炎の宴6―宴―

 炎の蛇は長い舌をちらつかせて、襲いかかってきた。

 千修は、その牙を肩にすれすれの所で、倒れ込むようにして避ける。

 そのまま加速をつけて、一閃。

 紫の炎が千修のそばをかすめて行った。

 青く澄んだ光の帯が、邪悪な蛇を捕らえようとする。

 たまりかねて、蛇が大きな炎を吐き出した。

 千修の周りの空気が一瞬、青く、震えた。

 光りの壁。

『ドオオオオオオオンンン!!!!』

 強烈な爆風。

 その直後、あたり一面に白い煙が立ちこめた。

 オサムというジンクスの頭から、桜を守ったあの時のように。  

 バラバラとアスファルトのかけらが落ちてきた。 

「・・・くら・・・オイ・・・桜」

 千修の戦いに呆けていた桜は、自分を呼ぶ声にハッと気が付いた。

 見ると、呼んだのは和樹で、彼は足の付け根からつま先まで、血まみれで倒れていた。

「あ、あんた大丈夫?」

 大丈夫なわけないのだが、そう声を掛け、側による。

 地に溜まった血の量が尋常ではない。

「大丈夫だ。お前、逃げろ。ここにいちゃ、いけねえよ」

「な!なに言ってんの!あんたこそ逃げなきゃ。早く手当てしないと・・・」

「いい、大丈夫だ。もうすぐだからよ」

「?」

 怪訝に思いよく見ると、和樹の足が赤く光っていた。

『ドゴオオオオオン』

 桜達のいる所のすぐそばで爆発が起こった。

(どうしてこんな騒ぎを起こしてて、誰も気付かないの?警察に通報されててもおかしくないのに!)

 とにかく、自分達が安全な場所に移動すべきだ、と桜は思った。

「和樹、立てる?私の肩につかまって。ねえ!」

「・・・もう少しなんだけどよ。お前、尚見なかったか?ったく、こうゆー時にアイツはいやしねえ」

 しっかりと足に当てた右手、そこから伸びるいくつもの弱々しい光りの帯が、傷ついた足全体に絡み付いていた。

 なんだか血の出る量が少なくなってきている。

(な!まさか、こんなんで止血されてるの??)

「なあ!生きてるか!?」

 白い水蒸気の中から人が出てきた。

「おっせえよ・・・!尚!」

「仕方ないだろ!俺だって爆風にとばされたんだ」

 尚は、和樹の様子をひとめ見るなり、自分の鞄から黒い袋を取り出した。    

 そして、和樹の右の手の平に中身をぶちまけた。

「ねえ!これ!」

 袋の中身、それはあの、黒い石のかけらだった。

「ああ、このかけらは害を及ぼさない」

 尚は静かに言う。

 その尚の顔も擦り傷だらけだった。

「ほら、よく見てみろよ」

 言葉に促され、和樹の手の平を見る。

 黒い石のかけらの山。

(?)

 微妙に動いた。

『ズ、ズ、ズ、ズごオオオオオ』

 突然小さな黒い竜巻が現れて、それがすぐに、手の平の中心に吸い込まれて行った。

「?????!?」

 後に残ったのは、奇妙なナックルのようなものに付けられた、美しい赤い玉だった。それも、桜が持っている赤い玉とそっくりな石。和樹の方が桜の持っている石より大きかったが。

 和樹はうめきつつ、自分の右手を、また、足に当てた。

 すると、今度は先ほどよりも、大きな光りが彼の足全体を覆い、あっというまに血を止めてしまった。

 和樹は立ち上がろうとした。

(うそお!今まで大怪我してたのに!)

 途端に和樹はよろけてしまった。

「おい、あんまり無茶するなよ」

「だってよ、兄貴を助けなきゃいけねえだろ」

「千修が負けるわけないだろ」

「そりゃそうだけどよ」

 尚は和樹の肩に手を掛け、言った。

「とにかく、もう少し休んでろよ。まだ、黒い石が体に馴染んでないんだろ」

 和樹はしぶしぶ尚の言うとうりにした。

 しかめっ面をしている。やはり痛いらしい。

「ちょっと・・・あんた達」

 桜が怖い顔をしてこちらを見ていた。

「どういうこと!黒い石が体に馴染んでないって!あんたもバーサーカーとかになっちゃうの!?それじゃ、あいつらと一緒じゃない!なんなのよ!」

 二人は顔を見合わせた。

「えーとなあ。・・・どこまで説明していーんだか・・・」

 和樹は頭を掻いて口篭もった。ちらりと尚を見る。

 それを受けて尚は、仕方ないと言う様に肩をすくめた。中指で眼鏡の真ん中を持ち上げるように押し、話した。

「黒い石は、人の潜在的な力を引き出す替りに、精神の崩壊と、肉体の腐乱を招く。そうなったら、もう人じゃない。それがバーサーカー」

 大きな爆音と共にアスファルトのかけらがそばに落ちた。

 それを横目に追いながら、尚は続ける。

「しかし、それは直接、黒い石を身体に取り入れたときのことだ。黒い石にはもう一つ使い道がある。――能力石の“餌”だ」

 尚は、和樹の右手の平を桜の方に掴んで見せた。

「これが能力石」

 赤くてきれいな丸い玉。

 桜は、自分の持っている玉をぎゅっと握り締めた。  

「能力石は黒い石を食うんだ」

「食うって・・・。あ、さっきの?」

 尚は頷く。

「能力石は、普通の人が持っていても、なんの効力も発揮しない。修行をつみ、肉体と精神を鍛え上げた者、そしてなお且つ、才能がなければいけないんだ」

「才能???」

「そう、能力石を操る才能。それらがそろって、はじめて能力石はああゆう炎などの力が出せるんだ。しかしいくら才能があったって、肉体を酷使し、精神を極限にまで高めつづけていたら、すぐに廃人になってしまう。それで、黒い石の力を使う。黒い石の力を補う事によって身体を守るんだ」  

 顎をクイッと動かし和樹を示す。

「応用を利かせば、こいつのように怪我をも治してしまう。まあ、治療にはかけらが沢山必要だけど」

「・・・石がどうのとか・・・・・・・・・なんか、すごい事にまきこまれちゃった」

「まきこんでねえよ・・・!お前が勝手にまき込まれに来たんだろ!!」

 すかさず、桜は無言で和樹の足を叩いた。やはり、まだ完治していなかったらしく、声にならない叫びをあげ、彼は悶えた。

 また大きな爆音がした。窪んだ道路から、そっと様子をうかがう。

「ねえ、和樹の能力石は赤いけど、千修さんのは青いのね?」

「ああ、能力石にはいろんな属性があって、和樹のは炎。千修のは水だ」

 青い優雅な光りは、千修の刀の柄からゆったりと広がっている。

「炎は水に弱いんだ」

 千修はじりじりと間合いを詰めている。

「敵の属性も炎だ。千修は勝つぞ」