「足音」

森広憬

金曜日で明日が休みという気のゆるみもあって、友人と飲んで帰りが遅くなってしまった。最終電車に何とか乗って駅までは帰ってきた。タクシー乗り場には二十人ほどが並んでいる。乗れるまでには30分以上かかるだろう。自宅まで少し距離はあるが、歩いても20分少しで着くので歩くことにした。

日のある内は明るい道だが、夜は裸電球の外灯がぽつんぽつんとあるだけの、暗く気味の悪い道になる。千戸程の大きな団地と駅を結ぶ近道だが、うっそうとした雑木林の中を通る狭い道なので、暗くなると人通りは無くなる。

城田英樹は30分以上タクシーを待つより、暗い道を選んだ。選んだのは城田だけでなくもう二人いた。先頭は城田だった。広田は少し早足であるいた。後ろから来る二人の足音がだんだん小さくなっていった。この暗い雑木林を抜ければ団地の外灯が輝く敷地内道路に出る。

後ろの足音が早足で迫ってくるのが分かった。城田もつられて早足で歩きだした。後ろの足音はしだいに迫ってくる。城田は追い越されたら、そのとき顔を見てやろうと思った。すぐ後ろまできた足音がきて横をすり抜けた。・・と思った。しかし誰も前に現れなかった。足音もどこかに消えてしまっている。ふと、倒れたのかと思って後ろを振り向いて見たがだれもいなかった。城田はもう団地の敷地内道路のそばまで来ていた。歩いてきた城田の後ろの雑木林の道は、真っ暗な底なしのブラックホールのように静まり返っていた。小走りで雑木林を抜けると自分の部屋まで一心に帰った。

翌朝いつものように近道を通って駅まで向かうと、途中で警官が道を塞いでいた。警官は城田を見つけると近寄ってきて、

「昨日の夜12時頃、この道を通りませんでしたか?」

「・・何かあったんですか?」

「昨夜12時頃、会社帰りの男性が刃物で首をを切られて殺されたんです」

「・・・」