追撃
ベイン中尉の操るDAブランシュルはホバーの噴出音を残してヌベール市の大通りを通過した。今は北へ向かう道路を僚機を操るメンデル少尉と走行している。道路とはいっても、前大戦の影響で殆どアスファルトが剥げ地面がむき出していた。足型駆動装置からのホバーで走行するDAにとっては影響はないのだが、タイヤで走行するトラックにとっては走りにくい道路であり、またそのタイヤの後を所々に残していた。
「分かれ道か」
分技した道で、ベインはモニターで拡大した道路に残る複数のタイヤ跡の中に比較的新しい跡を見つけると分技の片方に機体を向けた。
「メンデル少尉はそっちを、俺はこっちを行く。発見次第ぶっつぶせ。」
「了解、支援ヘリには?」
メンデルは後続で上空からバックアップするはずの支援ヘリの心配をした。
「大丈夫だ。支援ヘリはそれなりにやる。それに昼間戦闘だ、よほどのことがなければ支援はいらんだろ。ブランシュルで十分だ」
2機のブランシュルはそれぞれの道を向かった。
「正解だな」
ベインはつぶやくと路面をチェックしつつ先に進んだ。
サリバンの運転するトラックの燃料はもう底をつきかけていた。
「中尉、ガスが空になっちまう。夕方までもたないぜ。」
比較的まともになった道路を飛ばしつつ荷台に声をかけた。
「軍曹、近くに町はあるか?」
エンジンの騒音が響く荷台で地図を広げながらパトリックが聞いた。
「この先に小さな町があったはずです。先の大戦で壊れちまったんで、その地図にはのっちゃいません。」
パトリックが広げていたのは連邦から支給されているF−67士官用フランス州地図であった。
「中尉!」
声をあげたのはビューリック曹長だった。
「なんだ?」
「追撃されてます。途中で設置した1つ目のチェッカーに反応ありです。」
「分かったビューリック。軍曹、町があるのは確かだな?」
ビューリックからマーボル軍曹に体をむける。
「確かです。ですが廃墟です、ガスなんて残ってやしませんよ。」
「どちらにしろ、その廃墟の町から先には適当な町がない。路上で追いつかれるよりは廃墟で迎撃した方がいいだろう。幸いトラックには十分な弾薬がある。ビューリック、次のチェッカーに反応があったら追撃速度を計測して報告しろ。各自は携行装備をチェック。名もなき町で迎え撃つ!」
その廃墟は、ほとんど町とは言い難いほど崩壊していた。しかし、大戦後各地で行われている連邦の復興事業がここでも開始される予定であったのかこんな片田舎の町にも連邦委託企業のマークが入った作業車両が数台乗り捨てられていた。その割には士官用地図に乗っていなかったのは不思議だが、連邦の作戦部にとって崩壊した町は作戦拠点にもならないと思っているのだろう。
サリバンが運転していたトラックは目立たないように廃ビルの中に隠されていた。そこから離れた町の大通りを囲むかたちに降下猟兵達は配置されていた。町に侵入した機構軍の車両を包囲し、車両を破壊、あとは兵員に対してゲリラ攻撃する作戦だ。トラックに積まれていた弾薬は豊富とはいわないまでも、対車両用のランチャー用の弾薬が少量とサブマシンガンの弾薬があった。これだけで、昨夜から歩兵銃撃戦をくぐり抜けた兵士達の士気はあがった。実際あの時の銃撃戦闘での戦死者の数はサブマシンガンの弾薬が少なかったことにも原因があったからだ。
「俺達、生き残れるかな」
大通りの右側に面するカフェの残骸に身を潜めていたモーデルはゲイルにつぶやいた。
「なに弱気になってんだよ、銃弾はたくさんあるんだ、昨日みたいなことにはなんねぇさ。追撃ったってパトロール部隊だろ。戦車にしろ戦闘輸送車にしろ一発ATMぶち込んじまえば、あとは機構軍のヒヨコばっかだ。撃ちまくりゃいいぜ。」
ゲイルは銃把を叩きながら言った。
大通りの左側にあるスーパマーケットの割れたショーウィンドの影には3人の降下猟兵がいた。
「俺達の前を通過したら、お前と俺で車両を破壊する。ジーンはその間俺達の援護、車両を破壊し終わったら反対側のゲイル達が斉射する、俺達は撃ちながら移動、後退して軍曹に合流する。」
ロドリーは、ジーンとバレックを前に確認した。バレックとジーンは頷く。
ベインのブランシュルはかなり前進していた。
「そろそろ追いついても良いはずだが?」
すでに単独では危ない領域にさしかかっていた。すなわちここは連邦の領域で何時連邦のDAが現れてもおかしくない。DA用にはまともな装備をしていない今のブランシュルでは危なかった。
「単独偵察というわけでもあるまいに。」
ベインは苦笑しつつブランシュルを進めたが、舗装された道路にトラックの痕跡を見つけることができず、時間的にも確信を持てなくなったベインは突然にも通り過ぎてきた途中の脇道を思い出した。
「奴ら脇にそれたか、クソッ。」
ブランシュルは急停止すると元来た道を戻り始めた。