第9話グラデ左 グラデ右飯田

 プロデューサーのつんく♂が、この最後の晴れ舞台のために書き下ろしてくれたラストソングは、意外にもしっとりとしたバラード。

 飯田は、解散コンサートの10日前にこの曲を受け取った瞬間、身体に電気のような衝撃が走ったのを覚えている。
 自分たちがこれまで乗り越えてきた苦難、友情、成功・・・そういったメッセージが歌詞の中にすべて込められている気がした。辛いこともあったけど、それを乗り越えるたびに何か大きなものを手に入れてきた。
 そんな自分たちの「いままで」と「これから」の心境―――悲しいけれど、前向き―――な気持ち。
 ダンスレッスンが終わったあと、全員がその場で一枚の歌詞カードを見ながらデモテープを聴いた。
 曲が終わって、どのメンバーも顔を見合わせて頬が濡れてない娘はいないことを確認した。
 間違いなく、この曲は名曲になる。
 この曲を演るために私はモーニング娘。に入ったんだ、とさえ飯田は思った。
 飯田だけではない。
 まさにモーニング娘。5年間の集大成を締めくくるに相応しい曲だと誰もが感じていた。

T E N

 そして当日。
 武道館に訪れている観衆の全てがその充実したパフォーマンスに酔いしれて、テンションは最高潮に達していた。
 第1部が終了し、2時間の休憩を挟み第2部がスタートする。
 観衆、メンバー、スタッフ。一丸となって大団円へのカウントダウンに胸を躍らせていた。
 しかし・・・。

 結局、飯田・矢口の説得も功を奏さず、加護と辻はこの時点に及んでも仲違いをしていた。
 仲裁役のはずの年上メンバーも、最後ということもありこの時だけは自分のことで精一杯。
 ピリピリとした雰囲気の中、終始メイクや食事、仮眠・段取りの確認など自己管理にそれぞれの時間を割いていた。
 結局、休憩中一度も二人を話し合わせるという機会がもてなかった。
 観客の目にはどう映っているのだろうか。
 飯田のそういった心配をよそに、最後の気合い入れに臨む。

「がんばっていきまーっ、しょい!」
「しょい!!!!!!!!!!!!」

 こうしてモーニング娘。として最後のステージが始まった。

T E N

 観客席は今か今かと、はちきれんばかりの期待感であふれていた。
 暗闇に一筋の光が差し込む。
 そこへステージ中央の迫(せり・舞台下から上へあがってくる設備のこと)から登場してきた飯田・安倍の二人。津波のような歓声が押し寄せる。
 オープニングナンバーは「愛の種」
 このCDの手売りからモーニング娘。の歴史は始まったのだ。
 歌が2番になるとステージ両袖から保田・矢口の二人。苦しい時代を共に精一杯で乗り越えることによってオリジナルメンバーに認められるようになった1次追加組。
 2番サビになると後藤、そして石川・吉澤・辻・加護がステージ中央の階段脇から登場。この5人がモーニング娘。に加入してから国民的アイドルという肩書きを冠することがあたりまえになってきた。
 最後に高橋・紺野・小川・新垣の5期メンバーがステージ両脇から二人づつ。
 5人から始まったモーニング娘。の見納めはこの13人が務めるのだ。

 「愛の種」が終わると「抱いてHOLD ON ME!」
 モーニング娘。初のオリコンチャート第1位を穫った曲。あの抱き合ってその喜びをメンバー同士で分かち合ったのがつい昨日のように感じる。

 ステージに13人が並びMC。
 それぞれが今日の想いを自分の言葉で精一杯ファンにぶつける。
 ファンもそれに全力で応える。

 ここから「サマーナイトタウン」「真夏の光線」「ふるさと」などの初期シングル曲と、後期に発表された「Doit! Now」「ここにいるぜぇ!」などのメドレーに突入する。中にはセールス的にはそれほど振るわなかった曲もあるが、ひとつひとつの曲に思い入れがある。
 むしろ自分たちの歌に対して、一番真剣に見つめあっていた時期の曲なのかもしれない。

 舞台が暗くなる。
 しばらく間があき、観客席がざわめき始めたその時。
 中央ステップに構えている人影が、全方位から一斉にスポットライトで照らされる。
 そこにはギラギラのロングコートをまとった13人の少女が映し出されたかと思うと、誰もが聴き慣れたあのイントロ。
 「LOVEマシーン」だ。
 初めてのミリオンヒット曲。
 観客の血が一気に煮えたぎった。

 ここからはもうジェットコースターのようなセットリストだ。
「恋のダンスサイト」「ハッピーサマーウェディング」「インスピレーション!」「Say Yeah!? もっとミラクルナイト」「Mr.Moonlight〜愛のビックバンド」「そうだ!We're alive」「DANCEするのだ!」
 と、ライブで盛り上がる曲がメドレーを交えて続く。

 「恋愛レボリューション21」
 この曲を最後に初代リーダー中澤が卒業。大きな柱を失った。
 それからは本当に、皆が話し合って考えぬいてグループを支えあっていたように飯田は思う。

 そして、オーバーヒートし過ぎた会場を一度クールダウンさせるかのように「Memory青春の光」「I WISH」
 これら曲が流れるといよいよ「その時」が近づいていることを痛感し、多くのメンバーが目を潤ませている。観客席にも感極まって肩を震わせながらもサイリウムを振るファン達で異様なテンションで包まれている。

 そこへ「ザ☆ピ〜ス!」
 石川の台詞の部分がオリジナルと違っている。

「青春の1ページって、私の人生ではまさにモーニング娘。でした。
 あ〜あ、愛しい仲間たち。これからもずっと忘れないでね」
 石川の笑顔。
 他のメンバーがうなずく。
「ピ〜ス!」が終わると、MC。
 感極まって自分の言葉をうまく伝えられないメンバーや、最後まで笑顔で元気にシャウトするメンバー。それぞれのキャラでそれぞれの気持ちを伝えきった。
 飯田が力一杯宣言する。
「本当に今まで応援してくれてありがとう。
 最後はみんなで話し合ってこの曲に決めました。
 私たちの想い、ぜんぶ受けとめてください。
 モーニングコーヒー
 ステージ両側から吹き出している無数のシャボン玉が彼女たちを取り囲んでいる。
 何度くりかえしたか分からないライブ。
 何度歌ったか思い出せないこの曲。
(でも本当に最後なんだ。本当に)
 歌が終わりに近づくにつれてステージが徐々に暗くなってゆく。
 スポットライトも消され、いよいよ娘。たちの姿が見えなくなった。
 そしてオリジナルと違いフェードアウトしていく曲。
 光も、音も、メンバーも、完全に消えていった。

 絶叫に近いアンコールの声がくり返される。
 予定調和じゃない、本当の意味でのアンコール。
 メンバーの名前を叫ぶ者。その場で崩れ落ちる者。ファンの様子はそれぞれだが、みな想いは同じだった。
 しばらくして聞き慣れないイントロが武道館に響きわたった。
 あのラストソングだ。

「ありがとう」
「ホントの、ホントに最後の曲です」
「聴いて下さい」
「今日の為の、一回きりの歌です」
 娘はステージを取り囲むように設置された花道をゆっくりと歩きながら、娘。としての最後の曲を名残惜しそうに手を振りながら歌う。
 武道館にいる観衆にとっては初めて聴く曲にも関わらず、すすり泣く声とが不思議なハーモニーとなって武道館内を包み込んだ。
 暗がりに揺れる無数のサイリウム。
 スポットライトを当てられたメンバーも、溢れ出る涙をぬぐおうとする者は一人もいなかった。感謝の気持ちを込めて、惜しげもなく今の姿をステージ全体、身体全体を使って見せようとしていた。
 曲のほうもクライマックスを迎えてメンバー全員がステージ中央奧の階段から降りてくる。

 事件は突然、起こった。

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