礼でしょう〜?」
対談するのに兵士など居たら、私達が気を悪くするとでも思ったのか、佐祐理姫の笑顔が少し厳しくなった。
「は、はっ…申し訳ありません!」
と、言い早足で兵士は去っていく。
「すいません。ご気分を悪くされたなら謝ります〜」
笑顔を絶やさずに言う佐祐理姫。
「い、いえ、そんな…」
さすがの名雪さんも、カチコチに固まっている。
真琴は・・
「あぅー…」
と、うめきながら私の後ろで小さくなっています。
「真琴、自己紹介を・・・」
「あぅー…沢渡真琴よ」
と、短く顔を出して言うと、すぐに引っ込める。
「申し訳ございません。この子は人見知りなので…」
「いえいえ、かまいませんよ。よろしくお願いしますね〜、真琴さん」
佐祐理姫は、そう言うと今度はカチコチに固まった名雪さんに目線を向けて、
「名雪さん、水瀬名雪さんですね?」
「は、はい…」
「よくお話は聞いてますよ〜、よろしくお願いしますね」
…?
「よくお話は聞いてるって…どういう…? え?」
自分のセリフにも混乱している名雪さんが、あまり的を得ない質問をします。
「あはは〜っ、実際に会ったほうがわかりますよ〜……どうぞ、お入りください」
と、佐祐理姫が後ろを向くと、姫の入ってきた扉が再度開き、青い髪の綺麗な女性がゆっくりと歩いてくる…
「お、お母さん!!」
これにはさすがの名雪さんも、驚きの表情は隠せないみたいです。
面影や、顔が似ているのでもしやと思いましたが…やはり名雪さんのお母様ですか。
「あぅー…誰?」
相変わらず私の後ろで隠れている真琴は、顔だけだして私に言う。
その問いに答えたのは、私ではなくその女性でした。
「『水瀬秋子』と申します。名雪がお世話になっているみたいで…」
おっとりした口調で言う女性…秋子さんは、やはり名雪さんのお母様を連想させます。
はて…? 水瀬秋子さん…どこかで聞いた覚えが…
「お母さん、どうしてここに?」
未だ驚きの表情を隠せない名雪さんが、秋子さんに向かって言う。
「秋子さんには、前々から良くしてもらっていましたから。今日は丁度会いに来てくれていたんですよ〜」
変わらずノンビリと言う佐祐理姫の言葉に、やっと落ち着いたのか、名雪さんの表情が普段に戻る。
「そうなんだ…。全然知らなかったよ〜、お母さん」
「あらあら、そう言えば名雪には話して無かったわね」
と、右手で右の頬を押さえながら言う秋子さんは、そのことを今思い出したように話す。
唐突ですが、思い出しました。
『水瀬秋子』さん…最初聞いた時からなぜか聞き覚えがあるとは思いましたが。
『青い女豹』と『雪の女王』の二つ名を持つ女性がいると…風の噂で聞いたことがあります。
その者、青い髪と瞳を持ち、あらゆる武器を使いこなし、豹にも劣らないスピードと、雪を操る強大な魔力を持つ。
まさか…
「秋子さん。もしやあなたは…」
「あら、もうこんな時間」
まるで、私の質問を見越したように秋子さんが手に手をポンっ、と打つ。
「私は、昼食の支度をしなくては…。厨房をお借りしてかまいませんか? 佐祐理さん」
「はい。構いませんよ。コック達にも手伝わせましょうか〜?」
「いえ、久しぶりに会った愛娘に、手料理を作ってあげたいもので…」
ぴぴくぅ、と名雪さんが細かく痙攣する。
「お、お母さん…? あ、あのね…」
「どうしたの? 名雪。あぁあれのことね。大丈夫よ、私名雪が『修行を途中でほっぽって祐一さんを探しに行った』なんてことちっとも気にしてないから」
その言葉を秋子さんが言い終えた時には、名雪さんは真っ青になっていた。
ふふ、と笑いながら言う秋子さんは…妙に怖いです。
そして、名雪さんは厨房に向かう秋子さんの後姿を見つめつつ、ぶつぶつと念仏を唱え始める…
「ど、どうしました〜?」
「な、名雪? 大丈夫?」
突然の異常に、佐祐理姫と、何時の間に移動したのか真琴が名雪さんの側に移動していました。
「では…失礼しますね」
そう言って去っていく秋子さんの背中には…威圧感が漂っています…
あの二つ名を持つ者かどうかは、怖くて聞けませんでしたね。
でも、あれほどの腕を持つ名雪さんを、言葉だけで圧倒してしまうのですから、やはりあの人が…噂の『青き女豹』
「俗邪佛裡禅罪・・・・・・・・・」
ひたすら念仏らしき物を唱えつづける名雪さん。
…私と真琴と佐祐裡姫は、一時間後にその理由を知ったのでした…
「はっ!? 殺気!?」
「うぐぅ!?・・・どうしたの? 祐一君」
「いや…気のせいだ」
今、懐かしい殺気を感じた気がしたが…気のせいか。
俺は、名雪たちと別れた後、町を歩き回りそこらじゅうの景色をあゆに見せていたのだが…綺麗だね〜、とか、うわ〜すごいよ、祐一君! エトセトラエトセトラ。
全く記憶とはかけ離れた返答に、さしもの俺も、あゆの的外れの発言の度に毎回チョップをかましていた。
「しかし、あゆ。何にも思い出さないのか? 欠片も?」
「う、うん…何にも。欠片も思い出さないよ」
「…俺にぼでぃぷれすをかましたのが原因かもな。今度は俺がかましてやろうか?」
「うぐぅ、嫌だよぅ。それに、あれは誤って落ちただけだもん!」
「じゃぁ、もう一回蹴りをかませば…」
「うぐぅ、あれは記憶が無くなった後だもん!」
「ああ言えばこういう・・」
「うぐぅ! それは祐一君だよ!」
「うぐぅ…」
「うぐぅ〜!…真似しないでよ〜!」
あゆが少し涙目になってきた。
少しいじめすぎたか…
「悪い、悪い、冗談だ」
「うぐぅ…酷いよ、祐一君」
今日のあゆは中々機嫌を直してくれない。
「悪かったって。もうしないから…」
「ほんとう?」
「え…? あ〜…その…」
約束できる自信が無く、俺が返答に困っていると、後ろからなにやら喧騒が聞こえてきた。
「ん…? なんだ?」
「行ってみようよ、祐一君!」
興味津々の顔で言うあゆ。
相変わらず単純だな…もう忘れてるよ…。
「やれ〜! ねぇちゃん! そんなやつ畳んじまいな!」
「ヒューヒュー!!」
などと、野次馬どもの声は聞こえるが、肝心の中心が全く見えない。
「うぐぅ…ど、どいて…」
困った顔をして、前の野次馬の壁を見ているあゆ。
「しかたない。あゆ! 強行突破だ!」
「え?」
と、あゆが言った瞬間、俺はあゆの手を握り壁にまともに突っ込んでいた。
「う、うぐぅ〜〜〜!?」
後ろからなにやらうめきが聞こえるが、今は取り込み中につき無視だ。
そして、その壁を抜けた俺達が見たのは、ごろつき風の男と…端正な顔をした女性との喧嘩のようだった。
女性の両手には、トンファーが握られている。
綺麗なウェーブのかかった長い黒髪で、戦いやすくするためか、後ろで一つにまとめている。
戦場の女戦士、まるで戦乙女(ヴァルキューレ)と言う言葉が似合うような女性だった。
「なんだ…ただの喧嘩か…」
「うぐぅ! なんだ、じゃないよ! いきなりなにするんだよ、祐一君!」
「あぁ、悪い悪い」
視線をあゆに向けず、その喧嘩に意識を集中する俺。
ごろつき風の男の右のパンチが、風を切り、女性に肉薄する!
女性は慌てず騒がず、俊足で左に避け、右手のトンファーを相手の顎に一撃!
さらに、その衝撃で上に吹き飛ぶ前のごろつきに、左手のトンファーで腹を一撃!
ごろつきは、衝撃をもろに受け、吹き飛び、酒場らしき建物にまともに突っ込む!
ドカァァァ!!
…一瞬だった。
俺はそれだけで、女性の力量を悟っていた。
いくら相手がただのごろつきであろうと、パンチ一発を打つ。
その動作と同じ時間で、避けて、顎を打ち、さらに腹を打った。
簡単に考えれば、ごろつきの三倍のスピードで動いてるということになる。
「うぐぅ…すごいよ」
あゆが感嘆の声を上げる。
周りの野次馬は圧倒され、声も出ない。
「世界は広いな…」
まさか、これほどの使い手がそこらじゅうに居るとは思わないが、これぐらいの力量が無ければ、ヘヴンになど到底届かないだろう。
…もっと…強くならないと。
そう心の中で呟く。
そして、女性は倒れたままのごろつきに近づいていく。
ごろつきは頭を振りながら、しかし立てずに眉間にしわを寄せている。
「…妹はどこ?」
「し、しらねぇよ!」
どかっ!!
振り下ろされた女性のトンファーは、苦しんでいる男の右腕に突き刺さる。
「ぐあぁ!」
「どこ…?」
女性は冷徹な瞳で、男を見ている。
このまま行くと、ごろつきを殺しかねない瞳だ。
どうやら女性は妹を探しているらしいが、誘拐だとしてもあんなごろつきにそんなことをする勇気があるとは思えない。
「祐一君・・・」
目を女性とごろつきから背けているあゆがうめいた。
「あぁ、分かってる。ちょっと待ってな」
そう言って俺は女性とごろつきに近づくために、一歩目を踏み出した。
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