夜
Copyright シル
「深夜のビルでは、清掃バイトの少年達が」 「終電前に済まして、朝4時の日給を貰ってしまおうと。」 「誰もいないオフィスのコピー機に電源を入れ。」 「自分の顔を何枚も撮っては遊んでいた。」 「見つめ合う11月のつがいのカラス。」 「土の無い街では、夜の間にゴミは出される。」 「深い深い海の底に沈んだ、人と人との細い糸。」 「静かなリビングでは、熱帯魚の水槽が青く光り。」 「冷蔵庫とポンプの音が低く低く続く。」 「水面を流れる不規則なあぶく。」 「寒気は家々の間を吹き抜けて。」 「酒か寒さか赤く上気した顔に、迎え出てきた仏頂顔の寝ぼけ眼。」 「それが男の幸せの形なのか。運ばれてきた水を押し頂く。」 「太陽の光を反射する月は。」 「過程で熱を失ったのか青く冴えて冷たく。」 「いまも太陽は星の裏側で燃えている事など気付かない。」 「冷たい光も届かない、海の底の糸を手繰れば。」 「端では未だ受話器を握り締めていて。」 「言葉以上に回線より流れ出た雰囲気に溺れて。」 「漂流した気持ちに。」 「投げ入れられた浮き輪は、鈍い鉄製。」 「黒い海原を航海つづける豪華客船。」 「くすねた光を、全ての夜に分配する月の輪」 「苔むす石の井戸の底に。刹那に差す光は冷たく無い。」 「酒臭い終電に息急き駆け込んだ少年達。」 「足を大きく開いて、まばらな座席に陣取り。」 「騒ぎも疲れも、全てが浸透する重い大気。」 「毛布の中で受話器と眠った女の靴は棚の中で待機中。」 「依然。巨大な客船は進み続け、遙か海の底の糸には誰かがぶらさがっている。」 「夜は常に夜のまま。留まる場所を知る者のみ残して進み続ける。」 「力強く大腿筋を動かし、部屋のベットに辿りついた少年達。」 「月の消える頃、彼らは幸せな眠りに付き。」 「少年の見る夢は昼の夢。」 「昼の夢に決して月の光は射さない。」 「カーテンの隙間から、散らかった部屋に、白く埃の帯が射し。」 「どこかで電車の鉄輪が回りだして。夜に冷えた線路の上を転がり始める。」
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