一光 輝瑛
「我々を甘く見ないほうが身のためさ。その気になれば,この世界なんてすべて消せるのだからな」
「…」
「…しかし,そうできないんだろう」
「え,大倉…」
「お前たちの茶番には飽き飽きしたさ。たいした力でもない」
「…ふっ,茶番かどうか,その目で確かめてみたまえ」
やはり襲撃は突然だった。立山,そして大倉。二人が歩いているところを狙ったらしく,
やはりわさわさと影が殺到する。
夕日が西の空に沈みかけた,そんな本当なら美しいはずの時間。
天気予報は雨だったが,しばらくはその恐れも無い空。
「これがわれらの力だ。思い知るがいい!」
襲撃団の中心に立つ男。リーダー風のその男は,南の方角に腕を伸ばす。
ズガガァァァ
あまりの光に,立山には何も見えなかった。恐ろしいほどの轟音,
そして,天空から舞い降りた光の束。
「!」
南の方角に目をやる立山。その先には…
「そんな馬鹿な…」
その場所には,山があった。そう,薄暗くなって行く空の下でも,
間違いようの無い山がそこにあった。が…
「きさま…」
「どうだね,我々の力は」
「…無関係な人たちまで巻き添えにしたな」
「ああ,かまわないさ。どうせ,たいした価値の無い連中だ」
「!」
「我々の目的は,この世界を我々の支配下に置くことだ。そのための過程はどうだってかまわないさ」
そこには確かに山があった。が,光の束の直撃は,その山の大半を吹き飛ばしてしまっていた。
あちこちで燃え上がる,火,火炎。暗い空,遠目にも,惨状がありありと見えた。
あまりのことに右往左往するだけの,いたいけな人たち…
「許せない」
「はは,この世界でも相変わらずだな,イリーザ。だが,そのやさしさが命取りになる。
向こうでもそうだっただろう」
「!」
「さて,お遊びは終わりだ」
「お遊びだって…」
立山が,ようやく現実に回帰して声を出す。
「我々に降伏するならそれでよし。その気が無いなら,ここで死を選んでもらうことになる」
「降伏,そんなことはありえないな」
大倉の声は強く,目つきは野獣のそれに変っている。
「そうだろうな。イリーザもそうだった。愚かとしか言いようが無いがね」
「許せない!」
先に攻撃を開始したのは,大倉のほうだった。腕を振り上げると,彼の周りに光が現れ,
そして,輝く電光が生まれた。
「死して償え!」
冷静さをかなぐり捨てた大倉は,まさに鬼神の動きであった。
「ふっ」
中心に立つ影の男に代わり,横の影たちがそれでも大倉に殺到する。その数,無数。
さらに空中から増援が湧き出している様でもあった。
「くっ」
「無駄なことだ。いくら君の力が強大でも,これだけの数を敵に回しては,勝ち目は無いさ。
しかも,君の力だってまだ未完成だ。あきらめるんだな」
「!」
大倉が放つ雷撃は,信じられないようなスピードで繰り返され,まさに暴走した
精密機械のようであった。そのそれぞれが確実に敵を捕らえ,舞い上がる血しぶきとともに
累々と屍を築いていった。
「よかった,間に合って」
「!」
立山が気づくと,そこにはガレアが立っていた。
「仲間たちを連れてきました。これで…」
「!」
確かにガレアのつれてきた,これも黒衣の男たちが宙から湧き出し,
大倉を取り囲む集団に襲い掛かった。が,
「前座は終わりだ」
その男,黒い影の首領の一声で,大倉の周りの男たちは撤退する。
「!」
「はじめから数の力だけで勝とうなどとは思っていないさ。だが,勝つのは我々だ」
「…ふ」
光の中心に立つ大倉は,敵が引いたのを見て,一息つく。
が,その瞬間であった。
カカッ
天空から,再び光の束が舞い降りた。
「大倉!」
ガガァァ
地をえぐる轟音,一直線の風圧,そして体が溶けそうなほどの閃光。
「…ふ,かろうじて生きているか…」
首領の一言,そして光のヴェールが剥げ落ちて行く。中心には,灼熱の大地に膝をついた大倉の姿。
「一撃では無理だったようだな。だが,もはや防ぐ力も残ってはいまい。これで終わりだ」
首領は再び腕を挙げるしぐさ。
大倉は,顔面蒼白にして,ふらりと立ち上がるのがやっとであった。
「そうはさせるか」
ガレアの一声で,味方が動き出す。影たちとは異なるデザインの,統一された黒衣。
それが,首領に向け殺到する。手には電撃,炎。
「雑魚に用は無いんだ」
影たちも応戦する。数に勝る影,さらに宙から登場する。
「イリーザさえ始末すれば,どちらにしてもお前たちは終わりだ。あきらめの悪い奴だな」
大倉は,その隙に動き出そうと,腕を挙げる。が,伸びない。
「くっ」
「無駄だ。お前はここで死ぬんだ」
「ふざけんじゃない!」
立山の中に,何かが舞い降りた。持っていたかばんを投げ捨て,怒りの表情で走り出す。
「うわぁぁぁー」
魂のそこからの唸り声,一直線に首領に殺到する。
「!」
無意識に持ったままだった,右手のかさを振り上げる。すると…
「しまった,テリウスが…」
「畜生ぉー」
何の変哲も無い,ただの傘だったものが,一気に黄金の輝きを帯びる。
振りかざした黄金の剣,そして,沸き立つ雷鳴。
「どけぇー」
立山の動きを止めようと,影たちが殺到してくるが,立山の一振りで,一瞬にしてなぎ倒される。
「そんな馬鹿な。この力は…」
「くらえ」
そのまま首領に襲い掛かる立山。そして,振り下ろされる光,黄金の剣。
「助かったよ,立山」
「…」
「周囲は,すっかり闇の世界になっている。救急車のサイレンと,パトカーの赤い点滅。
激しい戦闘の後,何も知らない市民たちの,後片付けの光景であった。
立山は,完全に放心状態であった。右手には傘,らしきものが握られていたが,
ただの黒焦げの棒と化し,跡形も無い。
「すごかったな」
「…ああ,よくわからないよ」
「事なきを得ましたね,ガレア様」
「ああ。確かにイリーザ様を救うことはできたし,負勢力にもかなりのダメージを与えたはずだ」
「しかし…」
「そうだ。状況は悪いほうに向かっている」
「やはり,テリウスの覚醒,ですか」
「…まだ,完全な覚醒ではあるまい。本人にも自覚は無い。だが,このまま放置すれば,
確実に目覚めてくるだろうな」
「そうなると…」
「ああ。わかっているさ。だが,それも必要なのかもしれないな」
つづく
PN 一光輝瑛
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