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吉澤はあらためて、屋敷の中を見渡した。 重厚という言葉がふさわしい玄関の扉を開くと、目の前に広がるきらびやかなシャンデリアがぶら下がっているエントランスホールに度肝を抜かれる。2階の廊下が見える吹き抜けで、ホール右手奧のらせん階段から上に登ることができるようだ。 一週間前にここからの電話で、石川は「すっごい大豪邸でね、もう、すっごい広くてね、もう」とかなり興奮ぎみで要領を得ない話をしていたのを思い出したが、たしかにそれも無理ない。 しかし豪邸というよりもこの赤レンガに包まれた洋館は内装も含め、数年前流行った、とあるホラーアドベンチャーもののビデオゲームの舞台に雰囲気が似ていて、吉澤は正直なところあまり住んでみたいとは思えなかった。 (つんく♂さんも、よくこんな屋敷買ったよなぁ・・・)
この屋敷は、モーニング娘。の総合プロデューサーであるつんく♂が、解散直前にタダ同然(というのはオーバーだが)の破格値で知り合いの不動産業者から購入したものだった。つんく♂は地下室をスタジオに改造し、山奥の閑静な洋館を創作活動の拠点とする予定だったという。
そんな折、つんく♂もこの娘。同窓会の計画を知り積極的に協力を申し出た。
事件から約5年もの月日が経過したとはいえ、あの爆破事件は日本犯罪史上最大のミステリーとしてモーニング娘。ファンならずともいまだに様々な憶測を呼んでいる。事件直後にいくつか出版された検証本は軒並みベストセラーを記録し、毎年事件があった時期になるとテレビでは特集プログラムが組まれ、これも高視聴率。トップアイドルを巻き込んだ大衆の虚々実々の憶測は、今もなお続いていた。
だからこの都心から遠すぎず、それでいて人里離れた洋館を同窓会の会場に飯田が選んだのは、吉澤もある程度理解はできる。しかしこの、いつ幽霊が出てもおかしくない雰囲気は・・・。
吉澤はその時、二階の廊下の奧に白い布のようなものが横切ったのが見えた。 「・・・!」吉澤は、普段から大きな目をさらに見開いた。 それに呼応するかのように青白い顔の目も一瞬こちらを向いたようだった。 悲しげな目を。 そして、その白い布は音もなくねずみ色の廊下の壁の中へ消えていったように見えた。 吉澤は汗がどっと吹き出した。 (やめよう)激しくかぶりを振ったが、昔のように髪が頬に触れることはない。 (幽霊なんているわけない。幽霊なんているわけない。非科学的なことを考えるな。非科学的なことを考えるな)しかしその青白い顔がどこか見覚えのある顔だったため、吉澤はずっとその目を記憶から引き剥がすことができなかった。いつも振りまいていた笑顔が、ふと素に戻るときにみせるあの悲しげな彼女の目。
広々としたエントランスホールに、一人ぽつんと佇んでいる吉澤の口から大きな溜息が漏れた。
ホール正面奧に、居間へと続く大きな扉が見える。 |
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next to ... 第6話 石川 |
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