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最初に、矢口のほうが安倍を見つけた。 矢口はその日、久しぶりにお台場のテレビ局にいた。犯罪ドキュメンタリーの番組に、コメンテーターとして出演するためである。 その番組では一切「あのこと」に触れていないものの、あきらかに5年前の武道館爆破事件に遭遇した矢口を意識した底意地の悪いキャスティングだ。
矢口がその番組のリハーサルのために楽屋から出ると、慌ただしいテレビ局の裏側の雑踏に紛れて、廊下の奧に立ち話をしている安倍がスターとしての輝きを放っていた。マネージャーと付き人を従えて、プロデューサーとおぼしき人物にプリントに印刷されている内容を指さしながら細かい確認作業をしている。おそらく秋から始まる新ドラマの打ち合わせでもあるのだろう。
安倍は、なぜか小川以外の元モーニング娘。メンバーとの接触を避けているように矢口は以前から感じていた。電話、手紙、それにメール・・・この時代直接会わずとも、連絡をとる方法はいくらでもあるはずだ。
しかし矢口がその姿を直接目にすることは滅多になく、安倍は事務所の忘年会などのイベントに出席することもなければ、意図的に自分とのスケジュールをずらしているとの噂も小耳に挟んだ。
事件後も芸能界に残ったモーニング娘。のメンバーは、当初の予定から大幅に減って、たったの4人。
あれほど加入当時風当たりが強かった2期メンバー3人のなかで、いち早くキャラを確立した矢口。しかし皮肉なことに、仲間がいなくなってからの彼女は伸び悩んでいた。
「武道館爆破事件・メンバーで唯一無傷の矢口真里が男漁(あさ)りの日々」
矢口は怒りを通り越して悲しくなってきた。
なぜあの事件の当事者メンバーの中で私だけがバッシングの対象になるの?
何もかもが裏目にでて、悩みぬく日々が続いた。あれほどまでの事件の直接の被害者にもかかわらず、ダーティなイメージが払拭できない。
そんななか届いた、飯田からの同窓会の通知。
あの「おもいで」はこの胸の中に仕舞っておきたい。
その翌日。
安倍もあの招待状を受け取ったのだろうか。
もしかしたら安倍も、あんな同窓会に出席する気などないのかもしれない。
そんなことを考えていると、立ち話をしていた安倍に突然パッと目が合った。 「矢口さん、お久しぶりです」 「あ、ああ・・・久しぶ・・・」安倍が何の前触れもなく矢口の耳に口を近づけて、こうささやいた。 「同窓会、参加するよね?」矢口が安倍の声を直接聞いたのは、後になって考えてみるとあの最後の武道館コンサート以来である。 実に5年振りの会話。 だが何だろう、この不思議な感触は。
その時矢口が感じた違和感の正体が明らかになるのは、まだ先の話である。 |
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