なまこの女 


昨日のことだ
バケツの中で
会うなりもうノスタルジック
これは命の原型だと
朝市で僕は思った
なまこの女である

家に連れ帰るとハイテンション
僕の胸やら尻に張り付いて
吸ったりして
しばらく延び縮みをくりかえし
子供みたいにはしゃいで
薄黄緑色に発光し
口からは黄土色の媚薬を分泌し
あらゆる角度から
その原始の下等の模様を見せて昂ぶり
なにやら自分の叫びをきいて
引きちぎれるらしい

日が落ちて
遠雷が一つ落ちたとき
暗い部屋がぼおーっと
青白に浮かんだとき
ナマコの女は疲れ果て
バタリ はがれてしまって
落ちた床から僕を見上げて
‥‥そろそろ帰らねば
と虫みたいな悲しい声だった

どこから来たの?
そんなことも聞いていなかった

自分を卑下するように
‥‥遠くからです
うんと遠くからです

十億年くらい昔からですか?

‥‥昨日からです

そのうちに激しい雨が来て
風が部屋まで入ってきた

‥‥えらそうにしないあなた好きだった
これはほんとです
ポロポロ泣いた

深夜なまこの女は
雨に叩かれる国道を
たまにトラックのヘッドライトに
その蛍光色を浮かび上がらせ
ずりずりと這って帰っていった
昨日の方向へ

昨日ほど遠い昔はない


    
         
(2003.2.3)


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