大魔王降臨

 

 

                  一光 輝瑛

 

 

「大魔王め,今日こそは倒してやるぞ」

 石野の目の前に,巨大な化け物が立っていた。邪悪な目は凛々と光り,

背後には雷鳴がとどろいていた。

「う…」

 石野の右手には,果物ナイフが握られていた。服装はジーンズにセーター,

いつもの格好である。

「畜生…」

「グワハハハハ」

 大魔王の咆哮が聴こえる。そして,豪腕が恐ろしいスピードで伸びてくる。

「ふっ」

 石野は,俊敏な動きでその腕をかわす。

「これでも喰らえ!」

 カキィ〜ン

 大魔王めがけて突き刺した果物ナイフは,無常にも厚いうろこにはじき返される。

「グワハハハハハ」

 再び大魔王の腕が伸びる。

「うわぁぁぁぁぁ…」

 

「はっ」

 石野が気づくと,いつものベッドの上だった。

「今日もこの夢か…」

 

 

「毎晩同じ夢?」

「ああ。どうしてこんな夢を見るんだろう」

「で,いつも大魔王にやられるのか」

「ああ。最初は一撃で。それで,少しはかわしたり,反撃したり,

ちょっとずつましにはなっているんだが,それでも結局は歯がたたないんだな」

「…」

「なんでこんな夢を立て続けに見るんだろう?」

「…それってさ,大魔王に勝つまでずっと見続けるってことかな」

「…そんなこと言ってもな…」

「そうだなぁ,第一,その格好じゃ勝ち目は無いよな。普通,大魔王と戦う時って,

鎧や兜と,剣を持っているよな」

「あ」

「きっとそれさ。今度,寝る前に,鎧や兜の装備を念じて寝るんだ。

そうすれば,多分その格好で大魔王と対決することになるだろう。

勝てば,夢からもきっと開放される」

「…やってみる」

「…健闘を祈るよ」

 

 

「さあ来い,大魔王め!今日は負けないぞ」

 石野は,金色の鎧・兜,そして輝く大剣を持っていた。

「グワハハハハハ」

 大魔王は,いつもの圧倒的な姿で,石野の前にそびえていた。

「畜生」

 石野は,大剣を振りかざし,大魔王に突進した。

「喰らえ!」

「グワハハハハハハ」

「う」

 確かに手ごたえはあった。が,大魔王の動きには響いていないようだ。

「グワハハハハハ」

「!」

 大魔王がのけぞる姿勢を見せた,その刹那,

「うわぁぁぁ」

 大魔王の口から,燃え盛る火炎が発せられ,石野を包んだ…

 

 

「と,いうことなんだ」

「…」

「結局,夢からは脱出できないままさ」

「…それってさ,やっぱりいきなり大魔王と対決するのに無理があるんじゃないか?」

「え?」

「だいたい,弱い敵と戦って,十分な経験を積んでから,

それから大魔王と戦うのが普通だよな」

「あ」

「そうしないと,いきなり経験も無く大魔王に勝てるわけ無いよな」

「…」

「たとえば,アメーバみたいなやつとか,鬼の雑兵とか,吸血こうもりとか,

弱い敵からいかないとだめだよ」

「弱い敵…」

「それで経験を積んで,パワーアップして,それから大魔王だ。それなら勝てるだろう」

「そして夢からの脱出…」

「そうだ。それを念じて眠ってみろ」

「ああ」

「…健闘を祈るよ…」

 

 

「大魔王め,今度は勝つぞ!」

 石野の鎧には,倒したおびただしい数のモンスターの返り血がこびりついていた。

大剣も,ドラゴンを倒して手に入れた聖なる剣に変っていた。

「さあ,行くぞ!」

「グワハハハハ」

 大魔王が,凄まじい地鳴りと共に動いた。

「う」

「グワハハハハハ」

「速い…」

 目を見張るような俊敏な動きで,大魔王の体が左右に揺れる。

「畜生…」

 石野の動きも速かった。が,大魔王の炎,暗黒の渦巻き,そして圧倒的な腕力の前に,

石野は追い詰められていった。

「くっ…」

「グワハハハハハ」

「うわぁぁぁぁぁ」

 

 

「…そんなところだ。恐ろしく強い。なんでこんなに…」

「…そうか,経験を積んでもだめか…」

「…何とか勝たないと…」

「だよなぁ。でも,あとは,もっともっと経験を積んで,もっと強い武器を手に入れて…」

「…」

 石野の顔に焦燥が見える。ただでさえ,毎晩うなされて,目の下には隈が出,

体もどこかしらやつれてきている。

「やっぱり勝たないとな…」

 

「あのさぁ」

「…あ,先輩」

「この前から聞いていて思ったんだけどな」

「…はい…」

「そもそも,勝とうなんて考えるのがいけないんじゃないかな」

「え?」

「勝とう,勝ちたいと思うから,毎晩夢に出てくるんじゃないか?,それならいっそのこと

,はじめから勝とうとか,対抗しようなんて思わずに,諦めてみるのはどうだ?」

「…」

「すぐには無理でも,『どうせ勝てない』と思って,無抵抗で行くんだ。

どうせ夢だろう?,きっと考えすぎ,思いつめているのが原因さ。

負けても放っておく。そうすれば,意識の中から変な大魔王は消えて,

ぐっすり眠れるようになるさ」

「…そうですかね」

「きっとそうさ。ともかく,考えないようにすることだよ。たかが夢なんだから…」

「…」

 

 

「近頃の奴ってさ,ロールプレイングゲームで育った奴が多いから,“大魔王”っていうと,

必ず倒す相手,最後には倒すことのできる相手,なんて考えてしまうんだよな」

「え,そうかしら?」

「きっとそうだよ。さっきのあの二人を見ててよくわかったよ」

「冷たいのね」

「はは。考えてもみろよ。ゲームならともかく,普通の俺達がそんなわけわかんない敵と遭遇して,

どんなに経験を積んで,すごい格好をしていたとしても,勝てるわけ無いじゃないか」

「…そうなの…」

「あたりまえだ。相撲が好きでも,本職の力士には勝てないのと同じことさ。

下手に勝とうと思って努力しても無駄なことさ。さっさと諦めてしまうのが一番いい」

「…それって,なんだか夢が無いわね」

「夢?」

「だって,強い相手にでも,勝とうと思ってがんばるのが,かっこいいんじゃない」

「はは。腕力だけが世の中じゃないってことさ。そもそも,大魔王なんて何匹もいるもんじゃない。

もし,そんな奴がいたとしても,それはそれで,勝てる可能性のある戦士や勇者に任せておけばいい。

相撲の力士にむやみに挑むより,他の力士を応援して倒してもらう方がずっと現実的だろう?」

「…」

「人それぞれ,向き不向きがある。大魔王に勝てなくても,他の仕事で世の中に貢献すれば良いんだ。

それを,みんながみんな,ゲーム感覚で大魔王を倒しに行くなんて,

国民全部に大相撲に入門させるのと同じくらいナンセンスなことさ」

「…そんなものかしら…」

 

「そんなものさ。それで良いじゃないか」

 

 

 以上   PN 一光輝瑛

 

  ご感想等,メールはこちらまで。

   E-mail  kiei_ichi@geocities.co.jp

 

  この作品は,あくまでもフィクションです。

  この作品の著作権は,作者に帰属します。

 

    一光輝瑛のページ に 戻る

    一光輝瑛のホームページ に 戻る

    小説の木立 に 戻る