A Miracle of Whisper 〜ミラクルなささやき
 
 





第一段   また、会えた


 












●どうしてそれが意味のある囁きなんだか私には理解できなかった。でもその”はなし”を聞いて少しずつ私自身の日々の生活も影響を受けようとは思いもよらなかった。
山の手線の車内で、20くらいの眼がとてもきれいな女性と、一緒にいた華奢な女性がごく普通にはなしをしていた。その女性が話を続けている・・・。
 
 

「信じてもらえないと思うけどあたしね、前世的記憶があるみたいなんだ・・・。・・・・最初は夜寝ている時に夢でみてただけなんだけどそれから朝目覚めて、普通に昼間生活している時にもだんだんとその、私が生まれる前の記憶がよみがえってくるようになってきたの・・・・。」

「えっ、それってどんな夢?」

「ちょっと悲しい夢なんだ。失恋のね・・・。 好きな人とわかれてしまう夢。」

「でもそれがなんで自分の前世の記憶って言えるの?」

「夢で見たその時代がほんとうに私の知らない、映画とかドラマとか歴史の授業で出てくるような時代なのに、その夢の中で出会って私が “好き” と感じた人は今の彼と同じ人だってなぜか感じられるの。それがワタルと同じ顔でも体型でもなくて、昔の時代だしもちろん今とは違った髪型をしているのに ”あっワタルだ” って感じでなんとなくね。」

「なんかロマンチックな話だなぁ。“生まれ変わり” みたいじゃない?それって」

「そうかなぁ?。私はぜんぜんそんな気分になんかなれないよぉ・・・。どうして今から600年近くも昔にいる私がいたとして、この現代の今の私にリンクしてしまう必要があるわけぇ?それがちっともわかんない。だって夢をみてるときは ”自分だぁ” っていう自覚があるのはみんなも同じだけど、でもその夢の中の私は今の私とは全然違うし。その微妙にズレた感じがマジで気持ち悪ぃよぉ。それにさ・・・・」

「それに・・何よ?」

「それにその昔の私たちに起きたのと同じことが今の私たちにもおきちゃったのよ。」

「えっ 私たちって?」

「私とワタル。」

「えっ?アキふられちゃったの」

「おぃおぃ、そんなに結論急がないでよ。まだ別れちゃったわけじゃないんだから・・・。それに逆よ」

えーっ!!」

「やだ、マオ声大きいょぉ、シーンとしちゃったじゃなぁい。」

「ゴメンゴメン。だって急にそんなこと言うから・・・つまりアキに」

「そう。 わたしがふられたんじゃなくて、 私に“気になる人ができた”ってことよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ちょっとぉっ、なんでダマってんのよ?」
 

●とにかく二人は夢中で話していた。前世とかなんとか言っていたから冗談を言ってるのかとも思ったけどどうやらそうじゃなさそうだ。二人が言っていることはその内容さえ考えなければ理屈はとおっているように思える。寝ているときと起きている時に前世の記憶が甦る?そんなのある訳ないんじゃないのとキツネにつままれながらも私はその人のしぐさに見惚れるのも手伝ってもう少し詳しくその彼女の話を聞きたいと思った。だって本当だったら驚きだ。
TVでもよく放送されているような信じられないことが実際に起きていることになる。過去への扉を無意識のうちに開けていることになる・・・。私は自分の耳に全霊を傾け、全神経を彼女のことばに集中させるために眼を閉じることにした。
 

「ねぇ、気になる人ってどんな人?私の知ってる人の中にいるでしょ?ね?」
 

●8月も終わりに近づいて、夜の電車は窓を開ければ結構涼しい。私も列車の走るリズムにあわせて体を揺らせ、そしてすうっと静かにくずれるように眠ってしまった。
 

「キン  キンッ!」「火の用心っ 」
 

●提灯を持って歩いている、暗がりをゆく人がボンヤリと見えた。木を打合せる音で眼を覚まされたのだ。気持ち良いうたた寝をジャマされて「気に入らないなぁ」と思いそうになって唖然とした。様子が変だ。提灯を点けた舟とすれ違った。あれは間違いなく猪牙舟だ。笠を深く被った男が座っていた。うしろで着物の裾を腰まで捲り、草鞋をはいた舟頭と思われる男が舟を漕いでいる。私を真剣に焦らせたのは明かりから遠い、後ろの舟頭の傍に並んで座る二人のおんなを見たときだった。美しい潤んだ眼をして奇麗に島田髷を結っている。もう一人の小さく細いおんなと寄り添うように気持ち良さそうに眠っている。 まちがいない、山の手線の女性たちだった。
  それにしてもあまりもの周りの静けさに耳から体の中心にわたって神経が研ぎ澄まされて敏感になったような感じだった。寝ながらでも車の走る音や、電車の踏み切りの音、風のおとは無意識にも耳から入ってきている。なのにこの感覚は単なる夢の中でのできごとではないと思えた。まったく違った特別な世界にいるような感じがした。にぎやかに響き渡る虫の声と今にも降らんばかりの夜空の向こう側の星と月・・・
 

「お客さぁーん、ほら、終点ですよ!」
「この電車、車庫に入ります、なお山の手線は内回り、外回りとも運転を終了しておりまぁす。」
 

●私は膝をトントンと叩いておこされ、ふと前を見ると向かいの席の右端にすわっていたあの女性も駅員に起こされていた。連れのおんなはどこかの駅ですでに下車してしまったようだった。時は1時10分をまわったところだ。どうやら終電を寝過ごしてしまったようだ。それでも頭の中だけ夏の夕暮れを縁側でうたた寝したあとのように、妙にはっきり透き通っていた。私は一番大きそうな改札をさがして、それからタクシー乗場にむかった。また会えたような気持ちを覚えたその美しい女性は静まりかえった街の中、いつしか闇に消えていた。
 
 

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