第25話グラデ左 グラデ右吉澤と加護

「自分の他に誰が来る?」
 吉澤のその質問に答える代わりとして、石川は居間の隅に行き陳列棚の下の引き出しから何かを取り出した。
 それは数通の手紙だった。
 その手紙の束を無言で吉澤に差し出す石川。
 加護がフォローを入れる。
「やっぱり石黒さんとか・・・福田さんとかは、ほとんど周り知らない人ばっかりになるから来づらいみたい」
 吉澤は手紙をぱらぱら読んでみた。
 かつて同じモーニング娘。の看板を背負った者といっても、武道館の爆破事件に直接遭遇した者とそれを外側から見ていた者とでは、やはりその意識の差は大きいのだろう。
 遠回りだが、もうモーニング娘。にはあまり関わりたくない、という本音が彼女らの文面には見え隠れしていた。

T E N

 武道館爆破事件直後は被害を受けて大怪我をしたメンバーが大半だったことや、犯人・動機もはっきりしない状況の中で、自然とマスコミのターゲットはモーニング娘。の元メンバーに向けられた。
 その有り様はここにいるメンバーは知りようもなかったが、事件をステージ袖で目撃した、いわば傍観者の一人に過ぎないにもかかわらず、あたかも当事者として報道され執拗に取材攻勢を受けた元メンバーたちは、かなり精神的に疲弊したのは事実だった。
 所属事務所としても、事件の被害者である解散時のメンバー自身にマスコミが直接接触するのをシャットアウトし(その時は、まだ事件後も大いに使い道があると事務所は思っていたらしい)意図的に元メンバーに関心がむかうように仕向けた様子も見てとれた。
 彼女らも微妙な立場で、事件と向き合ってきたのだ。

 もう関わりたくない―――グループ脱退後も芸能界を続けていた(あるいは復帰した)あの二人には、特に激しいマスコミの攻勢にさらされ、その気持ちはもしかしたらここにいるメンバー以上に強いのかもしれない。
 手紙を流し読みしながら、吉澤が言う。

「じゃあ、市井さんや・・・中澤さんは・・・」
「来ません」
 加護が鬼の首でも穫ったかのように、自信満々で宣言する。
「子育てに忙しい、杉本さんちの裕ちゃんも来れませ〜ん♪」
「そっかぁ・・・名字変わっちゃったんだよね・・・」
 ある手紙の封筒の裏には、しっかりと「杉本裕子」と書かれてあるのを見て、あの歌のセリフが頭をよぎり吉澤は思わず吹き出しそうになった。
「この手紙のメンバーは来れないってこと?」
「うん、不参加の手紙ってこと」
「そうなると、けっきょく現役メンバー中心になっちゃうね・・・」
「よっすぃー、それヘンだよ。解散したのに現役ってのもね」
「う〜ん、じゃあ・・・あの事件にあったメンバーってこと?」
 吉澤がぽろりと漏らした台詞に、3人の間に張りつめた糸のような緊張が一瞬走った。

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