岩見先生評論再録劇場
新刊紹介
/野村幸正『関係の認識−インドに心理学を求めて−』(ナカニシヤ出版)
岩見和彦
私がオーストラリアにいた時、著者はインドにいた。私が社会学を忘れていた時に、著
者は心理学を考えていた。そう、彼は生来の「学者」なのだ。
ここで言う学者とは、揶揄の対象としてのそれでは、むろんない。反対にそうしたもの
言いを許さない、並々ならぬ執念のようなものが、本書からは感じられさえする。執念−
著者の言を借りて言えば、それは、「生きること」にあくまでこだわると宣言した一人の
実験心理学者が、自己否定をしながら自己<構想>していくには、心理学者としての自分
自身を「被験者」として未体験な関係の中に投げ込み、そこに「身を委ねることによって、
自らを新しく発見してゆく以外に手だてはない」、という決意に込められた響きの謂なの
だ。
既成の学者アイデンティティといったものを揺さぶり、惰性化する「知」から心を解放
しようとする、こうした著者のインドへの「旅」に、強い共感を覚えるのは私一人ではな
いはずだ。
※この原稿は、「関西大学通信 第205号」(平成4年1月10日付)に掲載されたもの
を、岩見先生の許諾を得て転載いたしました。