白夜 



光子で合成された透明ゼミが
高層ビルを飛び交っている
大量発生した彼らのおかげで
空に太陽もないが夜もない
真昼だ
世界は異様に輝き悲しいほど美しい

路上では間違いがたまに起こる

ジャイ、ジャイ、ジャイ
車に引かれて平らになった犬に
粛清セミは群がった
人々は穏やかに笑って
ビアウチフル!
美しすぎる街並みをまた歩き出す

死体は蒸発する
奴らは言う、だから死と醜は存在しないのだと

耳が痛くなって、白いカフェに逃げ込んだ
死んだ父の帽子を尻のポケットに忍ばせている
奴らに見つかれば頭ごと食われてしまう
闇はいかほども存在してはいけないのだ

ワルトのミキがウエイトレス
ミキはもとが漫画だからプレスがいきとどいて
横から見ると見えなくなる
正面から、しっぽを振り回して注文を待っている

アイス カッフィ!
これで僕はアイスを飲んでる男ってわけだ
ついでにタバコ吸う男になってみた

丸いテブルにも平らなミキにも影が無い

先客がいて、目が合うがすぐそらしたのは
一本のアイスクリムトを交互になめあう
ママと坊やだ
屈託無く笑う親子の振りだ
しかしどちらが親かほんとうはわからない
今坊やは、しかたなくママのオモチャしてるが
ママは昔みたいにオモチャで転がりたいのだ
坊やは明日じいさんか?

気の毒に
ママの皮膚はすでに薄い氷が張っている
笑うたび、目じりのシワから
氷のかけらが剥がれ落ちている
ゴムの坊やは坊やで
しょんべんをちびっているのだろう

彼らに影があるのか、あるいは彼らが二十世紀の
幻灯の影なのか、足元を見る勇気は僕に無い

白夜に雨が降ってきた
ジャイ ジャイ ジャイ
透明ゼミの鳴き声は、濡れたガラスつきぬける
僕の帽子はここでもかぶれない
ポケットにあるのは
最後に残った僕の夜だ


                
                      (2002.8.25)
arabesque1
Debussy
センチメンタルキャメラ