ハルカカナタ

 

 

                  一光 輝瑛

 

 

「君達に与えられた使命は…」

 仰々しい制服にきっちり身を包んだ司令官は,一列に並ばされた私と仲間達を前にして,

もったいぶりながら続けた。

「これらの荷物をポイントD2まで無事に届けることだ」

「!」

 列の仲間達の中に,一様の動揺が走る。

「ふっ,もう一度言うが,ポイントD2だ」

 司令官は,まるでもてあそぶかのように,ほくそえむ。

『ポイントD2!』

 私の頭の中にも,以前見た地図がよみがえる。目の前に横たわる広大な砂漠,その正反対,

向こう側にあるのがポイントD2,確かそうだった。

「わかっているとは思うが,ポイントD2まではひたすら砂漠だ。過酷な任務だが,

極めて重要な任務だ。遂行の可否が今後の我々の運命を決定してしまうことは間違いない」

『ああ,その任務の後も運命が続いているならな…』

「任務には,ここにいる副司令官殿が同行する。完全な遂行を願うぞ」

 

 

『それにしても恐ろしいほどの荷物だ…』

 必然的に個々の箱に荷分けされていたが,一つ一つがかなりの大きさ,そして重量。

さらに,数も半端じゃない。思わず仲間達の人数を数える動作をする。

『これは一人三つか,…それですめばよいが…』

 季節を忘れさせるほどギラギラとした,灼熱の太陽があたり一面をこがしていた。

真っ白い,ただ白いだけで何もない砂漠が,無慈悲な尊大さをもって横たわっている。

『道具も道もなし,か…』

 

 

「なんとかなるだろう」

『…』

 仲間の誰かが何気なくつぶやくが,誰も続かない。皆,黙々と作業を繰り返し,

そして身支度をしている。

『従順だな…』

 私も自分の割り当ての箱を目の前に置く。

『持ち上げるのも一苦労だな…』

 横を見ると,皆苦労しながら荷物を持ち上げる作業をしていた。

そして,持ち上がるのを確認できた者から,もう一度地面に下ろして息をついている。

『…』

 不平も不満もなく,皆静かだった。

 

 

「司令官殿,この任務はあまりにも無謀ではないでしょうか」

「…ん,君はそう思うのか」

「あの荷物を見てください。何もあんなにたくさん…」

「そうだ,その通りだ」

「…!」

「あれだけあるが,本当にポイントD2に届けるのは,1割程度でいい。

あとは,砂漠の中に破棄してもらっても構わない」

「…」

「そんなに意外か?戦略上,当然生じる予備,スペア,だよ」

「司令官殿,声が…」

「大きいか,構わないさ。どうせ奴らに聞こえたところで問題ない。

身分の差ははっきりしているんだ。どうってことないさ」

「…」

「とにかく,君がやらなくてはならないことは,これだけの持ち駒で,

どうやって任務をまっとうするか,そのことだ」

「つまり…」

「人員は全滅しても構わないが,荷物の1割は必須だ。となると,

本当に全滅させてしまっては,任務は達成できない」

「と,すると…」

「容赦なくいけば良いさ。足手まといになるものは,いくら破棄しても構わない。

荷物も,9割までは道連れだ」

「…しかし,あまりにも過酷で…」

「そんなことはわかっているさ。だからこそこれだけの手厚いスペアを用意したんだ。

普通なら5倍が限度のところ10倍だ」

「…しかし…」

「一つだけヒントをやろう。はじめから全員で生き残ろうなどと思わないことだ。

スタートの時点から,誰が最後まで生き残るか,その目星をつけた上で,

あとの9割をそいつらのために切り捨てて行く。非情な指揮が必要となるが,

どちらにしても君自信が生きていく上での重要な素養になる。この機会に身につけたまえ」

「非情な指揮,ですか…」

「もう一度言う。誰を最後まで残すか,それを見極めることだ。完全な遂行を期待するぞ」

『なんだ,なんなんだ,この会話は…』

「ん…」

『まずい!』

「…ん,誰かいたような気がしましたが,気のせいでしょうか」

「構わないさ。聞かれたところで,問題ない話だ」

「…そうでしょうか…」

「副司令官,君もまだまだ優しい男だな。それはそれで一つの素質だが,

時として切り捨てるべき要素だ」

 

 

「君達に伝えておきたいことがある」

「はい,副司令官殿」

『はい,副司令官殿…』

 私と,ほかに三人ほど,副司令官に呼び出され,その前に直立,整列した。

「先ほどの司令官殿のお話でもわかったかと思うが,今回の任務は極めて過酷だ」

 副司令官は,話しづらそうに,不恰好な間をおく。

「だが,君達は見たところ,ほかの連中よりも優秀で,丈夫そうだ。

私は君達に特に期待している。がんばってくれたまえ」

『…いつもの覇気はないか…』

 副司令官は,威厳を保とうと努力するが,不安そうな目つきがそれを阻害しているかもしれない。

「はい,ありがたきお言葉でございます,副司令官殿!」

 …どうもあとの三人はうまくごまかしきれたらしい。

「とにかく,皆の健闘を祈る。そして,必ず生き残ってくれ」

『……』

 

 

「司令官殿,副司令官殿の率いる部隊,無事にポイントD2に向け,出発致しました」

「そうか。それで,他のルートはどうだ」

「はい。第2部隊,第3部隊はすでに出発,第4部隊も間もなく出発の上,

ポイントD2を目指すと,それぞれ連絡が入っております」

「そうか」

 司令官は,もう一度砂漠に目をやる。すでに米粒ほどになろうとしている黒い影が,

一直線になって続いていた。

「ルートが四つ,これで十分か?…どれか一つでも遂行してくれればよいのだが…」

 

 

 以上  PN 一光輝瑛

 

 

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