一光 輝瑛
「おお,村田じゃないか。ひさしぶりだなぁ!」
「!」
「しばらく会ってなかったよな,元気だったか」
「……」
「…おい,どうしたんだ,村田」
「…」
「おれだよ,楠木だよ。…まさか忘れたんじゃないだろうな」
「本当に楠木,か」
「当たり前だろう。いったいなんだっていうんだ」
「…お前,生きていたのか…」
大学時代のゼミの仲間で,久しぶりに集まることになり,わざわざ新宿まで出てきた。
卒業してもう5年が過ぎたが,それでも仲間達の顔を見ると,当時の記憶が蘇ってくるから不思議だ。
10人ほどの小人数だった関係か結束が固く,年に一度くらいは集まっている。
前回は事情があって出席できなかったから,仲間達に会うのは2年ぶり。
さあ,みんな集まってくるのだろうか。
「おいおい,冗談きついな。確かに久々かもしれないけどな,勝手に殺さないでくれよ」
「……」
「まったく,きつい冗談だ」
「いや,冗談じゃないって。俺はてっきりお前が死んだものだと」
「勘弁しれくれよ。俺は死んでないって」
「でも,確かにそう聞いたんだけどな」
「…おいおい,誰だよ,そんなこといった奴は」
「去年集まったときだよ。お前が交通事故で死んだって…。その話をみんなでしたんだ」
「…まいったなぁ,確かに事故って入院したけれども,死んだことにされちゃあかなわないな」
「でもそういうことだったよな,長野」
「え,そうだったのか」
同じくゼミ仲間の長野が会話につれ込まれる。
「確かに楠木が事故って入院したって話はあったけど,死んだとまでは聞いてないぞ」
「え,俺はてっきり…」
「大きな事故に巻き込まれて,半身不随で再起不能って聞いてたけれど,
あれは大丈夫だったのか,楠木」
「おい,勝手に重症にするな。確かに去年は入院してドタキャンしたけれど,そんな重症じゃないって。
1週間ほどで退院したよ」
「俺は右足が吹っ飛んだって,聞いていたけどなぁ」
ぼそり,と加えたのは,同じく同級生の山本であった。
「お前ら,そろいもそろって冗談きついな。俺はこの通りぴんぴんしてるよ。
確かに事故ったけどな,別に後遺症もないし,単に1週間入院しただけだって」
「でも,ダンプと正面衝突だろう。よくそれだけの怪我ですんだな」
「え」
「ああ。高速の分離帯を突き破って,真正面から激突って聞いたぞ」
「そうそう。時速は150キロを越えていたって…」
「…なんだよ,その話。俺の事故とまるっきり違うぞ」
「え,そうだったのか」
「中央高速を通行止めにするくらいひどかったって,そういう話だったんだけど」
「おいおい,違うって」
「じゃあ,ダンプといっても一般道で…」
「だから,それも違うよ。お前らいったいどこで何を聞いたんだよ」
「でも,去年集まったときはそういう話だったよな」
「ああ,とにかく派手な事故で,再起不能だって…」
「…わるいけど,俺の事故は,単に電柱に激突しただけだって…」
「へぇ,そうだったのか…」
「という事は,事故の後,そのまま海に転落したっていうのも嘘なんだな」
「…」
「まあ,なにはともあれ,よかったよ。楠木が無事だったってことで」
「…」
「ああ。足がなくなったって聞いたときは,かわいそうなことだと思ったけど,
嘘だと聞いて安心したよ」
「…」
「俺なんか,楠木はもう死んだとばかり思っていたから,生きてこうして会えるなんて,
なんだか得した気分だな」
「……」
以上 PN 一光輝瑛
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