|
|
|
|
ヴィンテージレッドのRX−8。 その流線形の車体には似つかわしくない、道の右から左を往ったり来たりと、どことなくぎこちない運転に、助手席に座るかつての「リーダー」飯田圭織はずっと進行方向を凝視してハンカチを握ったままだ。山がほんのりと秋色に染まりかけていることを確認する余裕すらない。
20世紀から21世紀の変わり目、日本はとあるアイドルグループに釘付けになる。
その当事者であるモーニング娘。のメンバーが、最後のリーダー飯田の呼びかけにより5年ぶりに一同に会することとなる。 「飯田さん、まだまだ到着しそうにないですから旅館のおばさんに貰ったオニギリとピーナッツでも食べませんか?」 (・・・・・・・・・)なんなんだその取り合わせは、と思いながら飯田は睨みつける。こちらはカーブにさしかかる度に、文字どおり手に汗握っているというのに。ハンカチはすでにぐっしょり濡れていた。 飯田はとてもじゃないが、差し出された食べ物を胃袋に入れるという行為に及ぶ余裕はなかった。これからもこの、罰ゲームような運転が続くと思うと。
助手席に深く沈み込む飯田。 「それでは次の曲は、モーニング娘。っ!カーステレオの電光板に、その曲名が表示される。 運転手のあの娘は、それを見てリーダーの顔色をうかがっているようだ。結局最後まで歌うことができなかった、そして今ではもう歌うことができないその曲をどう思っているんだろう、と。 飯田もそれを察した。優しい笑みを浮かべながらボリュームまで手を伸ばす。 その曲が大音響となって車内に流れた。
本当に歌が大好きだった。歌うことに命さえかけていた、と今でも思う。でも既にその居場所を奪われたことも、飯田は十分理解していた。
解散から5年。
リーダー・飯田圭織。
そのうち今日集まるメンバーは9人。
生きているメンバーはあの一人を除いてすべて集まることになる。 |
|
|
next to ... 第2話 石川と加護 |
|
|
最初に戻る ■ トップページ |