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12月30日
755
自室トントン
「佐藤様、お食事です」
「はい、今開けます」スゥー
「こちらです」
「はい」
「それでは、失礼いたします…」スゥー
「…いただきます」
ぱくぱく
やっぱり、和室には和食が合う。まぁ、そりゃそうかもしんないけど……とりあえず、和食コースを選んでよかった。
食事っていえば、最近あかりちゃんの手料理って食べてないな。
最後にあかりちゃんの作ったものを食べたのは……体育祭の時だったかな。きっと、あの頃よりもうんと料理上手になってるんだろ うな、浩之のおかげで。修学旅行の日は、2人は積極的にお互いがお互いに引き付けられるように近づいていってたのは、ぼくや志保じゃなくてもわかるほどだった。それはきっと、ゴールデンウィーク前の浩之の態度に関係あるんだろう。
あの日の浩之は、あかりちゃんに対して妙に冷たい態度をとっていた。あかりちゃんが話しかけにいっても、無視か、怒鳴るか。
でも、連休を明けてみると、雨降って地固まったみたいな感じにで、修学旅行当日では仲が戻ってた。いや、もっと仲よくなっていた。
きっと、あのときのゴールデンウィークに、決定的な何かがあったんだろう。晴れて2人は恋人同士になったんだ。
もちろん、本人達が直に言ってたわけじゃないけど、ぼく達は幼馴染みだ もの、なにも言わなくたってわかっちゃったよ。恋人に食べてもらうんだから、自然と料理は上手になっちゃうんじゃあないかな?
あの2人ならきっと幸せになれると思う。
かげながら応援するよ。
「ごちそうさま…」妙にしみじみとした気分を意識しながら、『お昼はいいです』という紙をそえて食器を廊下に置く。
なんだか、自殺してしまいそうな感じのシチュエーションだ…830
さてと、そろそろ出かけよう。
今日は、商店街をもっと抜けた郊外へ行くんだ。
パンフレットを頼りにして、まずは雨月山を目標に。よし。
いざ出発だ。
930商店街外れ
商店街も、外れになるともうあんまり人が居ないや。まだ雪が残ってるのも影響あるんだろうけれど。
ぼくは、パンフレットを取り出すと、雨月山の方角を確認する。「えっと……」
今来たのがこっち方面だから……雨月山はこっちだ。
940ぼくは、雨月山に向かって歩いていた。しかし、思った以上に雪道にてこずっていた。
10分歩いただけで、かなり疲れてしまう。
さすがに、歩く度に足が埋もれるような道じゃないが、1Km走るのと同じぐらいに疲労が溜まっているかも知れない。
「雨月山は……あ、あれかぁ」しばらく歩き続けると、ぼくの前方50メートルくらいの場所にお寺のような建造物が見えてきた。
あのお寺は、多分『雨月寺』だ。だからあそこがイコール雨月山ってことになる。パンフレットによると、この山には鬼が住んでたという伝説があるそうだ。
室町時代、雨月山の鬼たちは、度々下山してきては悪態の限りを尽くした。それで、時の長が送り出した3回に渡った討伐隊によって鬼達は退治された。
って簡単に書いてある。
955
雨月山 雨月寺本堂前入り口に着いてからわかったけど、本堂への階段は、かなりのものだった。階段と雪の組み合わせは、予想以上の効果を発揮した。
力を込めれば滑る、力を込めないと階段は登れないという、板挟み状態にぼくを陥らせた。
手すりがなければ、ぼくに登ることは不可能だったろう。「これが雨月寺本堂……」
見たところ、特にこの寺に変わった所はなかった。しいて言えば、階段の下の入り口に、例の鬼伝説の書かれた看板が立ててあったくらい。
一応、お堂の脇から道が続いているけど、恐らくこの雰囲気からするとこの先は…
雨月寺 墓場ぼくの予想通り、やっぱり奥にはお墓があった。
さすがに、ここを歩いてまわることはできないので、本堂の所へ戻ることにする。
1005雨月寺 本堂前
ふぅ…
本堂に戻ってきたのは良いけど、特にすることがなく、困った。とりあえず下にある鬼伝説の看板でも見てみようと思い、階段にむかう。
ここで、ぼくの経験上、ある言葉が浮かぶ。『階段というのは、降りる時の方が危ない』
ジャリ
ジャリ
ジャリ
慎重に、慎重に降りないと、滑って転んでしまうことになる。
ジャリ
ズリッ!
「うわ!?」
危ない!
落ち着いて…ジャリ
ジャリ
ジャリ
あと少しだ、あと少し…
「ねぇ、どうしたの?」トン
「!!!」
今、ぼくは誰かに肩を叩かれた。
その人は、普通に肩を叩いたんだろう。
叩いたというより、乗せたと言ってもいいくらいに優しい乗せ方だった。でもぼくは、丁度その時に片足を上げようとしていた。
それがまずかったんだと思う。
それにプラスして、後ろから声と同時に乗せられたのもまた、まずかった。更に言えば、その人の手はとても冷たかった。
結果、ぼくは階段から足を踏み外した。
こんなに考えることができたのは自分でもおどろきだ。せめて痛くないように体に力を込める。
:
:
:
あ、あれ?
お、落ちない……?変に思って力を緩め、目を開けた途端、
ドガッ!!!
「うっ!!?」代わりに、変なタイミングで凄い衝撃が体中を襲った。
*
1003
雨月寺 墓場
「……」
「………」
「…………」
「よし」
あたしは閉じていた目を開ける。
あとはお水をかけるだけ。もってきているお水をかけようと思って、ふと思い留まる。「お湯の方が良いかな」
確か、下にお湯が出る蛇口があったはず。
あたしは、その場所を思い出しながら、叔父さん達の眠っている場所を後にする。
雨月寺 階段前ジャリ……ジャリ……ジャリ
「ん?」
雪を踏む音が聞こえる。誰だろう?
不思議に思ったあたしは、音のしてくる方向を見てみた。ジャリ……ジャリ
そこには、手すりにつかまりながらゆっくりと階段を降りている少年がいた。
ジャリ
ズルッ
「ああ…危ない」
雪で滑るからにしても、あそこまでゆっくり降りるのは不自然だ。体の調子が悪いのかもしれない。それとも、もしかして観光の人なのかも。雪道に慣れてない人なら、あのくらい遅いかもしれない。
まあどちらにしたって、手を貸してあげるのが常識と言うもの。
あたしは、慣れた足取りでその人に近づき、「ねぇ、どうしたの?」
と、声をかけたと同時に肩に手をやった。すると、その子は突然ビクッと体を震わし、前のめりに倒れていった。
「危ない!」
あたしはとっさに力を解放して、その子をできるだけ圧力がかからないように、ふわっ、と空中で抱きとめた。
よし、あとは着地を……!!!
着地をしようと思っていたあたしに、思わぬ障害が立ちはだかった。
……鳥居だった。あたしは、鳥居を壊そうかとも思ったけど、さすがにそれはまずいなと思い、他の手段を考えようとした。
が、そのわずかな時間ですら、今では大きな時間だった。
ドガッ!!!
「うっ!!?」ああ、なんて嫌な声を…
丁度、あたしと鳥居とで挟まれてサンドイッチ状態になった少年が、呻き声をあげた。そのまま、頭が垂れる。
ちなみに、この子のお蔭であたしは全然痛くなかった。
鳥居との衝撃で、そのまま地面にゆったりと着地した。「まさか…死んでないよな?」
胸に耳を当ててみると、ドクン ドクンと、心臓の音がはっきりと聞こえた。力を使いながらの聴力だから、間違いはない。
お寺で人殺すなんて、そんなの洒落じゃすまないからな。「ふぅ〜」
ひと安心したあたしは、全身の力を抑える。
さて、本当にどうしよう。気絶しちゃったのはあたしが飛ぶべき方向を間違えたんだけど、この子が転んだのは……
どっちにしろあたしのせいだった。
一応家に運ぼう。ほとんどが自分の責任であるだけに、救急車を呼ぶのもめたらわれた。
「よっ、と」
この子、男にしては軽いな。おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかったな、急ごう。
買い物のついでにお墓参りしたために、こんなことになるなんて。ついてないなぁ。
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