境界性人格障害(境界例)について




■マスターソンによる境界例の概念■

マスターソンは、境界例の中心的問題は性格障害、発達段階にあるとしつつ、その根本的問題は分離と固体化
の問題、つまり母親から分離し独立していくプロセスでの失敗がやがて思春期になって再燃し、それが親に
見捨てられてしまうという強い不安が彼らの主たる感情である・・・と述べている。

境界例は人格障害であり、それは決して分裂病に限りなく近いというわけではなく、性格的な安定感がないこと、
感情の不安定さ、あるいは衝動性の高さ、自殺という行為の多いこと、虚しさ、見捨てられ感が強いこと、感情、
対人関係、自己概念
という3つの大きな柱を機軸にして、この点のゆらぎのある一群を境界性人格障害と位置付けたのである。



■性格障害としての境界性人格障害■

下の8つのうち、5つが揃えば境界性人格障害と診断できる

@不安定な対人関係 これは不安定できわめて強い対人関係のパターンをもっており、
極端に理想化したかと思うと、極端に批判する、価値下げをする
といった対人関係の障害
A衝動性 これには自己を傷つけたり、お金の極端な浪費、性的乱れ、麻薬
の乱用、衝動的な食行動の異常も含まれる
B感情の不安定性 普通の状態から鬱状態、焦燥感の強い状態、不安の状態というも
のが行ったり来たり、きわめて激しい動きをするといったものである
C不適切なほどに強い怒り そしてその怒りのコントロールを失っている状態も定義の1つに入る
D自殺の危険性
E自己同一性の顕著な混乱 たとえば自己イメージがはっきりしない、人生の自分なりの目標が
もてない、価値観が定まらないなど
F空虚感 虚無感、退屈さといったような感情に常に苛まれつづけていること
G分離不安 人に見捨てられることを極端に恐れてそれを避けようとする強い傾向

この境界パーソナリティー障害(BPD)の治療についてですが、この障害の患者と治療者との関係はどうしても深くならざるを得なくなり、また患者が治療者にケアされる事を時には圧倒的に求める為に、治療者の患者に対しての強い葛藤を引き起こすので、なかなか難しいと言われています。

 どうして境界パーソナリティー障害(BPD)になるのか?ですが、米国では、患者の多くが子供時代に性的・身体的な虐待を受けていると報告されています。女性の患者が多いという報告では、性的虐待との関連が指摘されています。
 しかし一概に虐待だけが原因ではなく、きわめて多くの要因が関わっていると言われていて、遺伝的・身体的な要因も否定できないと言われます。

 更に境界パーソナリティー障害(BPD)を包括する、もっと感情の不安定な状態の幅を広く捉えるボーダーライン(境界例)という疾患概念があり、境界パーソナリティー障害(BPD)という診断名は元々この疾患概念から生み出されたものです。
 感情の動きが極端に不安定という特徴がひとつの診断名として分類されたと思われ、専門家の間では「不安定パーソナリティ障害」と名付けた方が適切ではないか?という議論もあります。

 ボーダーライン(境界例)とは心が不安定でアイデンティティー感覚が薄い人々の状態を包括する心の不安定な状態の幅がとても広い疾患概念なのですが、この疾患の発生原因が、肉体的な病気のようにははっきりとしない事が多いために、これは症候群(シンドローム)ではないか?と考える方々もいます。

 ただ、基本的には幼児期からの養育者との関係に何らかの歪みがあったとされていて、「ボーダーラインの子はボーダーラインの親が作る」と言うJ・F・マスターソンという専門家もいます。

 そのため、治療には長い年数と本人の成長が必要と言われています。

 私は、乳・幼児期から始まる養育者との関係の歪みを、肉体的から精神的まで、攻撃的な状態から独善的に溺愛する状態までのとても幅の広い視点から見る”児童虐待”とみなして、そのような状態が心に「深く激しい心の傷つき(心的外傷=トラウマ)」を生み出しているのではないか?と考えています。



『ボーダーラインの心の病理』 町沢静夫/著 創元社
 『成熟できない若者たち』 町沢静夫/著 講談社
 『性格は変えられる』 町沢静夫/著 KKベストセラーズ
 『境界パーソナリティ障害 その臨床病理と治療』
           J・G・ガンダーソン/著 松本雅彦・他/訳 岩崎学術出版社
 『退却神経症』 笠原嘉/著 講談社現代新書 講談社
 『自己愛と境界例』  J・F・マスターソン/著 富田幸佑・尾崎新/著 星和書店

   『青年期境界例の精神療法』 J・F・マスターソン/著 作田勉・他/訳 星和書店
 『青年期境界例』 成田善弘/著 金剛出版
 『自己愛人間 現代ナルシシズム論』 小此木啓吾/著 朝日出版社
 『AERA Mook15 精神医学がわかる』 朝日新聞社
 『境界例とその周辺』 悳智彦・衣笠隆幸・伊藤洸/著 金剛出版
 『DSM-IV 精神疾患の分類と診断の手引』 医学書院