|
|
|
「飯田さん、オニギリ食べないんですかぁ? 美味しいのにぃ」助手席に座っている飯田は、とてもじゃないが紺野から差し出されるオニギリを口に運ぶ気にはなれなかった。
山奥の洋館で開催されるモーニング娘。同窓会へ向かう途中、ひとやすみのつもりで路肩に停車したクルマの中。
カーラジオからは、モーニング娘。の最後のシングル曲が流れている。 「ハイッ!やけに声の明るいDJ。 他人事ながらもなにかイイことでもあったのだろうか、と紺野は思った。 紺野は、歌唱力を買われてモーニング娘。に加入したわけではない。歌に関しては、まったくといっていいほど思い入れがない。だが、それを口にすることは決してなかったわけだが。 しかし今日集まる初期のメンバーや高橋などは純粋に歌が好きだから、そしていつかはソロで、ということを夢見ていたメンバーがほとんどだった。 バラエティーやトークといった歌に直接関係ない仕事に日々振り回されながらも、いつかはこのDJのようにシンガーとして生きていくことを夢見ていた。 しかしモーニング娘。を卒業したメンバーの誰一人として、あのラストソングを超える曲を歌う者はついにあらわれなかった。そしていつしかモーニング娘。といえば、その事件性ばかりがクローズアップされ、数々の名曲も人々の記憶の底に埋もれていった。 紺野は、時の流れの残酷さを感じずにはいられない。
長時間の運転に、体力に自信のある紺野もさすがに疲労を覚えてか車の外に出た。初秋のすがすがしい空気を思いっきり胸いっぱいに吸い込んで、体全体を伸ばす。 「飯田さん、大変です」 (何よ・・・)助手席の窓から、面倒くさそうに身を乗り出す。 紺野が車体の下を指さしている。 「なんか運転しづらいと思ったら、タイヤがパンクしていたみたいです!」飯田は、眩暈で倒れそうになった。 |
|
|
next to ... 第19話 保田と新垣 |
|
|
最初に戻る ■ トップページ |