第8話グラデ左 グラデ右辻

「モーニング娘。ファイナルライブ in 武道館」

 5年あまり活動してきた少女たちの一世一代の晴れ舞台。
 ステージは2部構成となっており、第1部はモーニング娘。派生ユニットであるタンポポ、プッチモニ、ミニモニ。そしてメンバーのソロ曲などのステージ。
 休憩を挟んで、第2部でモーニング娘。のシングル全曲(メドレー含む)と特にライブで人気の曲。そして、つんく♂がこの舞台のために書き下ろしてくれたオリジナル卒業ソングを最初で最後のお披露目。
 フィナーレではOGメンバー全員から花束の贈呈。
 歴代メンバーが勢揃いし、ファンにラストの挨拶。
 そして、モーニング娘。という名の大河ドラマに終止符を打つという段取りになっている。

 その日、朝から日本武道館の周りは、騒然とした雰囲気に包まれていた。
 重苦しい小雨混じりの天気。
 あまりにも多すぎるモーニング娘。のフリークに対して、その歴史が終わる瞬間をじかに目にすることができるのは僅かに1万人。
 プラチナチケットは前日の深夜までネットで争奪戦が繰り広げられて、2階最後列でも3万、良席には80万円の値がつけられ、これは日本コンサート史上最高の落札額を更新した。
 また、チケットが手に入れられない者も武道館の周りに集結し、最後まで解散の悲しみを多くのファンと共有したい人々でそこは溢れ返っていた。
 ついには機動隊まで出動する騒ぎとなる中で、第1部のユニット限定ライブがスタートした。

T E N

 加護は一番手、タンポポのライブが熱狂のうちに終了し、更衣室へと急いだ。
 現在ステージ上ではミリオンユニット・プッチモニ登場し、観客のボルテージは最高潮に達している。
 薄暗い通路をくぐり抜けていく先に、更衣室がある。
 その扉の前にカラフルなミニモニの衣装にすでに着替えた辻が、仁王立ちして待ちかまえていた。
 わざと目を逸らして、横を通り過ぎようとする加護。
 辻は加護の腕を掴んだ。

「痛っ!」
 すぐその手を振り払おうとする加護。
「ごっ、ごめんあいぼん! でね! でもね!」
「・・・何っ」
 ステージを終え汗だくになりながらも加護は、キッと鋭い目で辻を睨み付ける。
「あの、あの! つぃは、あいぼんにあやまろうとおもって・・・」
「なにをや」
「だっだからね、こなぁいだのケンカの・・・」
「あ〜もうセイセイするわ、解散したらこのアホヅラ見んで済むかと思うとな」
 加護は辻の言葉を切って更衣室に入っていった。
 その怒りをあらわすかのようにバタン!、とわざと大きな音を立てて扉を閉める。

 辻はその場でしゃがみ込んで、声もなく泣き崩れた。
 ぽたぽたと、落涙が床を濡らした。

 そこへ同じくタンポポのライブを終えた矢口、飯田が帰ってきた。暗がりで丸まっている小さくてカラフルな塊を見つけて、ギョっとした飯田が声を張りあげる。

「どーしたの、辻!」
「いいらさん・・・」
 涙でボロボロになった顔で飯田を見つめる。矢口も飯田に続く。
「また加護とケンカしたのか?」
「いやっなんでもないんれす。なかなおりしたんれす。これはうれし涙れす」
「そっ・・・」
 飯田はそんな子供でも分かるウソをついて、と言いかけたが、もうコンサート自体は動き出している。時間は止められない。ああでもない、こうでもない、とこの場で口論している暇はないのである。
 ミニモニ。は多くの子供たちに元気を与えてきたユニットだ。最後も笑顔で送り出してやりたい。
「そっそう・・・じゃあ、ミニモニのスタンバイしっかりとね!」
「カオリン、それどころじゃあ・・・」
「矢口もこのあとミニモニ。控えているじゃない!
 ここは私にまかせて、はやく着替えなよ!」
「う、うん・・・」
 矢口も渋々更衣室に入っていった。

 武道館爆破事件まで、あと4時間あまりでの出来事である。

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