第15話グラデ左 グラデ右加護と後藤

 数日が経過した。
 その日もずっと朝から仲良く話し込んでいた加護と後藤の二人だったが、さすがに話疲れたのかちょっとした沈黙が訪れた。揃ってぼんやりと窓の外を見つめる。
「加護ちゃん」
 夕日が差し込む二人きりの病室で、少し寂しそうな目をした後藤が静寂を破り話しかけてきた。
 あした加護は、病院に運び込まれたとき以来の2度目の大手術が控えている。難しいオペだが、これが成功すればなんとか自力で歩けるようになるとのことだった。
「あのね、黙って突然いなくなるのはやっぱり駄目かなぁ、と思っていたんだけど」
「明日、退院するんでしょ?」
 後藤の予想に反して、加護は笑顔のままだった。
「・・・知っていたの・・・」
 加護は、元マネージャーから聞いていた。

 結局記憶がもとに戻るという見通しがたたない後藤は、数カ月から無期限のアメリカ留学が決定したことを。そこで治療やカウンセリングを受けながら、英語・音楽・ダンスパフォーマンスの勉強をするらしい。そして、本人もそれを希望しているとのことだった。
 確かに、日本にいても後藤を知らない人間はいない。(皮肉なことにあの爆破事件によって、モーニング娘。自体の認知度はさらに広がった)
 そんなこの国では、まともな治療は期待できないし、それよりもアメリカでエンターティメントの勉強をしてイチから芸能人としての地固めをするのは、案外この閉塞感に包まれた現状を打破するためにはベストといわないまでも、ベターな策なのかもしれない。
 記憶を失ったといってもやはりスターである。そういった芸能関係での仕事に興味を持ち始めているのを、加護も最近の後藤との会話の中から感じていた。

 しかし、それが意味するのは二人の別離。
 事件後の唯一の心の支えであった後藤を見送るのは、加護にとってもつらいことだった。
 だけど、加護は別れの時が来ても笑顔で見送ろうと決めていた。
 自分もいつまでも後藤に頼っていちゃいけない。
 未来の扉を自らの力でひらかなきゃ、と。

「私なら大丈夫っ。後藤さんと過ごしたこの何日間、すごく勇気貰ったです。
 ありがとうございました」
 ぺこり、と加護はアメを貰った子供のようにお辞儀した。
「わたしも、私も・・・加護ちゃんに会えてよかったよ・・・」
 後藤は小さな加護の身体を抱きしめて、ぼろぼろに泣き崩れた。
「忘れないから、絶対・・・向こうにいってもメール書くよ・・・えぐえぐっ」
「えへへ、後藤さん子供みたい、カワイイ」
 だが、この時の加護は知るよしもなかった。
 後藤のぬくもりを肌で感じることができたのは、これが最後だったということを。

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