食堂で出会ったのが運の尽き・・・
あれは今年の6月のこと。4限目のあき時間に食堂でカレーライスを食べていた私は、ポカポカとした陽気のせいもあり、体育の授業風景をながめながら、すっかり母校に戻ってきた一人の卒業生になりきっていました。
15年前の自分の姿を思い浮かべながら、(俺らもあんなことしとったなあ・・・)と少しセンチメンタルな気分にひたっていたのです。そのあとにどんな「通告」が待っているか知る由もなく・・・。
と、そこへやってきたのはどこかで見たことのあるおっさん、いやいや本校の偉大なる校長先生でありました。思えば私の高校時代、この先生はムチャクチャ怖かった・・・。講堂の舞台で一喝すれば全校生徒がキュッと縮み上がるほどドスのきいたオヤジでありました。
その大先生が、外の光景を楽しむ私の視線をさえぎるようにどっかと目の前にお座りになられたのです。当時を知る私は、ケツの穴が一瞬引き締まるのがわかりました。(これはまずい・・・)もはや懐古の気分などどこかへ吹っ飛び、いかにしてその場を乗り切るか、私の注意はその一点に集中していたのです。
一言二言話しかけられましたが内容なんか覚えておりません。私は適当に返事をごまかし、「脱出」する瞬間を狙っていたのです。(やばい、はよ逃げな何かあるゾ!)私の脳裏にいやな予感が走りました。
そしてしばらく続いた沈黙を破るように彼はボソッと一言。「今度の伝達講習会、記録係で行ってくれるか?」いやな予感は見事に的中してしまいました。
校長の「行ってくれるか?」というのは疑問文ではなく、直訳すれば「行け!」という命令文なのであります。つまり私にはもはや選択の余地が全くないということでありました。
かくして私は7月に開かれる西日本地区伝達講習会の公民科記録係として雁首をならべることになってしまったのです。

ふんだりけったり
6月に食堂で「通告」された「その日」がついにやってきました。元来字を書くのが非常に苦手な私にとっては記録係などめっそうもありません。おまけにその頃本校は期末考査の真っ最中。
ホントなら採点業務に没頭するための貴重な2日間が、こともあろうにこんなくだらん(?)講習会の記録・・・。それも文部省とか教育委員会のオッサンらに下げたくもない頭下げなアカン。
(なんでやねん!?)私は心の中で何度も自問自答を繰り返しました。とはいえここまでは、仕事やからと自分に言い聞かせながら黙々とペンを走らせました。
しかし2日目の昼休み、ついに私はブチ切れたのです。なんと昼の弁当はなし。昼食は自分で取ってきてくれとのこと。理由はO-157が心配だから。
(そんなアホな!わざわざ記録係で呼んどいてそらないで!)しかもO-157が心配だからと言いながら、扉の向こうの控え室では文部省と教育委員会のオッサンらが楽しそうに弁当を食べているという・・・。
(世の中こんな不平等があっていいのか!)このときばかりは修学旅行で教師のおかずが一品多いために文句を言う生徒の気持ちが痛いほど分かりました。
と言いつつも昼の弁当一つでこんなに執念深い自分も惨めなのでそそくさと外へ出ることにしました。(こんな講習会二度と来るか!)独り言をつぶやきながら中華街の人混みの中へと消えて行ったのです。
まさに「ふんだりけったり」といったところです。
なんで俺がやねん!?
ともあれ昼メシはなんとか済ませ、午後の部に臨みました。単純なもので、ついさっきまでブチ切れていた私も、満腹になると(そんなことあったかいな?)という感じですっかり別人になっていました。
しかし本当の悲劇はここからだったのです・・・。
突如始まった「グループ討論」。そのとき隣から「悪魔のささやき」が聞こえてきたのです。「もう記録はいらんからあんたも討論に入ってくれるか?」一瞬わが耳を疑いました。
(俺は一体何しにここへ来たんや?)隣にいた指導主事の顔はにこにこ笑っていましたが、私には「鬼」以外の何物にも見えませんでした。
ともかくこのおっさんの言う「入ってくれるか?」はすなわち「入れ!」という意味ですから仕方なくグループの輪に入ったのです。
そしてさらに追い打ちをかけるような「天の声」。「討論のテーマはディベートでお願いします。」そのときの私のリアクションは「ゲゲッ!」としか表現のしようがありませんでした。ディベートの「デ」の字も知らない私にとってこれはまさに張り付け獄門の刑に等しいものであります。
予想通り討論はいきなり「雲の上」から始まりました。「ディベートを学ぶのか」「ディベートで学ぶのか」・・・そんなこと唐突に言われてもルールも何も知らない私にわかるわけありません。しかしそんな私を無視するかのように他の先生方は白熱した議論を展開していきます。
もう私には外国語のようにしか聞こえません。あとはひたすら神頼み。(お願いですから発言を求められませんように・・・)そんな私の最後の願いはいとも簡単に破り捨てられてしまいました。なんと司会者は全員を順番に発言させようとしたのです。
(うそやろ?)あと二人、あと一人、そしてついに順番は私のところに来てしまいました。(何か言わなアカン・・・。どないしょう言葉が出てけえへんがな)あせる私の顔にみんなの視線が集中しているのがわかりました。
しかしこのちょっとした「間」がかえって(こいつ何かすごいこと言いよるぞ)という変な期待感を持たせてしまったのかも知れません。そのあと苦し紛れに出た言葉は「生徒が本当に自分から発言なんてするんですか?」・・・一同キョトーン。
一瞬の沈黙の後、(こいつ一体何を寝ぼけたこと言うとんねん?)という表情に変わったように思えました。あとからわかったのですがそのときの私はディベートとデスカッションの違いが全然理解できていなかったのです。
つまり、全く自発的に発言するディスカッションとちがい、ディベートは基本的に相手の発言に対していやでも言い返さなければ負けてしまうのです。ですから私の質問はディベートのルールを全く理解していないトンチンカンなものだったのです。
その場の空気を察した私は、穴があったら入りたい心境でした。(そやからこんなとこ来たくなかったのに・・・)このときばかりは、食堂で校長に出会った「不遇」を恨みました。しかし結果的にはここで大恥をかいたことが、その後の私にとって一念発起する重大なきっかけになったのです。
元来負けず嫌いな私はその日の帰りにさっそく本屋へ寄り、ディベートの本を2冊、わしづかみにするように買い、家に帰ってからまんじりともせず、無我夢中で読破したのです。こうして夢にも思わなかったディベートの実践に、ついに踏み切る決意を固めたのです。
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