第27話グラデ左 グラデ右吉澤と加護

「私はね、あの・・・事件のことが話題に出るのを覚悟の上でこの同窓会に参加しようと思ったの」
 吉澤はこの屋敷に来てから2本目のマルボロに火をつけた。
「あれ?
 なんだか調子狂うなぁ、いつもは自分のことオレって言っているのに」
「いいんじゃない? 女の子よっすぃーで」
 クスクス、と口に手を当てながら石川は笑う。
 アイドルを卒業して5年経った今でもブリブリの女の子・石川に言われると、吉澤は意地でも男キャラを通したい気分になってきた。
「俺思ったんだけどさぁ、今日はいい機会だと思う」
 吉澤の固い決意のようなものがその口調から伝わってきたので、リラックスしていままで話をしていたほかの二人も、きゅっと顔を引き締めた。
「誰しもが、あの事件で傷ついた。程度の差はあるけれど・・・だけど、どこかでフッ切れないといけないと思うのよね。
 俺も正直、恐かったんだよ、今日来るの。っていうか、今でも恐い。あの時のことが蘇ってくるような気がして」
 改めて言われてみればそうかもしれない、と石川は思った。
 例えば、事件後もずっと友達として交流のある石川はあまり違和感を感じないが、思えば今日集まるメンバーのほとんどは加護が車椅子に乗っている姿を初めて見るはずだ。
 目にみえる形で、爆破事件の後遺症を引きずっている加護の姿を。
 ほかのメンバーはミニモニ。で激しいダンスを踊っていたころの加護の姿のほうが、やはり強く印象に残っているはず。
 吉澤も表情にこそ出さなかったが、最初にこの屋敷での加護を見たとき、過去の惨劇という事実が重く肩にのしかかってきたのではないか。
 現役の頃と、現在の彼女とのギャップ―――それは石川は意識はしていないつもりだが、もしかしたら自分で知らず知らずのうちに抑制して意識しないようにしていただけなのかもしれない。
「でもイイ思い出も悪い思い出も・・・あの時のメンバー同士が話し合うことによってなんか毒が抜けそうな気がするんだよ。
 自分で言っていてよく分からないけど」
「分かるよ」
 石川も、この同窓会に―――単なる懐古主義だけで終わるのではなく―――唯一未来につながる希望を見いだせるとしたら、そこだと思った。
 吉澤の説明は相変わらず言葉足らずだが、気持ちは十分伝わってきた。

 傷の舐め合い? 確かにそうかもしれない。
 でも、周囲の人間がいくら励ましてくれたって、そこからは「同情」以上のものは何も生まれない。あの事件に遭遇した、そして何年も同じ苦労を分かち合った仲間でないと「同情」の向こうにある「何か」を理解できないのではないか。それが、今日集まるメンバーたちにとって立ち直るきっかけになってくれれば―――

 でも加護は・・・。

 うつむいたままだ。
 まだ迷いがあるのだろうか。
 でも本人も分かっているはずだ。あの事件の時のメンバーが集まれば決してその話からは逃れることはできない。
 辻の思い出だって。
 後藤との思い出だって。

「ピンポ〜ン♪」
 そこで玄関のチャイムが鳴った。
 一同、顔を見合わせた。
「キタ―――――――――!!」
 加護の表情が急に明るくなって、叫んだ。
 車椅子のハンドリムを元気いっぱいに回して玄関に向かう。

 それを見ながらあんがい杞憂に終わるのかもしれない、と石川は安堵の溜息を漏らした。

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