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そこにいるメンバー全員が居間のテーブルをグルっと取り囲んで、加護が読みやすいようにと真ん中に置いた「赤い日記帳」に注目する。 パッと見、ちょっと小さめの百科事典という印象。 「これ、よくスタジオに置いてあったコミュニケーションノートかなぁ?」高橋が加護に向かって問いかける。 「たぶん・・・ウチらの知っているのより、チョット豪華だけどね」コミュニケーションノートといえば、そこに書かれてある文は唯一この屋敷で本格的なレコーディングをおこなった、後藤のものである確率が高い。高橋や紺野もこの屋敷に来た際に、わずかな間ではあるが後藤のレコーディングには立ち会った。が、このノートの存在は知らなかったと言う。 その後藤がこの屋敷に初めて来て、どんな体験をしたのか。 どんな想いで解散後の芸能活動に期待と不安を織り交ぜながらも、立ち向かっていったのか・・・?
いまとなって知るすべはない。
それを見て、紺野が一言。 「コミュニケーションのスペルが違いますね」 「コミニュケーション?」 「コ・ミュ、です。あと“COMMUNICATION”は名詞なので、正しくはコミュ・・・」 「いや・・・そうじゃなくて・・・てか、それはいいから・・・」高橋が早くノートの中身を、と加護を促すその時だった。
2階東棟からなにか「ぅぎゃあ」と金切声が聞こえてきたのだ。 「・・・? 今誰か叫ばなかった?」 「矢口さん?・・・」石川と紺野がお互いの顔を見つめ、そして2階の廊下の奧へと視線を移動させる。 早くコミュニケーションノートの中身を知りたいという好奇心と、一体何が起こったんだろう?という疑問が複雑に絡み合う。 普段から仏頂面の飯田の眉間にシワが寄って、さらにオコゼのような顔になり不機嫌なオーラを放っている。 「あのおー!」ソファに座りノートを読むのを心待ちにしていた高橋が、突然立ちあがって上の階に向かって大声をはりあげる。 「なにかあったんですかあー!」やや間があって、何かバタバタした足音が聞こえてきたあとに淡いクリーム色のワンピースに身を包んだ(相変わらずどこか素朴なファッション)安倍があらわれた。 東棟の奧から飛び出してきて、2階の渡り廊下の手すりに身を預け乗り出す。 語気を荒げて、それでいて冷静な表情で右手と頭をぶるぶる振って、否定のジェスチャーと共に言う。 「ううん、な、何でもないからっ」 「ゴキブリでもいたんですか〜?」石川が首を傾げながら、キョトンとした表情で安倍に返す。 「うん、矢口がゴキブリにビビって叫んだんだよ。驚かせてゴメンね」鈍感なメンバー・敏感なメンバーとも誰もが、安倍のセリフは後付けの理由ということを察した。だがそれが嘘だったとしても、他に矢口が叫び声を上げるような理由がほかにあるだろうか? 命にかかわるような? 安倍が大丈夫だと言っている。だったら、この場はそれでもいいような気が加護はした。 苦笑いのまま安倍は廊下の奧へと向かいかけて、また足を止める。 「ほ、本当に何でもないからっ」振り返って、安倍はもう一度念を押す。 そしてそのまま小走りに、矢口の部屋の方へと去っていった。 「ふ・・・ン・・・」居間にいるメンバーが何か釈然としない、それでも目の前のノートが気になるため精一杯納得しようとしているような様子だった。 「ここゴキブリいるんですか・・・?」紺野がポケっとした表情で石川に尋ねる。 「うん、厨房・・・台所にね、何回が見たことある」高橋が、そんなことはいいからっ、と相変わらずこの雰囲気の流れにイマイチ乗り切れてない紺野をキッと睨み付ける。 加護も今は紺野を無視する方向で、ページをめくる。 水を差された形になったが、ゴクリ、とメンバー全員が輪になって頭を合わせて唾を飲み込む。そして改めてノートに集中する。
「7月8日」
最初の1ページ目の日付。「あの事件の1ヶ月前だ・・・」と誰かが言った。
最後の一文をみて加護が口元を弛ませたが、またすぐに真剣な顔つきに戻るのを紺野は見逃さなかった。
とりあえず、どこから話そうか。
誰が最初に口火を切るのか、お互いがチラチラ上目遣いで他のメンバーを牽制する。 |
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