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わけが分からないまま、反射的に吉澤は203号室のドアノブに手をかけた。 ロックはされておらず、あっさりとその扉は開かれた。 まず思ったのは・・・矢口の部屋は自分の「Moonlight」の構造に似ていること。
そして叫び声の元である矢口は、ドアを開けてすぐ左手の床にへたり込んでいた。 「あっ」吉澤が思わず声に出してしまった原因。 それは、矢口が下着と白い太股をあらわにしていたことだった。緑と黄色の太めの横縞模様のトレーナーに視線を向けても、否応なくその下の、純白で可愛らしいパンティに目がいく。その下着に片手を引っかけているところを見ると、たった今まで脱いでいたのを慌てて履いたようでもある。 矢口の足の先はまだ、ドアが開かれたままのユニットバスルームの向こう側に放り出されている。よく見るとその足に紺色のオーバーオールらしき衣服が絡まっているのが分かる。
その異様な光景に気をとられて一瞬遅れたものの、矢口の表情がやっと確認できた。
のけぞって倒れている矢口は、左手を下着に手をかけたまま右手をバスルームの中へ指さし、ぎこちなく後ずさっている。やがてその無理な体勢が災いしたのか、小さな体躯をごろん、と床へ転がす。彼女の口から必死になって絞り出された声が、吉澤の耳にも届いた。 「血が、血が・・・!!」何か尋常ならないことが起こっていることを瞬時に察した吉澤は、部屋の中、そして矢口が指さしているバスルームの中へと駆け込んだ。 「うわ、臭っ!」 「やっぱり見ちゃダメッ!」吉澤が鼻を押さえたのと、その吉澤を後ろから矢口が抱きしめるように押さえつけてそう叫んだのは、ほぼ同時だった。 だが吉澤もトイレの室内に充満する当たり前の臭気のほかに、矢口の絶叫の元となったものを確かに視界に捉えていた。
白い洋式便器の内側一面が、真っ赤な液体で染まっていたのだ。 「ダメったら!」バタン。
一瞬で矢口がその便座のフタを閉じたので、それ以上のことは分からなかった。 「な・・・何・・・一体・・・?」矢口が息を切らして便座に覆い被さっているのを、吉澤は茫然と見下ろす。 これが矢口と吉澤の、5年振りの再会だった。 |
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