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私の車の中には、釣竿が10本近く積んである。へらブナ用や投げ釣り用、鮎釣り用などさまざまだ。どの竿も、父の友人が亡くなり、引き取り手が無く私の元に迷い込んだものだ。 私は、かつてほど釣りをする機会が無くなったが、父がいらなければ捨てるというので、せめて目を通しておこうと全ての竿を並べてみた。けして高級なものではないが、実用的ないい竿が揃っていた。 それ以上に目を引いたのはほとんどが一度壊れた竿を丁寧に補修してあることだ。元の持ち主の人柄が感じとれた。竿の重さと補修の仕方からして、筋肉がよく発達した男性で、几帳面、気を使う仕事をしていたはずである。まだ新しい竿よりも使い込んで直しながら使っていた竿が気にいった。 亡くなった人を思い、全てを車に積み込んだ。捨ててしまったり、物を大事にしない人の元にもらわれていったら道具がかわいそうだ。 思えば、亡くなった人の物をもらうのはこれがはじめてだ。子どもの頃から「遺品」という言葉に密かな憧れを抱いていたが、親戚の遺品はどれもなまなましい感じがしてこれまで引き取らなかった。先日、遠い親戚が危篤になり、カメラをもらってくれといわれた。もらって数日後、カメラ屋で点検をしてもらった日に老人は息を吹き返した。そのカメラは遺品に成り損ねた。全く知らない人の釣竿がはじめての遺品になった。 夏が終わり、秋風が吹いたら、魚の活動が活発になる。亡き人の供養のためにも、これらの竿で魚を釣りに出かけようと思う。 |
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2002年08月31日 03時30分49秒
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今夜は月がきれいだ。雲が少なく、月の輪郭がくっきりと見える。子どもの頃、こんな夜はよく散歩に出かけたものだ。 生まれ育った土地は、都会と違って夜は真っ暗な闇に包まれる。闇は視覚や味覚を鈍らせ、聴覚と嗅覚を鋭敏にさせる。鳥や虫のたてる音、波のざわめき、草の匂いが時に不気味に感じられる。月が出て周りが見える夜は、なんとなく安心したものだった。 夜、懐中電灯を持ちだし、探検に出かける。一人で、時には自転車で遠くまで出かける。昼間見ている風景とは違って夜の町はまるで別世界に見えた。商店も市役所も真っ暗だ。公園には10代後半の「オトナ」が集まって何やら良くない相談をしていた。森の中では野良犬が野生をむきだしにし、昆虫たちは土から這い出して不思議な生態を見せている。 家に帰る途中、懐中電灯の明かりを空にむける。光が他にない町で、懐中電灯の明かりはまっすぐにどこまでもまっすぐに伸びてゆく。月に向かって懐中電灯をむける。世界のどこかで月を見ている人が、懐中電灯で照らされた月を見て、いつもよりも明るい夜だと感じてくれはしないかと思いながら力の続く限り懐中電灯を空にむけ続ける。 そんな事を思い出し、バッグの中からライトを取り出して月を照らしてみた。今夜、一瞬月が眩しく輝いたのは、それは私が懐中電灯で照らしたからです。 |
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2002年08月25日 05時13分41秒
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近所に用事があってバイクで出かけた。わが家のバイクは100ccのスクーターで4月に買ったばかりだ。 用事が済んでイグニッションにキーを差し込んだが回らない。ハンドルロックをかけておいたはずが、ハンドルが動く。近くにいた10代後半の3人組が逃げるように立ち去って行く。 彼らはバイクを盗もうとして、ハンドルロックを壊したまではよかったが、私のバイクはメインキーを壊すとスタンドが動かなくなるため、移動できなくなる仕組みになっている。観念して諦めたところに私が戻ってきたのだ。 追いかけても無駄なようなので、バイク屋を手配し、修理してもらうことにした。出費は4万円ほど。金額よりも通勤に使っているので、日常の移動手段が無くなったことが痛い。 スクーターが壊れたことで、最近動かしていなかった250ccのバイクを引っぱり出すことにした。速く走ることを目的に作られたバイクなので通勤には使わず、休みの日に乗るようにしていたのだが、この際、通勤に使うことにした。 車のバッテリーをバイクのバッテリーに繋ぎ、ブーストする。一発でエンジンがかかる。暖気運転が終わってギアを1速に入れる。バイクは過激なエンジン音と排気音を出して進む。 大通りに出て最初の交差点で400ccのバイクと並んだ。乗り手は若い。20代前半か・・・。信号が青になった。出遅れた400ccはミラーの中で小さくなってゆく。その後、信号で止まる度に他のバイク乗りらと、誰が一番速く前に出られるかを楽んだ。成績はよく、負けることは無かった。 こんな調子で通勤をしているが、負けず嫌いな若者はエンジン音を高鳴らせながら何度も挑んでくる。それが楽しく、バイクに対する熱が増してきた。 スクーターが修理から帰ってくるまで、まだしばらくかかる。夏の猛暑のなか、アスファルトよりもヒートアップしたものを心に抱いてアクセルを開ける。 |
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2002年08月18日 04時32分53秒
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ポケットの中にいつも入っているものが、いつの間にか無くなっている。毎日使っていたので、無くなると落ちつかない。部屋のあちらこちらを探してみるが見つからない。無くしたのはジッポーのライターだ。さほど高価なものではなく、買い換えればいいのだが、諦めきれずに探している。 ジッポーを探しながら、無くしたジッポーは人間関係に似ているなと思う。久しぶりに声がききたくなって電話してみると、番号が使われていなかったり、他の人が出たりする。 つながることがあたり前だった関係は、気付かない間に終わっている。ふりむけば尊い時間。 ジッポーが見つかれば、無くした関係も元に戻るような気がして、さらに真剣に探す。視界の中を横切るジッポー。本棚に置き去りにしていたのだった。ジッポーを手にとって火を付けてみる。そして受話器をあげ、ダイヤルする。あなたの声は聞こえるだろうか。 |
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2002年08月02日 20時59分59秒
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