恐怖の年

 

                                一光 輝瑛

 

「1999年は,かのノストラダムスが予言した,『恐怖の大王が降臨する年』です。

ご存知の通り,ノストラダムスは数々の予言を成就させており,彼の予言能力については

疑う余地はないものと思われます。と,いうことは,やはり今年の7月,ないしは暦の関係で

8月かもしれませんが,かの予言詩でうたわれた恐怖の大王が降りてくる,あるいは

降ってくるのです」

 

「かの予言があまりにも有名であるため,今年,1999年が非常に恐ろしい年になるような

印象が世間に植えつけられてしまっていますが,これは非常におかしな話だと思います。

“1999年7月”など,得体が知れない予言者なるものが勝手に書いただけなのです。

この科学万能の時代にあって,どうしてこんなくだらない予言なるものがクローズアップ

されるのか,私にはまったく理解できません」

 

「私は“恐怖の大王”はやはり核兵器だと思います。米ソ冷戦が終結したせいか,多くの人が

核戦争の恐怖が遠ざかったような錯覚に陥っていますが,とんでもない話です。確かに核軍縮の

動きは進みましたが,それでもこの地球上には,我々人類を滅亡させるのに充分な核兵器が蓄え

られているのです。しかも,核の拡散も進んでいます。大国のみの武器であった核兵器が,

今や第三世界にも広がってきています。核戦争の恐怖は,むしろ増大したと考える方が妥当です。

そして,ノストラダムスは“恐怖の大王”と表現しています。また,空から降ってくる見えない

ものとも説明しています。もし,ノストラダムス自身に理解できる種類のものが見えていたのなら,

彼は“恐怖の大王”とは呼ばなかったでしょう。そう,彼の時代では,このような核兵器などと

いうものは,理解の範疇を超えていたわけです。そこで,彼は“恐怖の大王”と呼んだ。まさに,

突然空から降ってきて,そのかたちもよく見えない,それなのに地獄絵が展開されてしまう,

最悪の恐怖と殺戮です」

 

「私は,“恐怖の大王”を隕石だと解釈しています。大型の隕石が地球に衝突した場合,地球の

生態系にとって,計り知れない影響が及びます。恐竜が滅亡した原因としても,隕石の衝突が

有力視されています。空から降ってきて,人類に滅亡の危機をもたらす。しかも回避しようの

ない恐怖。まさにノストラダムスの表現した“恐怖の大王”といえるでしょう」

 

「そもそも,ゾロ目の年にそんなに都合よく大事件が起きるなどということ自体,怪しい

ではないですか。大体,どんなデータでも数字がちょうど良すぎたり,妙にぴったりした数字に

なっているものはかなり怪しいわけです。これがもし,たとえば1974年に恐怖の大王が降る,

という予言なら信じたかもしれません。でも,1999年ですよ。いかにもインパクトを与える

ために作りましたっていう数字ですね。予言としては有名になったかもしれませんが,

実現可能性はないでしょう」

 

「1999年という年は天空の星の位置,そしてそれをもとにした占星術から見ても,

極めて重要な年にあたっています。1000年周期の移行の時期にあたりますし,

8月には惑星直列,グランドクロスが起こります。グランドクロスは,それ自体が惑星の重力に

影響を与えてポールシフトの可能性を秘めている上に,かなりの凶兆でもあります。その時期が,

ノストラダムスの予言詩にある時期と一致しているのです。偶然の一致にしてはでき過ぎでしょう。

やはり,この時期に地球規模での大異変が起こるのです」

 

「これまで,ノストラダムスの本はいろいろと読んできたのですが,彼自身の文章はかなり

あいまいな表現で書かれていますよね。それを,いかに解釈するかの方がよっぽどたいへん

なんです。まあ,一般的には彼の予言というと“諸世紀”の詩を指すことが多いですが,

これがまことにはっきりしない。後世の解説者たちがあとから解釈をつけるにあたり,実際に

起きた出来事を探して,無理やり予言詩と結び付けている印象が強いのです。中には妙にぴったり

きているものもあって,必ず“成就した予言詩”とされていますが,どうでしょうか。その出来事が

起きる前にそれが結び付けられるのならまだしも,後からこじつけているのではないですか?

本当にわかっているのなら,日付や年号もすべてはじめから予言しておけば良いじゃないですか。

やっぱり,予言なんてインチキです」

 

「予言はともかくとしても,世の中が暗い方向に向かっているのは事実ではないでしょうか。

今は未曾有の不景気。昨年には,日本のバブル崩壊,アメリカのファンドの破綻等,人間が

作り上げてきた経済システムも綻びが出てきています。さらに信用不安。現在のような

コンピューター社会,カード社会においては,システムによらないと何事もできません。

たとえば,クレジットカードもキャッシュカードも,背後に膨大なシステムがあるから使える

のですが,それがもし世界的に破綻したとしたら。…便利になったようで,実は恐ろしい社会です。

その崩壊が,今現実のものになろうとしているのです。外部からの破壊よりも,内部からの崩壊。

私には,ノストラダムスの表現したかったものがここにあるように思えます」

 

「地球環境って,崩壊寸前のところまできているのですよね。オゾン層,地球温暖化,人口爆発,

資源枯渇,どれを取ってもぞっとする話ばかりじゃないですか。これだけ人間は無茶をして

きているのですから,このへんから人類滅亡のシナリオが出てくるように思えてなりません」

 

「ノストラダムス関係の予言本なんて,あまりにインチキだと思います。この前古本屋で立ち読み

したんですが,10年くらい前の本には,1995年に核戦争が起きるなどと,本気で書いて

あるわけです。でも,起こってないですよね。そして5年くらい前,冷戦が終結してからは

核ではなく隕石,まさにトレンドですよね。そして,最近出版された本では,1999年は崩壊の

はじまりで,本当の人類滅亡は2020年にやってくるなどと書いてある。まあ,全部同じ人が

書いているわけではないですが,これってむちゃくちゃですよね。これでは単に本の売上を

伸ばそうと思って書いているとしか思えません。真実はどこにある,そう,どこにもないんです」

 

「最近寒い事件が多いですよね。去年は連続毒物事件。その前は少年犯罪。世紀末,まさに

世も末のような気がします。社会がこんなで,子供達はあんなで,,私には未来が見えません。

ノストラダムスはその辺を予言していたのかもしれません」

 

「予言ですか,そんなこと心配してどうするんです?,もし本当にそんなものが

降ってくるんだったら,考えたって仕方がないわけで,結局,なるようにしかならないんだから,

私は無視するようにしています」

 

「エドガーケーシーの予言について聴いたことはありますか。眠っている間の無意識の予言

だと言うことです。それによると,やはりノストラダムスと同様の世紀末予言がされているそうです。

しかも,彼の場合はより具体的な内容ですし,実績もよりはっきりしています。

…日本は水没するそうです」

 

「なにか,怪しい宗教団体を見るような気持ちです。よくありますよね,カリスマ性のある教祖が,

人を集めて世界の終焉を説く。実際事件に発展する例があったり,集団自決してしまうことが

あったり。オカルト教団と呼ぶことが多いですかね。…ノストラダムスも,似たようなもの

ではないでしょうか。まあ,宗教ではないですが…,実際,ノストラダムスをネタにして,

信者を集めようとしたり,教祖が本を書いたりするケースもあるようです。まあ,信教の自由の

ある国ですから,それについてどうのこうの言うつもりはありませんが,いたずらに人の不安を

あおって煽動,洗脳する…おそろしい話ですよね」

 

「日本ではノストラダムスばかり有名ですが,本当の意味で最も有名な予言といえば,

やはりヨハネの黙示録でしょう。聖書の中にある文章ですが,これも世紀末の予言と言われています。

解釈はいろいろとできるのでしょうが,それが成就しつつあるとも言われています。内容的にも,

ノストラダムスよりこちらの方が恐ろしいです」

 

「予言詩が成就するかどうかより,むしろその予言を成就させようと暗躍している秘密結社の

存在の方が,恐ろしいと思います。つまり,予言が実現されるかどうかではなく,それを実現

させようと動いている集団があるということなのです。それも,かなり強い集団のようです。

予言は成就します。いえ,成就させられるのです」

 

「解釈によれば,ノストラダムスの詩の中には,21世紀以降を書いたと思われるものも含まれて

いるそうですね。つまり,大丈夫なのではないでしょうか」

 

「空から降臨する“恐怖の大王”。これはやはり地球外知的生命体,つまり宇宙人のことを

言っているのだと思います。SFではないですが,これだけ宇宙は広いのですから,生き物が

地球にしかいないと考えること自体がおかしいことだと思います。やはり,宇宙人の降臨。

さあ,人類はどうなってしまうのでしょうか」

 

「予言の解釈では,中東あたりから最終戦争が勃発する可能性が高いそうです。

…まさに火種のある地域ですよね。クウェート戦争の時もひやりとしましたが,現在はさらに

一触即発の状態です。今年の7月ですか,大いにありますよね。もちろん,東アジアの地域も

無難な地域とは言えないのですが…」

 

 ……

     ***

         TERROR

               ***

 ……

 

「信じるか信じないかは自由だけれども…」

「そんな非科学的な…」

「この危機に直面し,今こそ人類規模での協力が…」

「そんな根拠のない話…」

「実際成就した事実があるのだから…」

「これは科学を超えた話。人間の科学などたかが知れている…」

「いたずらに不安を煽るようなことは…」

「人類は間違った方向に進んでいる…」

「どうしてこの事実を受けとめようとしないんだ…」

「どうだっていいや…」

「人間に対して,神罰が下る時期に来ている…」

「人間のタガなどすぐにはずれる。過去にもおろかな戦争を繰り返してきている…」

「宇宙人?子供の話みたいだ…」

「多くの予言者の予言は,一つの方向を指している…」

「詐欺,まがいものだ…」

「明るい明日は見えるか…」

「うそだと思うなら,“諸世紀”をよく研究してみるがいい…」

「だからどうしろというんだ…」

「人類に残された時間は少ない…」

「これ以上地球を破壊し続ければ,まもなく…」

「布教活動のようなものだ…」

「ただ成就しないよう,祈るのみだ…」

「人類は試練のときをむかえるが,滅びるわけではない…」

「勝手な解釈でしかない…」

「もうそこまで来ているのに…」

「真実はいったい…」

 

 そして“議論”の行方は…

 

  以上  1999.01.01

                    PN  一光輝瑛

 

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