勇者の定義-パンドラの箱を開ける者
私は魔法使い。勇者を探す旅をしています。
他にも旅の仲間はいる。
しかし勇者という気質を持ったものには出会えていない。
「僕はこの城からは離れられない。僕の代わりに世界を見てきてほしい」
そう言ったのは幼馴染でもある王子アルベルト。
世界は今魔物や怪物でにぎわっていた。
私の魔法は生まれ持ってのもの。呪文は気持ちを入れるためのもの。
「リラ。あっちの森にドラゴンが出たらしいよ」
ヤクが先発から戻ってきた。
「ありがとう」
少し街道を進んでいくと道端にうずくまった男を発見する。
「やっと見つけた」
彼はそう言って顔を上げた。
身なりはぼろぼろの服を着ているが、幅広の剣を持ち、体格もほどほどに鍛え
てありそうだった。
私はその美しさに一瞬見とれてしまった。黄金に輝く髪と瞳に吸い込まれそう
になる。
「リラ、会いたかったよ」
「なぜ名前を知っているのです?」
「なぜって運命だからさ」
彼は立ち上がって言う。
「俺が君の勇者だ」
訳がわからなかった。とにかく先を急ぎますと彼を無視していく。
「ねーついて来るよ」
「いーわよ気にしないで」
だいたいいきなり勇者だといわれても信じられないというのが当然だ。
遠くで竜のなく声がする。
近づくと他にもその竜に怪我をさせられているものがいた。
私は彼らの傷を見る。
「この位なら大丈夫ね」
ふと見ると彼がいた。
「俺が倒してやるよ」
そういうと先ほどの男は剣を持ってジャンプをし、大きく振りかぶる。
彼はその巨大な竜を一撃で倒してしまう。
「そんな」
竜は悲しい悲鳴をあげて息絶える。
怖かった。その力が。
本当に勇者なのだろうか。
「強いだろう?俺は」
「でも竜は泣いていたわ」
「ドラゴンだ。殺さなければこっちがやられる。それにお前だって呪文を唱え
ていたはずだ。俺がやらなければ」
そうかもしれない。でも。
「だめ。あなたは勇者じゃないわ」
そう言って私はヤクを連れてその場を去る。
何日かが過ぎてヤクは言う。
「あいつ何だったんだろうね。すごい強かったし、剣もいいものを持ってたよ」
道具や薬に覚えのある彼は実際手にしてみたかったのだろう。彼の持っていた
剣を。
「わからないわ。でも私はとてもこわかったわ」
ヤクは黙る。彼もそれは感じたのだろう。
有無を言わさずに切ってしまったドラゴン。
強すぎる彼は戦士かもしれない。けれど勇者と呼ぶにはあまりにも強い。
「人は自分とは異なるものを畏れるよ」
「そうだけど」
「君にもわかるはずだろう」
小さいころから魔法を使いみんなを怖がらせたのは物心ついたときからだった。
「とにかく戦力はあったほうがいい。連れて行くよ」
ヤクはびしりと決定する。
小さいわりにリーダーの彼だった。
彼が同行するようになって魔物はまだ現れない。
彼の名はルイ。気づいたときには私を探していたらしい。
「きっと運命だよ」
彼は優しく言う。私の前ではとても紳士で優しかった。
魔物を倒す姿は到底想像できない。
彼の優しさは心地よい。前から知っているように。
「俺は君を守るために生まれてきたんだ」
平気でそんなことを言う。
やがて真実を知ることになる。
古の城は精霊たちの住処だった。
精霊たちは私を奥へと招く。
そこには美しい宝石でできた箱があり、ふたは開けられていた。
「これは何?」
「パンドラの箱。人間は決してあけることのできないもの。けれど彼は君の力
を使い開けてしまった」
「よくわからないわ。でもこれのこと知ってる。昔ここに来たこと、ある」
小さいころ、森で迷いこの城で過ごした。泣いている私を精霊たちは優しく抱
いてくれた。
「そしてそのとき一緒にいた彼はこの箱の誘惑に負けたんだ」
あの少女と共に生きたいのだろう。ならば叶えてやる。王子としてのお前は決
して彼女と共にはなれないのだからな。
「彼の手でこの箱はふたを開けられ、俺はそのとき彼の中から生まれた。お前
だけの勇者となるために」
「アルなの。あなた」
「あの日以来、お前とアルは共に城を出ることを禁止され、二人であうことは
叶わなくなった」
「私のせいだもの。城中大騒ぎだったわ。王子が行方不明だって」
「この城は普通の者には見えない。お前がいたから城が開かれた。アルの方が
この城に侵入したんだ」
私はどこからか聞こえる声にいざなわれ、彼は私の手を放すまいとついてきた。
「彼はこの箱の意味を知っていた。それでもその恐怖よりも絶望よりもお前が
欲しかったんだ」
「この箱を閉めるとどうなるの」
「魔物はいなくなるだろうな。でも彼の命もないだろうね」
「彼は知っていたのよ。私を送り出したときから。そして私に殺されることを
願っている。でも本当は生きたいはずよ」
きっとパンドラは願いを叶える。いろいろな人間の感情をそのまま姿と力に変
える。
魔物だって人間が変えてしまった。怪物が怖いものだと思ったから彼らは強い
力を持った。
「大丈夫、本当に強い願いは叶えられるもの。そして努力すれば必ず道は開か
れるわ」
「ではパンドラを受け継ぐ人よ。願いを込めて封印を」
「ありがとう。ルイ」
そして彼は消える。
恐怖と絶望の箱に触れるとめまいがした。けれど私は自分に負けたくなかった。
パタン。
世界は一瞬静かになる。そしていつもの色に戻っていく。
城の外にはヤクが待っている。
「終わったんですね」
さびしそうに笑っている。
「ヤクはこれからどうするの」
「一度家に戻ってから城に行きます。アル様によろしくお伝えください」
「うん。今までありがとう」
「いえ、リラ様もお元気で」
彼の去った後。
「リラ様?アル様によろしくお伝えください?」
彼もアルの知り合いなのだろうか。
城に着く。アルが部屋に呼ぶ。
「ただいま戻りました」
「悪かったな、リラ」
「もう何も恐れるものはありませんね、王子」
その姿は彼と同じ。
「元の姿になったのね、アル」
「ありがとう、そしてこれからも共に生きてくれるか」
「もちろん」
ヤクは執事代理の仕事であわただしく城をかけている。
もうすぐ二人の結婚式だというのにまだ城の魔法が解かれて余韻が冷めないら
しい。
いやあの二人の熱愛ぶりに仕事が手に付かないのか。
「二人ともちょっとは遠慮してください」
一向に進まない仕事に八つ当たりもしたくなる。
「じゃあ手伝うわ」
ついにらまれてしまう。
「ごめんなさい、ヤク」
「お前が気にしすぎだ、ヤク。間に合わないんなら延期するか?」
「あなたも少しは他のものに気を使ってください」
「だいたいお前が急がしたんだろ。二人で会えるようになってそんなに間が無
いんだ。こうなることは予想できただろ」
「昔のあなたのほうがかわいかったです」
「俺もそう思うよ」
結局負け犬の遠吠えのヤクであった。
人の思いは簡単なものではないけれど、あきらめないで欲しい。
パンドラの箱はあなたの中にも存在する。
希望を決して捨てなければその箱は開かれないはず。
そして開かれてしまったときはたった一人のあなたの勇者を見つけてください。
必ずあなたの傍にいるはずですから。