第24話グラデ左 グラデ右加護と吉澤

「あいぼお〜ん♪」
「よっすぃ〜☆」
 加護が石川に連れられて、裏庭から帰ってきた。居間への扉を開けるなり、待ちかまえていたように吉澤が両手を広げて再会の抱擁をする。
 もっとも、加護は車椅子に座ったままので、吉澤が前かがみになって抱きしめなければならないという石川から見ればやや不自然な形ではあったけれども。
 白いスーツに包まれた吉澤を見上げて、加護は無邪気な微笑みを浮かべる。
「ほんとに男になったんやねぇ」
「ホントは今日ぐらいは、あの頃を思い出してセクスィーよっすぃ〜路線でも良かったんだけどね」
「でもあの時からよっすぃーカッコ良かったもん」
「男になりたいとか言ってたもんねぇ〜」
 つんく邸にいる面子が、石川・加護・吉澤の3人になってパっと華が咲いた。
 それもそのはず、この3人―――正確には辻も含めた4人―――は同期加入のメンバーとしてモーニング娘。の黄金期を共に支えた仲間同士である。
 次々と新しい話題が、爆竹のように弾けてゆく。
「俺たちの優しい先輩や、可愛い後輩たちはまだ来ていないわけ?」
「う〜ん、リーダーは遅れているけど・・・運転手がアノ子だから・・・」
 一同は顔を見合わせて苦笑した。
「わはははは、まあ事故とかで遅くなっているわけじゃなければいーや」
 一段落ついて、吉澤は豪奢(ごうしゃ)なソファに深く腰掛けた。
 エントランスホールから続くこの大広間は屋敷のほぼ中央部分にあたり、いくつかの白地をベースにした細かい紋様の花柄のソファが並べられている。どうやら、ここでつんく♂は来客を迎えていたようだ。
 この空間には、ホテルだった頃のロビーの雰囲気がまだ多く残されている。
 正面には2階へ昇る階段、その両脇にはそれぞれ食堂と厨房へとつづく扉が見える。
 ここも吹き抜けで、天井からぶら下がるシャンデリアと階段の踊り場の上に構えている大きな古時計―――そして古時計の対面に位置する2階の壁に堂々と貼られている油絵―――が目を引く。
 タタミ1畳分はあろうかというその巨大な油絵は、ひと目でリーダー作だと分かる(のちに本人から100号サイズはあると言われたが、吉澤は絵の大きさの単位をよく知らない)。

 暗いおどろおどろしい背景の中央に、純白の階段が見える。
 階段の上はわずかに開いた扉から、虹色の光が洩れている。
 それを取り囲むように13人の天使が、巨大なキャンパスを所せましと飛び交っている。もちろん、その天使の顔は、モーニング娘。最後のメンバー達。
 この屋敷をつんくが購入したと同時期に、飯田が記念に贈ったものだった。

(皮肉な絵だな)
 と吉澤は思う。
 キャンパスの中央に描かれている、飯田曰く「未来」を意味しているという階段は、まるであの爆破で木っ端微塵に砕け散った武道館コンサート・中央ステージの階段を思わせる。
 たしかにあの階段で娘。たちの「未来」は大きくねじ曲げられてしまった。
 そんな暗い連想をせざるを得ないこの絵を、なぜつんくは一番目立つこんな場所に飾っておくのだろうか、と吉澤は渋い顔する。
 いや分かっている。あんな事件さえ起こらなければ、そう連想することも無いのにということも。

 西洋アンティーク調の装飾がまぶしいテーブル。その上のピカピカに磨いた灰皿の中には、吉澤が吸ったタバコの吸いがらがひとつだけポツンと寂しそうに横たわっている。

「あと誰が来るの?」
 石川と加護が顔をしかめる。
「2通目の招待状読んだ?」
 ここで石川が言った招待状とは、モーニング娘。同窓会の開催のお知らせに「出席する」と表明したメンバーのみに送付された、詳しい日程や内容が書かれてある手紙のことだ。
「読んでなかったら来れないよぉ、日時と場所が分からないじゃん」
「それ以外は?」
「何か書いてあったっけ?」
 大ざっぱというか、そういうところはヘンに男らしい。
 この竹を割ったような性格があい変わらず吉澤なんだな、と石川は苦笑した。

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