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「なぁなぁ、じぶん名前おしえて」 「・・・つぃのぞみれす」 「辻さんかぁ。 「まじれすか」 「なんか、ミンナ凄そうなひとばっかりやなぁ」 「・・・」 「メッチャ不安やなぁ、辻さん練習とかは一緒にしような」 「ホンマぁ? やろやろ」 「あはは、関西弁マネせんでもええって。 「へぃ! 加護さんれすね!」
(なんで)加護は瓦礫の山に半身埋もれながらも、視線の先にある辻の伏せている頭をしっかりと捉えていた。 (なんでこんな時に昔のこと思い出すんや)辻の背後には、基材に燃え移った炎がゆらゆら揺れている。 辻も、辻までもが―――。 だが次の瞬間、加護はわが耳を疑った。 「ううう・・・あああ・・・!」周囲の轟音に混じり聞こえてくる、あどけないうめき声。 その声の主の上半身が、ごく僅かながら震えている。
辻が生きている!
加護は残された気力を振り絞り、腕の力だけでその先を突き進んだ。 「のの!」 「あ・・・あいぼん・・・?」辻は、産まれたての赤ん坊のように重い自分の首を起こした。 顔はススで黒くうす汚れていたが、奇跡的にもカスリ傷ひとつ負っていない。 「しっかりせぇな! 立てるか?」加護は自分が歩けないことなどすっかり棚に上げて、辻の身を案じた。 だが次の瞬間、加護は信じられない光景を目にする。
辻のうつろな表情の背後に見える、彼女の足があるはずの部分にボロ雑巾の様に床に散らばっている布。
あの爆発で辻の脚は、完全に吹き飛ばされていた。
なんで―――。
加護が絶望に打ちひしがれたその時だった。 「あ・・い、ぼん・・・」 「!?」信じられないことに辻は笑って、加護の血まみれの手を握りしめてきた。 あれだけ泣き虫だったはずの、辻が。 もちろん意識が朦朧としているのが、その表情からも読みとれる。 「つ、つぃは・・・あいぼんに・・・あやまらなきゃ・・・」 「のの、喋べんな! もうすぐしたら誰か助けにきてくれるから!」 「なあ、あいぼん・・・こなぁいだ、ひどいこといって・・・ごめんら・・・」 「アホぉ! こんな時に何ゆうとんのや!」 「ゆるして・・・くれる?」 「あたりまえやろぉ! 「れへへ・・・よかったぁ・・・」加護の小さな瞳から、堤防が決壊したかのように涙が溢れ出てきた。 なんてつまらないことに意地を張ってきたのだろう。
徐々に辻の息づかいが荒くなる。 「あいぼん・・・これからも・・・ずっと・・・いっしょに」 「ああ! 一緒や! ずっと一緒に歌っていこうなぁ! 「つぃは・・・つぃは・・・あいぼんと・・・むすめをやれて・・・」か細い声でテヘヘ、と辻は笑った。 「たのしかったれす」加護は握りしめている手がすう、と弱まっていくのを感じた。 辻はまるで眠るかのように、加護の手に静かに頬を寄せて目を閉じた。
そして、その言葉を最期に辻希美が目覚めることはなかった。 「ののぉぉ!!」加護な何度も何度も、のの、のの、と叫んだ。 「たった今ずっと一緒やゆうたやないかぁ、のの・・・そんなぁ・・・のの・・・先に死ぬやつがおるかいなアホぉ、のののアホぉぉ!!」あとは、ただ辻の額によりかかり泣き崩れるだけだった。 加護の記憶はそこで途切れている。
辻を更衣室の前で振り切ったあのあと、加護はロッカーの中に頭を押し込んで声を殺して泣いた。
こんなに涙を流した日はなかった。 |
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