第19話グラデ左 グラデ右保田と新垣

 モーニング娘。解散に最後まで納得していない様子をあらわにしていたのは、意外にも最も新しいメンバーである新垣里沙であった。

 新垣はモーニング娘。に憧れて若干12歳でこの世界に入ってきた。
 同じく中学1年生で加入した辻や加護のように、同世代やその下の小学生層から圧倒的な支持を得る少女タレントとしての道が開けたかに見えた。
 しかし加入直後に発覚した、とある疑惑。世間の風当たりは、決して生ぬるいものではなかった。
 周囲の焦燥、困惑、嫉妬の渦に巻き込まれながらも、自分が抱くモーニング娘。のイメージを崩すまいと健気に前に突き進んだ。ある意味、自分に酔いしれていたといってもいいかもしれない。

 一度、メンバー最年長の保田圭と楽屋で二人きりになったことがある。
 用事のある時以外話すこともない二人だが、珍しく保田のほうから話しかけ てきた。

「ニーガキさぁ、もしモーニングが解散したらどーすんの?」
「・・・・・」
「ほら、例えばさぁ、ソロ歌手になるとか、女優になるとか」
「ん・・・保田さんは、歌ですよね・・・」
「ま、まあ昔からの夢だったからね・・・成功するかどうかは分からないけど・・・って私のことはいいの!
 アンタはどう思っているのかなぁ、と思って」
「・・・え〜っと、私は今が楽しくていっぱいいっぱいなので・・・」
「考えたことない?」
「・・・はい・・・」
「・・・・」
「・・・・」
 そこからまた二人は沈黙してしまった。
 本音しか言えない不器用な性格であることは保田も新垣にも共通していえることだが、二人の将来ビジョンはまったく違っていた。
 新垣はモーニング娘。である自分以外を思い描けなかった。

T E N

 モーニング娘。の原点はロックボーカリストオーディションの落選組を集め、アイドルグループとしてデビューさせたことに始まる。
 テレビのバラエティ番組の1コーナーで、しかも素人丸だしの企画モノ。
 当初は誰もがこのまま泡沫タレントとして消えてゆくものだと思っていた。
 そのテレビを観ているほとんどの視聴者はもちろんのこと、番組プロデューサーさえも。

 しかし彼女らは何かが違っていた。
 決して華麗な輝きではなかったかもしれないけれど、ギラギラした何かを持っていた。
 とあるメンバーはインタビューで断言した。

「私たちはグループで歌うために結成したんじゃありません。
 その先にあるソロデビューを目指して頑張っているんです」
 グループとしての結束力よりも、自分たちの夢を優先するとエゴむき出しでアピールする。従来のアイドル(偶像)のイメージはそこには感じられない。
 周囲に振り回されながらも自分たちの野望に向かって汗まみれ泥まみれに突き進む、常に本音で向き合う人間臭さが多くの共感を呼んだ。それが、初期のモーニング娘。人気の原動力になっていたのかもしれない。
 しかし「LOVEマシーン」で大ブレイクを果たし、国民的アイドルとなってからは・・・。

 保田は、決してメンバー内では人気のある方ではなかったし、グループ内での自分の存在意義を見いだせず、長い間迷走を続けていたこともあった。
 それでも音楽が、歌うことが大好きだったから、歌手である自分を精一杯楽しもうと思った。そして、そのための努力を惜しまないつもりだった。
 その情熱は、最近になってようやく実を結ぶようになってきていた。

 そんな保田だがブレイク後に加入してきた、いわゆる4期メンバー・5期メンバーには当初違和感を禁じ得なかった。
 もしかしたら彼女らは歌手になりたくて、モーニング娘。になったんじゃないかもしれない。
 モーニング娘。になりたくて、モーニング娘。になったのかもしれない。
 そんな疑念を払拭するために、保田は新メンバーが加入する度に、二人きりになると新垣に投げかけたのと同じような質問をくり返してきたのだった。

「ねえ、もし私たち今解散しちゃったらどうする?」
 当時最年少ながらその大人っぽい金髪で周囲の度肝を抜いた、加入したての後藤に問いかけた。
 少し間を置いて、恥ずかしそうに、しかしハッキリとした口調でこうこう答えた。
「今は力不足だけど、いずれソロで歌いつづけたい・・・です」
 若干13歳でこう断言した後藤を、保田は5歳年下ながらもある意味頼もしく思えたし、表面に出さないまでも同じ世界に生きるプロとして認め尊敬するようになった。
 その後、4期メンバーが加入した時も石川・吉澤・辻・加護に一人づつ別の機会に同じ質問を浴びせたが、意外にもしっかりとした返事が返ってくるので、年齢が若いからといって甘く見ていた自分を保田は恥じたのだった。
 それだけに、この新垣の返事に保田はショックを受けた。

 モーニング娘。の解散が決定的となる3ヶ月前の出来事である。

グラデ右 next to ... 第20話 新垣

グラデ右 最初に戻る ■  トップページ