一光 輝瑛
「君に遭えるような気がしていたさ」
「…」
「君もそう感じているんだろう」
「ああ」
「この感覚,どこから来るんだろう…」
「何だ,何が起こっているんだ」
それは突然だった。帰り道,すっかり暗くなってしまい,街灯の灯りを頼りに歩く立山の姿。
いわゆる田舎の一本道。向こう側には広い道路があり,にぎやかな光を発していたが,
ちょっと中に入ると真っ暗になる,静かな道。
「何だよ,これ」
思わず,肩からかけたバックを放り出してしまう。
「光,…か」
立山の右手,確かに彼の右手だが,ほのかに光っていた。青白い炎はヒトダマのようでもあったが,
明らかに彼の手だ。
「…」
ふと冷静になって,右手をかざしてみる。軽く燃え上がっているように見えるが,
それでも右手に熱い感触は無い。多少の違和感,そして…
光は,突然消え入るように収まってしまう。一瞬錯覚か,夢かと考えるが,
彼の本能がそうではないことを告げていた。
「いったい,何が起こっているんだ…」
本当は,困惑のあまり走り出してしまいたいような気分ではあった。が,
不思議と彼には落ち着きもあった。まるで,そうなることが予想できていたかのように…
誰にも話せない,相談できない,立山はそんな思い込みで,日常生活を繰り返した。
あの青い光は,再び彼を襲うことは無かったが,かすかな違和感,そして右腕に残る不思議な感覚は,
あの日のまま,とどまりつづけた。
「あれ,あの男は…」
数日後,街を歩く立山の目は,向こうから歩いてきたある男に吸い寄せられた。
「あの男…」
立山よりひとまわり背の高いその男。うつむき加減で歩いていたが,人波に従い,
あっという間に立山の横を通りすぎる。
「…」
立山はちらと時計を見る。
「午後の授業は,飛ばしてもいいな…」
立山の,不思議な尾行が始まる。見失ったかと思ったが,彼の不思議な嗅覚は,
すぐにその男の姿を捉えた。駅から遠ざかる方向。青い上着。うつむき加減に,一人で歩く男…
『君はいったい誰だ』
『…』
『誰かいるんだろう』
『…』
『誰なんだ,そこにいるのは誰なんだ!』
部屋の灯りをつけるが,そこには誰もいない,影も無い。
「…」
不思議な感覚が大倉を襲ったのは,帰宅がずいぶん遅くなった,そんな夜のことだった。
外食し,満足した気分でドアを開けた彼を,突然違和感が襲う。
すうっと,何かが…
『どうしたんだ,何が起こっているんだ』
『…』
『君はいったい誰だ』
『…』
『どうして,僕の中に入ってくるんだ』
慌ててテレビのスイッチを入れるが,流れてくる笑い声とは裏腹に,彼の心は晴れない。
「…」
胸のあたりが押し上げられるような感触。胸騒ぎとはまた違う感触であったが,
確かにそれに近いものもあった。
「は」
布団に入っても寝付けず,一思いに体を起こすが,状況は何も変らない。
「誰かがいる,間違いない…」
いつの間に眠っていたのだろう。軽い頭痛は残っていたが,その他はいつもと同じ時間,
同じような目覚めであった。
『どこかにいったのかな…』
違和感はずっと薄れていて,やや安心したような表情で周囲を見回す。
「!」
突き刺すような頭痛が,激しく大倉を襲う。
「うわ」
立っていられなくなり,再び布団に倒れこむ大倉。
『君とともにあるよ』
『!,君はいったい,誰だ』
『…』
『誰なんだ!』
立山の尾行は続いていた。男はまっすぐに進み,公園の横を通って,ついに人通りの絶えた,
細い道にかかる。
「!」
立山は,自らに活を入れるように,大きく一歩を踏み出す。そして,歩くペースを上げようとする。
すると…
「立山君,だろう」
「…そうです。よくわかりましたね」
「知っていたわけじゃない。けれども,そんな気がしていたのさ」
「じゃあ,やっぱり夢で」
「そう。君もか」
「そうですよ。大倉君」
「光の腕,…さあ,それは見たことがないな」
「あれがすべての始まりだった。あれ以来,違和感はある,奇妙な夢は見る,…不思議なことばかりだ」
「それは僕も同じだな。いったい何が起こっているのかはわからないが,確かに何かが起こっている」
『そう,確かに何かが起こっていたのだ。この時,大倉と初めて会ったこのときには,
僕には知るすべも無かったが…』
『奇妙な男だと思った。だが,この立山という男,何か引き寄せるものを持っている,
そんな気がした。あれは,いったい,なんだったのだろう…』
「テリウスとイリーザが力を合わせているとすると,ずいぶん厄介なことになりますね」
「ああ。各個撃破できればよかったが,うまくは行かなかったな。…やはり,世界を越えた,必然か」
「運命ですかね…」
「だとすれば,忌むべき運命だが…」
つづく
PN 一光輝瑛
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