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9月23日午後2時。 保田はその日の仕事を終え、いつものスタッフとの反省会兼おやつの時間を無理言って中止にしてもらった。 どうして?のスタッフの声に「同窓会っ」とだけ答えておいたのだが、おそらく彼らは中学校や高校の同窓会を想像しているに違いない。
武道館爆破事件から5年の月日が経過した。
あの事件のあと、病院で目が覚めた保田を待ち受けていた残酷な現実。
病室の保田の周囲には鏡やガラスといった反射するものが、一切置かれていなかった。 (それほどまでに、私は酷い顔になってしまったの・・・)他のメンバーの運命を知らされた。 ほぼ即死だったという辻と新垣。 自分と同じく全身に火傷や深いキズを負った吉澤。 未だに死線をさまよっている小川。 一生車椅子の生活かもしれない加護。 観客に陵辱を受けた石川。 飯田も―――かなり深い傷を負ったという。
しかし、そんな話は保田にとって何の慰めにもならなかった。
数週間が経過し、それに対する回答が出される日がやってきた。 (これは私なんかじゃない・・・!)それからはまさに地獄だった。 昼夜問わず泣き叫んだ。病室においてあるすべての物に当たり散らした。 自殺未遂も1度や2度では済まなかった。拘束衣を着せられたこともある。
誰も私の気持ちなんて分かってくれるはずがない。
スポットライトの世界に生きた者が、理不尽に日陰者の生活へと転落したのだ。病室には様々な破片が散乱しており、足の踏み場もない。 「もう、精神病棟に行くしかないだろう・・・」保田は叫び疲れてベッドで寝たふりをしていたのだが、医者が看護婦にそうつぶやくのを聞き逃しはしなかった。 その夜、保田は病院を脱走した。
保田は芸能界の時に築いておいた人脈を巧みに使い、様々なアドバイスの中からアメリカでの皮膚移植手術という賭けを選択することにした。 「だって、圭ちゃんの歌声をもう一度聴きたいから」
・・・本当に嬉しいときは涙すら出ない。
生きよう。 |
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