|
|
|
|
加護は最初、何が起こったのかよく分からなかった。 暗い武道館が一瞬明るくなったかと思うと、階段を降りる途中だったはずの自分がいつのまにかステージ脇で倒れ込んでいる。轟音と火薬の臭い。 (いけない、歌の途中だ。歌わなくちゃ)加護はとにかく転んで恥ずかしい、立ち上がろう、と思った。 でも立ち上がれない。 上半身を起こそうとすると背中に激痛が走り、床に這いつくばる。立ち上がるといった以前に、腰から下にまったく感覚がない。
そして歌おうにもそこに音楽は流れていなかった。
そこでようやく、なにかとんでもないことが起っていることを知った。
白煙が薄くなってきて、ようやく少しづつではあるが視界がひらけてきた。 (背中なのに、胸がある・・・?)つまり首とは逆に身体はこちらを向いているのだ。 ハッとそれが何を意味するのか理解し、加護は目を背けた。
客席に目を向けると、ついさきほどまで一体となって熱狂していた観衆の姿はなく、横の非常口や奧の出口に逃げまどう人々が集中して押し問答になっているようだ。 「いやああああああああああ!!!!」観衆がひと塊になっている別の場所から、誰かは分からないがメンバーの壮絶な悲鳴が聞こえた。 その集団の中で何が行われているのか・・・想像したくはなかった。
ステージの下ではそれとは別の男たちの群れが、狼のような目をこちらに向けている。
さきほどの絶叫。 (なんとかしなきゃ)だが蛇に睨まれたカエルのように一歩もその場から動けない。頭の中が真っ白になる。
その時だった。
加護を支えている足場が崩れて、舞台セットの下へと転げ落ちた。 「のの・・・?」辻希美が、そこにいた。 |
|
|
next to ... 第11話 辻と加護 |
|
|
最初に戻る ■ トップページ |