2004/09/15
Tさんと逢った夜
旅行から帰って、一度だけTさんと逢った。

友達と食事に行った夜、早くお開きになったので彼に電話してみた。
かけ直すと言われてしばらく待っていたけど、なかなかかかってこなかった。
どうせ飲んでいて取りこんでいるのだろうと思い、諦めて帰ることにした。
自宅近くまで来た時やっと電話がかかってきた。

もう12時近かったが、知り合いの店に行こうと言うので、OKした。
旅行のおみやげを取りに家に帰って、すぐ夜の街へ引き返した。

店に着いてずいぶん待ってもなかなか現れなかった。
もういいや…帰ろう…と、電話を入れると待っていろと言う。
しばらくして、彼は自分の店の従業員と一緒に現れた。
ゴルフの後で仲間達と飲んでいたらしく、相当酔っていた。

店の従業員の人たちは誰も彼のことを社長とは呼ばない。
みんな「兄さん」と呼び、本当に兄弟のように慕っている。
店長初め、私も何人もの従業員の子達を知っているけど、彼らは羨ましいほど仲がいい。

この夜の彼の”子分”は初めて会う人だった。
普段は支店にいるか、営業で全国を回っていると聞いて納得した。

Tさんはその人のことをずっと気にしていた。
その人はつい最近離婚したらしく、はっきりとは言わないが、責任を感じているようだった。
出張ばかりですれ違いが多くなったのが原因では…つまり、自分のせいではないか、と。
「そんなことないですよ」
その人は繰り返していたけど、酔った彼は同じことを何度も繰り返した。

「店の子たちには、家庭や家族っていう普通の幸せを大事にしていて欲しいんだ」

店のママに向かって言うのを、彼らしい考え方だと、私は黙って聞いていた。
そして彼は隣にいる私の手を握って言った。

「俺にはできななかったから…」

したたかに酔っている彼の口から出た言葉。
私は知っている。
Tさんが普通の家庭に憧れているのも、自分にはできないと思っているのも。
今まで何度も話してきたから、彼の気持ちはよくわかっている。

本当はゆっくり話したかった。だけどそれは彼が酔っていない時に。

2時になり、従業員の子が彼を店まで送っていくというので、そのまま別れた。
お土産を渡してもわけがわからないだろうと思い、渡さなかった。
その後結局ふたりで逢うこともなく、お土産も渡せないまま…私はこっちへ来た。
日記才人