誰ガ黒ク染メタカ

 

                       一光 輝瑛

 

 

B:こんにちは。糾弾者のBと申します。今日は,あなた,Aさんを糾弾するためにやってきました。

A:……?

B:実は,花壇の管理者から告発がありましてね。

花壇の朝顔の花を,ペンキで黒く塗ってしまったのは,Aさん,あなたですね。

A:…え?

B:これはこれは,たいそうなリアクションで。しかし,驚いていただかなくても結構です。

あなた自身が一番ご存知でしょう。自分の犯した罪に驚くなんて,ナンセンスだと思いませんか?

A:いったい…

B:おや,あくまでも知らぬ顔ですか。

A:いったい,なんのことだか…

B:犯罪者が罪を認めないのもよくあるケースですが…

A:おい,犯罪者だって!,悪い冗談もいいかげんにしてくれ。いったい私が何をやったと言うのだ。

B:だから最初に申し上げました。花壇の朝顔の花を,ペンキで黒くしてしまったのは,Aさん,

あなたでしょう。

A:そんなばかな!,なんでそんなことをしなければならないんだ。

B:さあ,なんででしょうね,こちらが尋ねたいくらいですよ。Aさん,あなたにね。

A:言っておくが,私は何も知らん。とんだ言いがかりだ。身に覚えのないことだ。

B:おやおや,往生際の悪いことですね。素直に認めればよいものを…

A:…

B:私も,別に根拠もなしに人を糾弾したりはしません。そんなことをしては,

糾弾者の名が泣いてしまいますからね。…つまり,あなたの罪を証明する,証言者が存在するのです。

あなたが今の段階で自供してくださらないのなら,

彼らと対決していただくことになるのですが…よろしいでしょうかね。

A:…

B:…残念ながら,証言者達の登場のようですね。

 

 

C:はじめまして。

B:これはこれは,目撃者のCさん。ご苦労さまです。

A:…君はいったい,何者だ…

C:私ですか,目撃者ですよ。

A:そうではなくて,もともとはいったい何者だ。

C:もともとも何も,はじめから目撃者ですよ。私はあなたの行動を目撃するために行動してきた。

少なくともここ数日は,専任の目撃者です。

A:ばかな,そんな職があるものか…

C:どういたしまして。目撃者だって立派な職ですよ。職業です。

私はこの仕事に命をかけているのですからね。

A:…

C:逆に言わせてもらえれば,あなたは専任の犯罪者,といったところでしょうか。

A:ばかな,そんな…

C:私は,ここ数日,あなたの行動だけを必死に見ていました。昼も,夜もね。

A:そんな…

C:私は完璧な目撃者ですから,おそらくお気づきにはならなかったでしょうが,私は見ていたのです。

A:そんな,ばかな…

C:その見ていた私の前で,あなたは重大な罪を犯した。まさに予定通りですかね。

そこで,私の存在価値が出た。そんなところですよ。

A:そんな,でたらめを…

C:でたらめかどうか,あなたが一番ご存じのはずですがね。私は目撃者だ。あなたの罪を目撃した。

その罪は予定されたものかもしれないが,それでも犯したのはあなただ。あなたが一番ご存知でしょう。

B:Cさん,追及はあなたの仕事ではありませんよ。あなたは見たことを話してくれればよいのです。

それから先の糾弾は,糾弾者である私の仕事です。

C:そうでしたね。私は見ました。あなたが花壇の朝顔を,ペンキで黒く汚しているのを。

A:そんな,ばかな…

C:確かに見ました。

B:どうです,Aさん。あなたは罪を認めますか。

A:…冗談じゃない。こんなばかな話があるものか!目撃者だって?,目撃者を職にしているだって?。

そんなばかげた話が認められるわけないだろう。そんな職業はない。そんな暇なやつ,

この世にいるはずがない。だいいち,私は普通の庶民だ。この私を,わざわざ監視していたなんて,

でたらめだ,いいがかりだ,いかさまだ!

B:…おやおや,どうやらAさんはお気に召さないと見えますね。だが,あなたの罪は明白だ。

証言者は一人ではないですからね。

A:…

 

 

D:こんにちは。Dと申します。私も,Aさんが罪を犯した,

つまり花壇の朝顔をペンキで黒くしたのは間違いない事実だと考えます。

Aさんには実行可能性があったわけですから。

A:…なんだ,それは。君は何者だ…

D:私ですか。私は分析者です。

A:分析者…

D:そうです。私が分析するのです。Aさん,あなたは三日前,

コンビニでβ25類の液体を買いましたね。

A:…え…

B:まあ,β25類と言ってもよく理解できないかもしれませんが,

一般的にはスポーツドリンクと呼ばれている代物です。

A:そう言えば…

D:おや,買ったことは簡単にお認めになるようですね。実は,そのβ25類こそ,

あなたの犯罪を証明することになるのですがね。

A:え,そんな…

D:実は,今回の犯罪に用いられたペンキに,通常とは違う反応が見られましてね。

私も苦労して分析したのですが,どうやら,普通のペンキにβ25類が混入されて用いられた

らしいのです。

A:…

D:その線から調べていたところ,ちょうどあなたが同じβ25類を購入していたのが発覚しましてね。

どうです,あなたの罪は明白でしょう。

B:Dさん,罪の認定と糾弾は,糾弾者である私の仕事ですよ。

D:…これは失礼いたしました。どちらにしても,Aさん,あなたが買ったβ25類が,

犯罪に用いられた。これで十分だと思いますが。このことについては,精密な分析によって,

証明されているのです。

B:さあ,Aさん。分析の結果は出ています。罪をお認めになりますか。

A:…ばかな。こんなべらぼうな話があるものか!私の買ったのは,ただのスポーツドリンクだ。

どうしてそんなものをペンキに混ぜるのだ。しかも,あんなありふれたスポーツドリンク,

誰でもどこでも買えるじゃないか。どうして私の罪になるんだ。

こんなめちゃくちゃな話があるものか!

B:おやおや。これでもまだ納得がゆかないと見えますね。だが,どこまでもつものか。

証言者はまだまだいますよ。

 

 

E:はじめまして。Eです。私の検証結果を聞いてください。

A:…

E:私の検証結果では,Aさん以外のすべての人間について,

犯罪実行の可能性はまずないという結果に到達しました。

A:なんだ,君は。いったい何者だ…

E:私ですか。私は検証者です。あなたの罪について,消去法の手法で検証しました。

その結果,あなた以外の人は本件の犯罪者でないことが判明しました。

A:それは,いったい…

E:検証は比較的容易でしたね。そもそも,こんな動機も利益もない犯罪,

普通の人間はやろうとは思わないですからね。最初の段階で,ほとんどの対象者が

リストから外れました。そして,この犯罪の異常性,秘められた計画性,

そして猟奇的側面から考えるに,最終的にはすべての対象者がリストから外れてしまったのです。

と,いうことは,犯人はあなただということになりますよ,Aさん。

まあ,この辺の糾弾は,Bさんに任せますがね。

B:ありがたいお心遣いです,Eさん。

E:消去法でいったのですが,最終的に誰かがやったことには違いないのですから,

やはり犯人はあなただ。Aさん,それが私の検証の結果です。もちろん,ご希望なら

この膨大な検証の過程について,すべて説明することもできますよ。

A:そんな,消去法だなんて…私の名前は消去されないのか…

E:対象者に容疑者を含めては,消去法の意味が薄れますからね。ただし,

他の個人はすべて対象にいれましたよ。…まあ,人間に限定しはしましたが。

A:いいかげんにしてくれ,そんなばかな話があるものか!消去法だって?,

そんなもので犯罪者にされてたまるものか。作為だ,いかさまだ。

はじめから私の罪だと決めこんで,それで無理やり他の可能性を排除しただけの話だ。

それを言うなら私にもそんなことをやっても利益はない,動機もない,恨みもないぞ!

B:おやおや,まだまだ往生際が悪いようですね…

 

 

B:糾弾者の立場としては,Aさん,あなたを犯罪者として糾弾せざるを得ません。

A:…

B:もちろん,私にとっても残念な結末ではあるのですがね。これはあなたの罪です。

A:そんな…

B:…よって,あなたの罪に対し,私は禁固0秒,罰金0円を求刑します。

A:!

B:私からのせめてもの愛情ですよ。だから,これ以上罪を否定するのはやめてください。

A:だが,しかし…

B:何を迷っているのです,Aさん。あなたはただ罪を認めればいい,それだけです。

そうすれば,私の糾弾はすべて停止します。

A:しかし,私は…

B:Aさん,あなたは頭の良い方でしたよね。実質的に罰はない,それで,

すべての糾弾は終了して白紙になるのです。ここで罪を認めるか否か,

どちらがあなたにとって合理的な結論であるか,きっと解っていただけると思うのですが。

A:…

B:さあ,Aさん,罪をお認めになりますか。

A:…

 

A:○×□■○▽×……

 

 

 以上  PN 一光輝瑛

 

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